「美しさ、艶めかしさ、凛とした強さ」。THE YELLOW MONKEYが令和に届ける「アナログ感」とは。

平成を駆け抜け、令和に向かって再び生まれ変わるバンドが大切にしたものは、音楽が心を動かす「手触り」だという。それは一体何なのか?
THE YELLOW MONKEY:ドラム・菊地英二、ベース・廣瀬洋一、ヴォーカル/ギター・吉井和哉、ギター・菊地英昭(文中敬称略)
THE YELLOW MONKEY:ドラム・菊地英二、ベース・廣瀬洋一、ヴォーカル/ギター・吉井和哉、ギター・菊地英昭(文中敬称略)
Kaori Nishida/HuffPost Japan

THE YELLOW MONKEY。言わずとしれた人気ロックバンドは、平成元年(1989年)の12月28日、現在のメンバーで誕生した。人気絶頂期の2001年に活動休止し、2004年に解散。2016年の再集結を経て、19年ぶり、平成の最後に送り出すのが、9枚目のオリジナルアルバムの『9999』(2019年4月17日発売、ATLANTIC/Warner Music Japan)だ。

キーワードの一つは「アナログ感」。平成を駆け抜け、令和に向かって再び生まれ変わるバンドが大切にしたものは、音楽が心を動かす「手触り」だという。それは一体何なのか?時代の移り変わりに今、届けたかった音楽とは。4人がインタビューで語った。

「『令和』は、新しいTHE YELLOW MONKEYに似てる」

「新しい元号の『令和』、僕は大好きですよ。昭和の美しさ、艶めかしさもあるし、凛とした強さもあるし、新しさもある。すごくイエローモンキーの新しいあり方に似てる。平成よりも合うと思いますね」(吉井)

グラムロック、ヘヴィメタルなど、メンバーが傾倒してきた洋楽ロック。それに絡みつくように響く日本の昭和の歌謡曲のエッセンスが、THE YELLOW MONKEYの音楽性を唯一無二のものにしてきた。一方で、解散直前の2000年頃はそれが逆に洋楽コンプレックスにも結びつき、苦しんだ時代もあったという。

しかし平成が終わる今、THE YELLOW MONKEYが大切にしてきた昭和の「アナログ感」がもう一度見直されるべき時代になっている。4人は今、堂々と、そう語った。

「平成って、今思えばすごくデジタルな響きを持った言葉じゃないですか。だから、逆に我々は昭和のアナログ感を大事にしてきた。平成になっているのに、軍人だの桜だのってね」(吉井)

吉井和哉
吉井和哉
Kaori Nishida/HuffPost Japan

バブル景気のまだ続く平成元年に誕生したバンドは、時代に流されない音楽を作ってきた。

1994年に発売され、初期の傑作と名高い3rdアルバム『jaguar hard pain 1944-1994』は、「戦死し魂だけがタイムスリップした若い兵士」を主人公にしたコンセプト・アルバムだ。

三島由紀夫を彷彿させるステージング、平和な時代をたたえる曲。それは、再集結後もライブのクライマックスへと登りつめていく、重要な場面で演奏されている。

「戦争なんかはやめて、次に行こうよってなっちゃってた時代が平成じゃないかな。でも、平成も終わるから。やっぱりまたそこに戻らなきゃいけない。デジタルを一通りやったら、やっぱりアナログ。オブラートに包まない歴史感が必要なんですよ。実のある時代に、肌触り感のある音楽を届けなければと思った」(菊地英二)

菊地英二
菊地英二
Kaori Nishida/HuffPost Japan

ニューアルバム『9999』は、アメリカ・ロサンゼルスの歴史あるスタジオでもレコーディングが行われた。機材に1950年代のものを使用したことなど「ヴィンテージ」にこだわったことがオフィシャルコメントなどでも強調されている。

指が弦に触れるノイズ音や、密閉されきっていないスタジオ空間で呼吸を合わせて鳴らした音。それらが音楽表現にさらなる奥行きを与えたのだという。一方で吉井はこうも話す。

「アナログ感といっても、昔を懐かしんでいるだけのバンドじゃないですから。もちろん最新の機械や新しい表現も取り入れて、適材適所に。そこを間違いないようにしていきたい」(吉井)

サブスク主流の時代でも、「音楽に『入っていく』力」のために

「アナログ感」というキーワードは、一枚のアルバムという存在についても語られた。今や若い世代の音楽の視聴スタイルはサブスクリプション(定額制のコンテンツ配信サービス)が主流となりつつある。

THE YELLOW MONKEYも参入しているが、一方で、一枚の「アルバム」という物質が与えるものを4人はこう考えているという。

「自分たちも、アルバムジャケットとかインナーを眺めて、アーティストの感情を受け取りながら音楽を聴いていたんで。音源だけも気軽でいいんですけど、音楽という芸術作品としてトータルなものがあって初めて言葉になる、世界ができるっていうのもすごく大切。音楽を聴く人がそこに没入する、入っていく力も必要じゃないかな。世の中全部、オートマチック、簡単、簡素になっていくから。でも人間って、本来はもっと感じるところがいっぱいあるはずだから、もっと音楽を有効に使ってほしい。曲間や並び、音楽に向き合う時に気構える気持ち。そういう気持ちもすごく大切だと思うから」(菊地英昭)

