「愛の平等」のために闘った5年間の記録。映画を観た日本の同性婚訴訟の原告は何を思ったか

日本でも今、闘っている人たちがいます。映画『ジェンダー・マリアージュ』から日本での同性婚実現について考えるイベントが開かれました

2013年6月、アメリカで歴史的な判決が下された。

「同性カップルには、異性カップルと同じ婚姻の権利を与えられるべき」という判断を、連邦最高裁判所が示したのだ。

2013年6月26日、同性婚を認める判断が示され、連邦最高裁判所の前で喜ぶ原告と弁護士たち
2013年6月26日、同性婚を認める判断が示され、連邦最高裁判所の前で喜ぶ原告と弁護士たち

この裁判を起こしていたのは、カリフォルニア州に住む2組の同性カップルだ。

カリフォルニアでは2008年5月に、州最高裁が「同性結婚を認めないのは州の憲法違反」との判決を下し、同性カップルが結婚できるようになった。

しかし、実現からわずか半月後の同年11月に、結婚を男女間に限定する規定を盛り込んだ住民投票「提案8号(Proposition8)」 が、賛成多数で可決。同性カップルは再び結婚する権利を奪われてしまう。

提案8号が「憲法の定める法の下の平等に反する」として裁判を起こしたのが、冒頭の訴訟だった。連邦最高裁の判決の後、カリフォルニアでは再び同性カップルが結婚が可能になった。

この同性婚をめぐる歴史的な裁判を追ったドキュメンタリー映画がある。『ジェンダー・マリアージュ ~全米を揺るがした同性婚裁判~』だ。

映画では、原告カップルや弁護士たちが5年かけて提案8号を葬り去るまでの舞台裏が、鮮やかに描かれている。

同性婚実現を求める裁判は、日本でも始まっている。

2019年2月、平等な婚姻の権利を求めて、複数の同性カップルが札幌、東京、名古屋、大阪の4地裁で国を提訴。半年後には、九州でも訴訟が始まった。

提訴から1年2カ月たった今、裁判はどのように進んでいるのだろうか。

映画を観て提案8号をめぐるアメリカの裁判と日本の裁判の現状を比較しながら、同性婚について考えるオンラインイベントが、4月29日に開かれた。

イベントの参加者たち
イベントの参加者たち

映画を見て日本の原告が感じたこと

イベントには、現在日本の裁判で闘っている原告たちも参加した。

東京原告の小野春さんは、映画に出てくる女性カップルと同様にパートナーと子育てをしている。そのため、自分たちと重ねながら映画を観たと話す。

「映画では、随所に(原告カップルの)子ども達もうつっています。子ども達も一緒にこの裁判を闘ったんだなと思って、胸が熱くなる場面がとても多かったです」

(左から)原告の小野春さん、ただしさん、佐藤郁夫さん、こうぞうさん
(左から)原告の小野春さん、ただしさん、佐藤郁夫さん、こうぞうさん

同じく東京原告のただしさんは、映画を観て、訴訟は自分たちだけの問題ではないと感じたと話す。

「これは一人一人のLGBTQの人たちの人権に関わる問題。だから1日でも早く勝ち取らなければいけないなと思いました」

九州原告のこうぞうさんも、「映画の中で、同性婚で数百万人が救われるとコメントがあったが、それは日本でも同じ」と強く訴える。

「今生きている人たちだけじゃなく、過去に生きてきた人たち、これからも生まれてくる当事者を含めますと、何百万人といわずもっともっと多くの人たちを救うことになると思います」

日本の裁判、アメリカと何が同じで何が違うの?

提案8号をめぐる裁判では、かつて大統領選挙の結果を巡って法廷闘争に発展したブッシュ対ゴア事件で敵同士だった弁護士もタッグを組んで、同性婚を実現させた。

裁判を法律面からリードした、テッド・オルソン弁護士(右)とデビット・ボイス弁護士。2人はブッシュとゴアの裁判では、アドバイザーとして対立する立場にあった
裁判を法律面からリードした、テッド・オルソン弁護士(右)とデビット・ボイス弁護士。2人はブッシュとゴアの裁判では、アドバイザーとして対立する立場にあった

