ローソンの新PBがなぜバズるのか。「コンビニが変わったのではなく、私たちが変わった」

「おしゃれだ」「インスタに載せたくなる」という声もあれば、「商品名が見づらい」「デザインのメッセージ性が分からない」という批判もある。

ローソンが今年春にデザインを変えた新しいプライベートブランド(PB)について、ネットで議論が白熱している。

例えば毎日飲んでいる牛乳のPB。

柔らかいクリーム色のパッケージに小さめのフォント。「おしゃれだ」「インスタに載せたくなる」という声もあれば、「商品名が見づらい」「デザインのメッセージ性が分からない」「視覚障害者のことを考えているのだろうか」などの問題提起や批判もある。

どうしてこんなに思い切ったデザイン変更をしたのか?

6月9日午後9時からのハフポスト日本版とTwitterのライブ番組「ハフライブ」で竹増貞信社長にコンビニの未来やローソンのビジョンについて聞く予定なので、PBについても直接聞いてみたい。

でも、その前に、立ち止まって考えたい。そもそも、コンビニのパッケージの変更にどうして私たちはここまで熱狂してしまうのだろう?

ローソンの新しいPB
ローソンの新しいPB
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専門家「ローソンの新PBは自然の流れ」

「ローソンが突然変わったのではありません。私たち自身が変わったのです」

コンビニジャーナリストの吉岡秀子さんに新PBについて聞いたら、そんな答えが返ってきた。

コンビニ業界を20年近く取材している吉岡さんにとって「ローソンの新PBは自然なことで、驚きはない」と言う。

ローソンの新PB商品。個性的な見た目だ
ローソンの新PB商品。個性的な見た目だ
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PBとはコンビニがメーカーなどと共同で企画や開発をするオリジナル商品のこと。

今回、ローソンは食品やお菓子など約680品目を一新。派手なデザインを敢えて採り入れず、「商品を家に持って帰った時、雑音にならずに生活に馴染むパッケージを目指した」(広報担当者)とされている。

その斬新さは伝わる。

たとえば下の写真は、左側がセブン-イレブンの納豆、右側がローソンの新PBのNATTO(納豆)だ。

左側がセブン-イレブンの納豆。右側がローソンの新PBのNATTO。
左側がセブン-イレブンの納豆。右側がローソンの新PBのNATTO。
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「開いてて良かった」から「近くて便利」へ

実は、コンビニがこのように“家庭を意識した”ベーシックな商品を強化しているのは最近のトレンドだ。

業界最大手のセブン-イレブンが10年以上前の2009年に「近くて便利」というキャッチフレーズを打ち出した。

コンビニは社会に広まった1970年代以降、24時間営業などが売りだった。

だが、共働き世帯が多くなり、お客さんがコンビニで食事や生活雑貨を買い求めるようになった。

高齢化が進み、遠くのデパートや宅配便の営業所まで行けない人も増えた。コンビニの価値は、24時間営業よりも、日常の買い物から宅配便の郵送まで頼める「ライフラインとしての機能」がより重要になった。

「開いてて良かった」から「近くて便利」へ。

成功したかどうかは別として、毎日の生活に採り入れても飽きさせないようとするローソンの新デザインの狙いは「自然の流れ」というわけだ。

コンビニ各社の食品。「家庭料理」の中心になりつつある。
コンビニ各社の食品。「家庭料理」の中心になりつつある。
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「コンビニ弁当=まずい」は過去のイメージ?

吉岡さんはこう話す。

「昔は『コンビニ弁当』と言えば、美味しくない食事の代名詞のように思われていました。でもここ最近のコンビニの食事は、毎日食べても飽きないぐらいどころか、商品によってはレストラン並にレベルが高いです。ここ数年で『家庭料理』に対する考えも変わり、冷凍食品やコンビニの総菜の組み合わせへの抵抗も薄れています」

「これが百貨店の商品パッケージのリニューアルだったらここまで話題にならなかったはず。ローソンの新PBは、いつの間にか身近になって毎日のように会っていた友達が急に雰囲気を変えたようなもの。さらに外出自粛で、身の回りのモノに対する関心が高まり、新PBが気になって仕方ないのだと思います」

新型コロナで冷凍食品に注目

コンビニ各社によると、新型コロナによる自粛が続いていた4月と5月は「チャーハン」「肉入りカット野菜」「ブロッコリー」などが売れたという。自宅でちょっとしたひと工夫で調理できるものが人気なようだ。

さらに今後は、自宅で働く人が増え、コンビニで文房具を買いに行ったり、ネットを通して資料を印刷できるプリンターを使ったり「オフィス代わり」に使うことが多くなる可能性がある。

