ビジネスが作る未来
2020年01月14日 06時59分 JST

「長い行列」に並ぶより、抜け道を探せば良い。アメリカで売れたキャリア本『サードドア』著者が語る、モヤつく人への人生論

アメリカ経済誌Forbesでは、「読むべきキャリア本トップ5」に選ばれた。

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サードドア著者のアレックス バナヤンさん

アメリカで少し変わった本がベストセラーになった。今は作家として成功しているアレックス バナヤンさんが、大学に入りたての18歳の頃の体験談を書いた 「サードドア 精神的資産のふやし方」(東洋経済新報社)。

キャリアに悩んでいる人向けのビジネス書で、アメリカ経済誌Forbesでは、「読むべきキャリア本トップ5」に選ばれた。

「このままでは自分らしい人生を送れない」とウジウジしていたアレックスさんが、ビジネスやエンタメ界の著名人たちに「どうやって成功したのですか」とコネもなしに聞きにいく内容だ。

難しい理屈やビジネスモデルの解説はゼロで、日本のバラエティ番組の突撃ルポのようにも読める。

アレックスさんのメッセージはただ一つ。仕事や人生で悩んでいたら、他のみんなと同じような道を歩むのはやめようと言うことだ。長い行列に並ぶ人生はやめにして、誰も知らない抜け道(アレックスさんは「第三のドア」と呼ぶ)を歩くことを勧める本だ。

「抜け道」ってどうやって探せば良いのだろう?アレックスさんに直接話を聞いてみた。

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アレックス バナヤンさん

 良い大学に入ったけど、モヤモヤしていた

アレックス・バナヤンさんは1992年にアメリカのロサンゼルスで生まれた。大学で医師の道を目指そうとしていたが、入学してすぐに自分の人生に対してモヤモヤとし始めた。

アレックスさんは、家族の期待に応えようと、小さい頃から一生懸命勉強をして大学に入った。アメリカの名門の南カリフォルニア大学だ。

でも、大学生になってからある日のこと。ベッドに寝転がってボーッとしていると、疑問が湧いてきたという。

「本当にやりたいことが出来る人生を送れるのだろか、と悩み始めました。もちろん医師になれば家族が喜んでくれるのはわかっていました」

「でも、仮に僕が医師になり、どこかの病院で手術中に『あれ、これは自分の人生ではないな』と後になって後悔するのは嫌だな、と思ったのです」

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BEIJING, CHINA - NOVEMBER 21  ビル ゲイツ氏

有名人の「成功の秘密」を知ろうとした

そこで、アレックスさんは、マイクロソフト創業者のビル ゲイツ氏ら成功者の伝記やインタビューを読み漁るようになる。「成功している人たちはどのような生き方をしているのか」を知るためだ。

本を読むだけでは飽き足らず、有名なビジネスパーソンや映画監督に会ってみようと思い立つ。ビル ゲイツ、スティーヴン ピルバーグ、ウォーレン バフェット、レディー ガガ。全員に会いたい…。夢だけは膨らむが、当然コネクションも何もない。

テレビのクイズ番組に出演して資金を手に入れたり、知り合いのツテを頼ったり、突然メールを書いたり。著名人が集まるパーティにこっそり顔を出したりもした。

うまく行ったこともあれば、うまく行かなかったこともある。

ビル ゲイツ氏には会えたが、ウォーレン バフェット氏の関係者にはしつこくアプローチしすぎて、アシスタントから怒られ、直接会えないまま自信を失って終わった。さらにバフェット氏も出席する株主総会で、間違った情報を元に本人に質問をし、大勢の前で恥をかいた。

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アレックス バナヤンさん

「正面玄関」を選ばない 

「僕のこの本は、『成功者たちの秘密』を書いたものではありません。むしろ、僕の失敗を集めた本というか…。でも、色々と調べていくうちに、ビジネスや人生の成功の道にたどり着くためには、3つの入り口があることに気付きました」

アレックスさんは、「人生の成功の場所」を人気のミュージシャンらが演奏するナイトクラブのような場所にたとえる。

そこに入るためには、まず「正面玄関」がある。99%の人がこの入り口を選ぶ。でも、入るためには長い行列に並ばないといけないし、チケットが売り切れるかもしれない。結果的に中に入れない可能性も高い。