菊地英昭
菊地英昭
Kaori Nishida/HuffPost Japan

「再集結からの3年間を一つのドキュメントとしてまるっと聴いてほしいというところも強いですね。アルバムを聴くことで、そのバンドがより好きになったっていう実体験も自分たちにはあるし。より深く聴いて、多く想像してほしい。感じてほしい」(廣瀬)

「結局は、構ってほしいってこと!(笑)もっと構って、わかって!(笑)」(吉井)

「うん、要はそういうこと。ちょっといいかなって思う人は手軽にサブスクとかでも聴いてほしい。それも嬉しい。でもすごく好きになった時に、それだけじゃ寂しいじゃないですか。ジャケットとかライナーノーツを読みながら、肌で触ったりして、アルバムを感じられるから。そこで体感しているものと音楽っていうのは、無関係じゃないから」(菊地英二)

廣瀬洋一
廣瀬洋一
Kaori Nishida/HuffPost Japan

「正直な気持ちしか溢れ出てこない」

アルバムタイトルの『9999』は4人の「苦労」を並べて乗り越えていこうという気持ちを込めて名付けられたという。活動休止から解散、それぞれのソロ活動から再集結へ。さらに再集結からの3年で試行錯誤を重ね、ようやく発売にこぎつけた。前作『8』から実に19年ぶりとなる。

ヒリヒリした切れ味鋭い曲、歌謡テイストの強いメロディ、ハードロック、人間賛歌、そして、優しい穏やかな味わいも新たに加わった。多彩な曲が呼び起こす感情の起伏が、波のように交代に押し寄せる。

「当然もう、正直な気持ちしか溢れ出てこない。僕らも通して聴いてそう思いました。こういう風に思ってたんだ、とか、自分たちのプライベートのこういう部分につながるんだなとか、自分たちが曲に教えてもらうようなことがあるんですよ。昔から。だから、完成して聴いてびっくりした。想像以上に良かったし。バンドの再集結のことを歌った曲が多いけれど、友情とか愛、家庭内の愛情とかで、似たような感情になるところもあるだろうし。楽しめるんじゃないですかね」(吉井)

「曲のバリエーションにも幅が出ていて、それがこのバンドの強みだし、20世紀よりさらにその幅が増してるんですよ。ジェットコースター感が前よりさらに強くなって。イエローモンキーのアルバムとしてふさわしいものになりましたね」(菊地英二)

菊地英二
菊地英二
Kaori Nishida/HuffPost Japan

「乗り越えることで一皮剥けた。未来が見えた」

吉井も語るように、THE YELLOW MONKEYは、時に正直すぎるバンドだ。

90年代後半から2000年代初頭のバンドが解散に向かっていた時代、会場を熱狂させながらもステージ上で苦闘していた姿をメンバーたちは隠さなかった。また、新しい音楽スタイルを取り入れようとした苦悩が伝わってくる曲たちは、どこか「不穏な」匂いを漂わせていた。彼らの音楽に「没入」してきたファンたちにとっては、それが、ほろ苦い記憶にもなっていた。

しかし、解散前最後にリリースされたシングル曲の『プライマル。』が、2016年の再集結ツアーの一曲目に据えられたように、再集結後の3年間で、曲たちにはもう一度新たな生命が吹き込まれていった。辛い、苦い記憶も全部を飲み込んで、バンドは前に進んでいった。

ニューアルバム『9999』の発売が発表されたのは、そんな「浄化」作業が完結した2018年末のライブ『THE YELLOW MONKEY SUPER メカラ ウロコ・29 -FINAL-』の少し前だった。アルバム制作と並行して進められた、過去と向き合う作業。どんな歩みだったのだろうか?

「曲に罪はないじゃない?でも、どうしてもその解散前の印象が刷り込まれて。自分たちが今後やっていくために、一回それは払拭しておく必要があった。曲に全然罪はないし。精魂込めて作った立派な子どもたちなんで。今のイエローモンキーの感じで演奏して浄化されていれば、曲の表現力が変わってくるなっていう部分で。そこを乗り越えることによってさらに自分たちも一皮剥けた。未来が見えてきたこともあって、活動が変わっていきましたね」(菊地英二)

「アコースティックのアレンジで曲を聴かせるっていうのあるじゃないですか。もう一度、楽曲のシンプルな良さを、年輪で煮直しているような、そういうアコースティックにしたようなイメージ。音はエレキですけど。『プライマル。』なんて、さようならの歌だったのに、歓喜の歌になったし。『球根』も、昔演奏したときは暗い曲だから、困惑顔のファンもいたかな、だけど今はそれが全然違う響きになった。でも、それは暗かったものを明るくするってことでは決してなくて、本質をもっと掘り下げて聴かせることができるようになったということ」(吉井)