日本でも多くの弁護士が裁判に加わっている。現在進んでいる日本の裁判とアメリカの裁判の共通点や異なる部分について、弁護団の加藤丈晴弁護士が説明した。

1. 同性婚によって、誰かに損害は生じるのか

アメリカの裁判で争点の一つになったのが、「同性婚を認めることによって、損害が生じるのか」ということだ。

これは、日本の裁判でも争点のひとつになっていると加藤弁護士は話す。

「私は札幌の弁護団員なので札幌の話をしますが、札幌の裁判所もその点に強い関心を持っています。そして原告、被告双方に『同性婚を認めることによって、どういう問題が生じるのか』を明らかにするよう求めています」

「私たちはもちろん、同性婚が認められないことによる様々な問題を主張しています。しかし国側は『そういった具体的な不利益については検討したことがないので答えない』という反応をして、具体的に明らかにしていません」

「映画では被告が『(損害があるかどうか)わからない』という態度を取っていましたが、ほぼ同じやりとりを日本の裁判所でもしています」

2 .「婚姻は子どもを産むためのものである」という主張

映画では、同性婚を阻止しようとする被告側が「子どもを守るため」という主張をする場面もある。

日本でも、国が「結婚は子どもを作るためのもの」という主張をしていて、原告は強く反発していると加藤弁護士は話す。

「日本の裁判では、国が『結婚は生殖のためのものである』と主張していますが、実際には結婚は子供のできない夫婦の間でも認められるものですし、さらに子供を作らないと決めた方や、夫婦の片方が刑務所に入っているような場合でも認められます」

「そういった意味で、結婚は生殖のためのものであるという論理は破綻している、と私たちは裁判の中で述べています」

3. もし違憲と判断されたら、すぐに結婚式を挙げられる?

提案8号をめぐる裁判では、判決のすぐ後に原告カップルが市庁舎で婚姻届を提出し、結婚式を挙げた。

サンフランシスコの市庁舎で結婚式を挙げたサンディ・スティーアさん(左)とクリス・ペリーさん
サンフランシスコの市庁舎で結婚式を挙げたサンディ・スティーアさん(左)とクリス・ペリーさん

多くの同性カップルが待ち望む瞬間だが、日本の裁判はアメリカの裁判と争点が異なるため、たとえ違憲判決が出てもすぐに結婚はできない、と加藤弁護士は説明する。

「カリフォルニアでは提案8号が可決される前に、すでに同性カップルは結婚できるようになっていました。その後提案8号で結婚ができなくなったのですが、『提案8号が合衆国憲法に違反する』という判決が下されたことによって以前の状態に戻り、同性カップルは結婚が再びできるようになりました」

「しかし日本の裁判ではまだ同性婚が認められていないので、私たちは『同性間の結婚を認める法律を国が作らないことが憲法に違反している』と争っています」

「ですから裁判に勝ったとしても、すぐに結婚はできるわけではなく、国会で同性間の婚姻を認める法律ができて初めて、結婚できるようにになります」

一人一人の声が後押しになる

今後のアクションについて、寺原弁護士は訴訟だけではなく、国会を動かす立法ルートでの働きかけも続けていきたいと語る。

「裁判だけではなく、国会を通して変えるというルートもあります。そのため去年からやってきたロビイングを今年も続けていきたいと思っています」

弁護団らで作る一般社団法人「Marriage For All Japan」は現在、新型コロナウイルス感染症で、LGBTQの人たちや家族や友人が直面している不安や困難についての声を集めるアンケートを実施しているという。

すでに多くの人が大きな不安を抱えていることが明らかになっており、問題を提起したいと寺原氏は話す。

「結果をデータとして示しながら、立法のルートについても強力に進めていきたいと思っています」

判決の日、ワシントンD.C.の連邦最高裁には大勢の人たちが集まった
判決の日、ワシントンD.C.の連邦最高裁には大勢の人たちが集まった

提案8号をめぐるアメリカの裁判では、連邦最高裁の判決が出る日に大勢のサポーターたちが裁判所に集まり、応援の声を挙げた。

東京原告の佐藤郁夫さんは、日本でも応援する人たち一人一人の声が同性婚実現に繋がると話す。

「少しずつ声をあげてくれることが僕らの力になります。ぜひこれからもよろしくお願いします」

北海道原告の国見亮佑さんは、5年という年月に先の長さを感じつつも、映画を観て未来のために頑張ろうという気持ちを強くしたと語る。

「映画を観て、4年とか5年って長いわねって思いながら、でも最後には映画のように感激して、結婚というものが勝ち取れればいいなと思いました」

各地の訴訟、どうなってる?