二つ目には「VIP専用入り口」がある。並んだりチケットを買ったりせずに、「顔パス」で入れる。ただ、ここを使えるのは、セレブやコネがある人だけだ。普通の人は利用できない。

そして、題名の「サードドア」にもなっている、三つ目のドアは誰も教えてくれない。

でも、私の解釈も交えて喩えれば、ナイトクラブに昼間の暇な時間帯に電話をして、「今日、何かお手伝いしましょう」と頼んで、バーのアルバイトになったり、運営のボランティアになったりすれば、中に入れるかもしれないように、発想を変えれば「抜け道」があるのではないか、とアレックスさんは問う。 

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アレックス バナヤンさん

長い行列に並ばなくて良い 

アレックスさんは、決してズルをすることを勧めているわけではない。

「ナイトクラブに入るためには、お客さんとして長い列に並ばないといけない」という当たり前の考えを疑ってみよう、と言ってるように思えた。

「日本にはまだそういう面もあるかもしれませんが、アメリカでも、以前までは『人生の成功とはIBMのような大企業に入ることだ』という考えが親世代にはありました。でも、考えてみれば、アメリカは移民が多い国ですし、成功の定義も成功への道も、もともと、より多様だったのではないでしょうか」

アレックスさんの両親も、政情が不安定なイランから逃れるようにアメリカに渡ってきた。移民の多くは、自分たちでピザ屋さんなどのスモールビジネスを始めたり、小さな小さなツテを頼って仕事を探したりする。エントリーシートも就活向けセミナーもない。 そうやって社会に馴染んでいく。

アレックスさんが大学を卒業する頃は、大企業の業績が急激に落ちた「リーマンショック」も起き、同年代の若者が仕事を探すのは大変だったという。

「先輩たちは、ゴールドマンサックスに入社したのに、自分はどうしてアイスクリームショップでアルバイトなのだろう」と嘆く若者もいたそうだ。

そんな中、アレックスさんは、有名人に会おうとした体験を本に書き始めたり、講演をしたりするようになって「作家」になった。

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タピオカの行列

「一つの道」が強い日本社会

タピオカ店やラーメン屋さんの行列ではないが、私たち人間には、みんなと同じ列に並ぼうとする習性がある。

ただ、そこに並んでいるうちに無駄な時間がたってしまうこともあるし、リーマンショックのような外部環境の変化によって、行列がそもそもなくなったり、自分の力ではどうしようもないぐらい長くなったりする。それに、「同じ入り口」が常にそこにあるとは限らない。

日本の働く現場では、年齢や同じ会社での勤続年数が、働き手の「地位」を決めていく。

どのような能力を持っているか、ではなく「同じ組織にどのぐらい長く続けているか」が大事になる。そのため、転職をしてきたり、育児や介護によって仕事を「中断」されたりする人には不利になる。女性の管理職もまだまだ少ない。

もちろんこんなことは平成の30年間ずっと言われ続け、変わって来た面もあるが、相変わらず新卒一括採用という「正面玄関」から会社に入り、育児や転職などもせず、中断することなく働き続ける「一つの道」が唯一の道になりがちだな社会だ。

アレックスさんはこんな風に言う。

「社会はもっとたくさんの道があり、ダイナミックだと思うのです。それに成功者だって迷いながら人生を歩んでいます。ビルゲイツは大学を中退していますし、直接本人に会ったり、経歴を調べたりした印象だと、怖気づきながら起業しています」

「それはそうですよね、不安なのは。自分もモヤモヤばかりしていました。日本も含めて多くに社会は『第三のドア』が増えていくのではないでしょうか」

就活が同じ時期に始まり、用意されたエントリーシートを埋めていく「正面の入り口」の方がラクに見える。人生100年時代、抜け道を常に探さないといけないのもしんどい。そういうのが不得意な人もいる。

アレックスさんの話に完全に説得されたわけではなかったが、彼の「第三のドア」探しには、どこかいたずらっ子のような愛嬌があり、何だかとても楽しそうにみえた。

紀伊國屋書店梅田本店

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