「中には解散のことを知らないで聴いてくれている人たちもいますからね。単にヒストリーの1つでしかない。ただ、自分たちでも『BRILLIANT WORLD』とか、演奏していても、違って聴こえたし、聴いている人たちもそうなのかな。違う響きで残ったもの、それが本質かもしれない。僕らは作った時の本質を伝えたい」(廣瀬)

「無責任かもしれないですけど、そういう当時の曲も、僕は普通に楽しんでロックンロールできているので、そこまで考えないでいいかなって。『バラ色の日々』なんて本当に楽しいですもん、今やってて。バンドが苦しい時の曲なんだけど。なんかそのぐらいが良いと思う」(菊地英昭)

「未だにショックで聴けませんっていうファンもいるけどね…重病すぎですよ(笑)考えすぎは体悪くしますから」(吉井)

吉井和哉
吉井和哉
Kaori Nishida/HuffPost Japan

「災害」の時代、平成に「国民的バンド」ができること

もう一つ、THE YELLOW MONKEYと「平成」を考える上で欠かせない出来事がある。災害だ。ソロ活動のツアー中に東日本大震災が発生した吉井は、その後、被災地を中心にしたツアーや福島でのチャリティーイベントなども開催している。だが、2011年のその時に、THE YELLOW MONKEYが解散中でこの世になかったことを「ちょっと後悔した」と語っている。

再集結した2016年末にはNHK紅白歌合戦にも出場。国民的バンドTHE YELLOW MONKEYという大きな「看板」を背負う覚悟や使命感は、今も続く被災地への支援活動にも込められている。

「一人でやるよりもイエローモンキーでやるほうが、力が大きい。もっと力が出せたのにな、という気持ちでした。でも、これからも我々なりの支援の仕方をしていくしかない。ファンが被災しているのが一番胸が痛いところで。できることをやって行こうと思ったので」(吉井)

再集結後、ライブで欠かさず行われているのが会場での「バラ色募金」だ。募金にはもちろんメンバーも加わり、東日本大震災や、熊本地震の被災地へと届けられている。

3月28日に日本武道館で開催された『9999』の世界最速試聴会でも、変わらずその募金箱は設置され、ファンの長蛇の列ができていた。

「それぞれのやり方があると思う。でも自分は、忘れずに心に留めておいて、心は共にあるという気持ちを持てるのが、自分なりのことだと思う。どんな曲をプレイしていても、作っていても、心のどこか片隅に置いておくこと。それを続けたいと思う。(アルバムに収録されており、菊地英昭が作詞・作曲を手がけた)『Horizon』という曲は、メンバーのことを思って書き始めた曲だけど、被災地のことも思って作ったのね。絶対に忘れないでおこうっていう気持ちで。「バラ色募金」もやり続けることで何かの力になる。それと並行してもちろんいい音楽を作っていくことが自分たちの役目かな」(菊地英昭)

菊地英昭
菊地英昭
Kaori Nishida/HuffPost Japan

「再集結と同じ2016年に熊本地震もあって、現地での(無料)ライブでその場に行って少し現状を知ることができたし、喜んでもらえたところもあった。今後も続けていけたらと思っています」(廣瀬)

「暗い曲、ネガティブな曲もあるけれど、それだけで終わらなくて。開けた曲やストーリーもあって、全体として頑張って生きていこうという作り方もしている。それがアルバムの良さですよね。イエローモンキーという巨大なパワーでその曲が皆に届けられたら。ライブも出来る限り現地でやりたいなって思ってます」(菊地英二)

4月から始まる全国ツアーの会場にも、福島、熊本が含まれている。被災地の人々のため、より近くまでいってライブを届けたいというメンバーの強い意志によるものだ。

廣瀬洋一
廣瀬洋一
Kaori Nishida/HuffPost Japan

「伝統美をお見せしたい」。

結成30周年、平均年齢も55歳に近付いた。だが、お茶の間に再び姿を現した4人の見た目やステージングが衰えを感じさせなかったことは、多くの人を驚かせた。新しい時代に、どんな姿を見せてくれるのだろうか。

そう聞くと、吉井は「本当の姿はこうじゃないからね!シワシワなんだから!(笑)」と茶化しながらも、自身が目指すロックスターとしての姿をこう語った。

「諸先輩方がみんな元気ですから。ローリング・ストーンズ先輩とか。そこを目指していかないとね。自分は、力でねじ伏せないと手を抜いてると思っちゃう方なんだよね。力と根性。『楽していい。いるだけでいいのに』って言ってくださる方もいるんだけど、でも自分の中では『そうじゃないな』っていう。最新の機材を取り入れつつも、それでも我々は闘ってますよ。そう簡単に、それが簡単だからって転ぶわけにいかないんですよ。伝統美をお見せしたいっていう気持ちもありますから」(吉井)

THE YELLOW MONKEY:ドラム・菊地英二、ベース・廣瀬洋一、ヴォーカル/ギター・吉井和哉、ギター・菊地英昭(左から、文中敬称略)
THE YELLOW MONKEY:ドラム・菊地英二、ベース・廣瀬洋一、ヴォーカル/ギター・吉井和哉、ギター・菊地英昭(左から、文中敬称略)
Kaori Nishida / HuffPost Japan

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