「コンビニは徹底的な消費者分析をしています。今回の新デザインがお年寄りにとって分かりづらかったり、商品が売れなくなったりしたら、ローソンはすぐ見直しに動くでしょう。コンビニの『戦略』は消費者のニーズに合わせるのが基本。消費者の変化をコンビニが追いかけているのです」と吉岡さんは話す。

(Photo by Carl Court/Getty Images)
(Photo by Carl Court/Getty Images)
Carl Court via Getty Images

コンビニの新商品PR。広報の専門家「正解が分からず、みんなモヤついた」

大手IT企業「楽天」の元広報担当者で、現在は企業広報支援のシプードを経営する舩木真由美さん。

今回のローソンの新PBに関してSNSで盛り上がっているのは2つの理由がある、と分析する。

ひとつはデザイン変更の『本当の理由』が分からず、みんなが正解を求めてモヤモヤしていることだ。

 Tokyo, Japan April 13, 2020. REUTERS/Issei Kato
Tokyo, Japan April 13, 2020. REUTERS/Issei Kato
Issei Kato / Reuters

「もし私が広報担当だったら、こうしたデザインの変更に合わせて試食会を開いたり、社長や幹部に発信をすすめたり、企業としてのメッセージをどんどん出していたと思います」

「ただ、あくまで推測ですが、今回は新型コロナの影響で、『メディア露出』が出来ず、消費者に対してデザイン変更の理由が十分に説明できなかった可能性があります」

新型コロナの感染拡大で、情報発信のリアルなイベントなどを開けなかったのは、コンビニに限らず多くの企業の悩みだった。

「ローソンとしてプレスリリースは出していましたが、メディアには新型コロナ関連のニュースが多く、思うように情報発信が出来ていないのかもしれません。そのため、みんながモヤモヤして、『正解』を求めてSNSで盛り上がっているのだと思います。もともとローソンが(自社のTwitterキャラクター『あきこ』の発信など)SNSに積極的ということも関心を呼ぶ下地がありました」

SNSで盛り上がるコンビニ論
SNSで盛り上がるコンビニ論
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舩木さんが二つ目の理由として挙げるのは、「Twitter世論」だ。

舩木さんによると、Twitterが広がってから、一般消費者の意見だけでなく、自分でビジネスをしている経営者やデザイナーなど「情報感度が高い専門家」からの声も企業の評判に直結するようになったという。

今回のローソンの新PBについても、デザインの分かりやすさを表す「視認性」という言葉がSNSでポイントとなった。

デザインや人間工学などに詳しい人の解説をTwitterで読んだうえで、ほかの人も、PBの評価ができるようになった。

コンビニ第1号店が出来てからの45年間を振り返る

コンビニには、現代社会のすべてが詰まっている。

外国出身の店員が増えたのはグローバル化の流れだし、高齢化や地方の過疎化とともに、お年寄りの憩いの場にもなってきた。

商店街の元気がなくなれば、ますますコンビニが頼りになる。

将来、AIが発達すれば、ロボットが店員となるスマート店舗が当たり前になっていくことだってあり得る。オンラインの買い物の「受け取り場」として定着すれば、街中のショッピングの風景が様変わりする。

1974年にオープンしたセブンイレブンの国内1号店・豊洲店と、宅配サービス用の電気自動車(東京都江東区) 2015年09月23日
1974年にオープンしたセブンイレブンの国内1号店・豊洲店と、宅配サービス用の電気自動車(東京都江東区) 2015年09月23日
時事通信社

セブン-イレブンが国内1号店を東京・豊洲に開いたのは45年以上前の1974年だ。

その後24時間営業が福島県郡山市で始まり、「時間の便利さ」を求めたお客さんの支持を受けて、全国に拡大した。

だが、勢いに任せて成長していた日本経済は岐路を迎え、働き方改革も進み、新しいライフスタイルを私たちは模索している。

たかが、一つのコンビニチェーンのパッケージの変更。

そこに熱狂してしまう私たちは、自分自身の姿を数十坪の店舗のあちこちから、感じ取ってしまうのかもしれない。

【※ 6月5日 13:40 内容を一部変更しました】

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ハフポストがお届けしている、働き方をゼロから考えるライブ番組「ハフライブ」。6月9日(火)夜9時は、ローソン社長の竹増貞信さん、Retail Futuristの最所あさみさんをゲストに招いて、コンビニの未来について議論しました。ローソンPBのパッケージについても社長に直接疑問を投げかけました。

番組アーカイブはこちらから⇒ https://youtu.be/EkSXb75Gsfw

最所さんがローソンのPBについて分析した、2本のnoteはこちらです。どちらもオススメです。

その1

ローソンのPBデザインリニューアルは「これでいい」から「これがいい」への第一歩

その2

大企業の挑戦が難しい理由

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