民主党予備選に存在する、大きな隔たり【アメリカ大統領選】

ベトナム戦争の時の若者の動きと比べてみると...

民主党予備選での世代間の隔たりは驚異的だ。もし、49歳以上の有権者と彼らの高い投票率がなかったら、ヒラリー・クリントンにはこんなチャンスはなかっただろう。ニューヨーク州にあるマリスト大学世論研究所(MIPO)のリー・ミリンゴフ所長は、「年齢は、最も重要な要素です」と語った。

若い有権者は一般的に、理想主義的で非現実的である。そして、どのように世界が動いているかや、政治で何が実現できるのかを知らないと言われている。

今回は、バーニー・サンダースを支持している50歳以下の有権者の大半である「若者」のことは脇に置き、代わりに、より意味がある説明をしよう。それは、ほとんどの国の歴史において、重要な物語が信用されなくなっており、それによって政治的な可能性が広がっているのだ。そんなとき若者は、たいてい変化や選ぶべき選択肢をすぐに理解する。

ベトナム戦争が典型的な例だ。ベトナム戦争は、「共産主義という世界の脅威との存亡をかけた戦の真っ只中に、アメリカがいるのだ」という理由で正当化された。ベトナムの共産主義者たちは、存在を脅かす者、かつ、倒さなければいけない者と見なされた。たとえそれが、5万8000人のアメリカ兵の命と数百万のベトナム人、さらに大多数の死傷者、数十億ドルという代償と引き換えになったとしてもだ。

今となっては、この話が嘘だったことは明らかだ。ベトナムの共産主義者たちが戦争に勝利した1975年から40年以上の月日が経ったが、彼らはアメリカの安全を脅かすようなそぶりは一切見せていない。

しかし、反戦運動が盛り上がっていた時も、アメリカ人は世代間で分裂していた。それは単に徴兵が理由ではなかった。簡単に言えば、アメリカの若者は、与党及び戦争を正当化した嘘の物語を信じなかったというだけだ。若者は人生経験に乏しく、なかには政治や歴史についてほとんど知らない者さえいた。しかし、若者たちは、アメリカの年配者がほとんど理解できないような、とても大事なことを知っていた。

今アメリカで起きている世代間の隔たりも、同じような構造だ。若者たちは、冷戦の物語に深く影響を受けているわけではない。だから、イラクやシリア、リビア、そしてイランにおける戦争などを支持するヒラリーの外交経験も、彼らに強い影響を及ぼしているわけではない。それが分かっている人たちは余計に反発し、ヒラリーに不信感を抱き、サンダースを支持する原因になっているのだ。「テロとの戦い」は色々な面で根拠が薄いところがあるが、冷戦に代わって続いてきた私たちの国の軍事衝突は、正当化されたまま終わるように見えない。多くの人、特に現役を退く定年までまだ時間がある年齢の人たちは、政府の作る物語の真実に気づいている。

オバマ大統領は、過激派組織「イスラム国」(IS)について、「アメリカの干渉に起因する『イラクのアルカイダ』から派生した」と認めた。さらに、ウサマ・ビンラディンが司令官だったアルカイダも、アメリカによる初期のアフガニスタン侵攻から生まれたものだ。

若い人は年配の人よりも、「民主社会主義」というレッテルが、20~30年前の印象とは異なることを知っている。これは全国の世論調査で裏づけされている。サンダースは民主党内だけではなく、共和党候補者に対抗する上でもヒラリーに勝る結果を出している。この調査の回答者の多くは、サンダースに対する「民主社会主義」というレッテルは、大したことではないと思っている。それはドナルド・トランプのほんの何分の一しかサンダースのことを報じない大手メディアのおかげでもある。それにもかかわらず、無党派層の有権者(民主党の候補者が総選挙で勝つために必要な層だが)は、圧倒的にヒラリーよりもサンダースを好んでいる。

出口調査によれば、ヒラリーに票を投じた人は、サンダースに投じた人より恐怖に動かされて投票する人が多い。テロへの恐怖や、民主党の候補者が大統領本選挙で負けるかもしれないという恐怖だ。若い有権者は、このような理由でびくびくしたりはしない。若者は恐怖よりも希望のために投票する傾向が強いのだ。もし彼らが2008年のオバマの選挙の時と同じぐらい多くの人数で集まれば、再び歴史を創ることができるだろう。

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マーク・ワイズブロットは、ワシントンDCの経済政策研究センターの共同所長兼ジャスト・フォーリン・ポリシーの会長。近著に「Failed: What the 'Experts' Got Wrong about the Global Economy」(オックスフォード大学出版局 2015)がある。

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

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