これまで札幌、東京、名古屋、大阪で4回、九州で2回開かれている裁判。それぞれの進み具合や裁判所の対応についても、各地を担当する弁護士が説明した。

<北海道>

3組のカップルが原告になっている札幌。「裁判所がとても積極的な姿勢を見せている」と加藤弁護士は話す。

「裁判長が提訴から2年以内に判決をすると断言していて、裁判所が判決までのスケジュールをすでに作っています」

「コロナの問題があるので予定通りになるかどうかはまだわかりませんが、スケジュール通りに進めば、来年の2月には判決ということになります。」

<東京>

原告の数が最も多い東京では、5月13日に予定されていた第5回の期日が、新型コロナウイルスの影響で中止になった。

これまでのやりとりの中で、裁判所の対応に驚かされることもあったと寺原真希子弁護士は明かす。

「訴訟の当初、原告の幼少時代のことや、婚姻が認められない苦悩など、一人一人の事情について話したいと言ったところ、裁判長がそういうことは夾雑物(きょうざつぶつ・不要なもの)と仰ったんですね」

「これには驚きましたが、個人の尊厳の大事さは原告の方々がそれぞれのストーリーを法廷で語っていただくということで伝わると思います。今後も個々のストーリーを法廷で尋問という形で聞いていただこうと思っています」

<名古屋>

名古屋も、5月8日に開かれる予定だった第5回の期日が延期となった。次回期日は6月30日を予定している。

堀江哲史弁護士は、裁判所の姿勢に変化を感じていると話す。

「形式的な反応しかしてこない国側に対して、裁判所は最初は事務的な対応しかしていませんでした」

「それに対してこちらが反論したところ、裁判所の方がやや積極的な態度になって、被告に『こういった内容の主張をしてください』と注文するようになりました」

(左から)北海道訴訟、東京訴訟、名古屋訴訟の原告や弁護団ら
(左から)北海道訴訟、東京訴訟、名古屋訴訟の原告や弁護団ら

<関西>

関西訴訟も、4月24日に予定されていた第5回の期日が新型コロナウイルスの影響で中止になった。次回の期日はまだ決まっていない。

大畑泰次郎弁護士によると、関西の裁判では、他に比べると進行が少し遅れている。

「大阪は、ほかの地裁より少し進行が遅くなっていて、国の第二準備書面(結婚は生殖を目的とするものという主張が書かれた書面)が、4月の期日で出される予定でした」

「そのため、これが繰り越しになるかなという感じです。もちろん我々としても順次反論の準備をしていきたいと思っています」

<九州>

九州は、2019年の9月に福岡在住の男性カップル、2020年3月に熊本在住のカップルが福岡地方裁判所に提訴した。

総力をあげて闘うために、2組とも福岡地裁で提訴していると森あい弁護士は話す。

「これまでに2回裁判があり、高校生から年配の方まで、幅広い年齢層の方が、裁判を見にきてくださいました」

「日本で同性婚実現のために何かしたいと思われる方は、ぜひ裁判を見にきてください。もし近くで裁判がなくても、どこの地域にも国会議員がいます。地元住民の声として国会議員に声を届けて、性別に関わらず結婚できる日本を早く、一緒に実現しましょう」

(上から)関西訴訟、九州訴訟の原告と弁護団ら
(上から)関西訴訟、九州訴訟の原告と弁護団ら

<これまでの訴訟>

2020年、世界的に流行した新型コロナウイルスは、LGBTQコミュニティにも大きな影響を与えています。「東京レインボープライド」を始めとした各地のパレードはキャンセルや延期になり、仲間たちと会いに行っていた店も今や集まることができなくなりました。しかし、当事者やアライの発信は止まりません。場所はオンラインに移り、ライブ配信や新しい出会いが起きています。

「私たちはここにいる」――その声が消えることはありません。たとえ「いつもの場所」が無くなっても、SNSやビデオチャットでつながりあい、画面の向こうにいる相手に思いを馳せるはずです。私たちは、オンライン空間が虹色に染まるのを目にするでしょう。

「私たちはここにいる 2020」特集ページはこちら。