『トゥモローランド』―未来は努力が作る/宿輪純一のシネマ経済学(78)

映画『トゥモローランド』のテーマは「未来」である。未来は分からない。不安だという方もいるが、だから逆に面白いのではないか。未来が決まっていたらつまらない。努力もしなくなる。進歩もない。これは固定化された経済も一緒である。

(TOMORROWLAND/2015)

ウォルト・ディズニーが考えていた未来計画をベースとして、"トゥモローランド"のことを知っている主人公(ジョージ・クルーニー)と17歳の少女が、未知の世界へ入っていく冒険SF映画。実際、ウォルト・ディズニー社の保管庫で発見された資料を基に創造された世界が描かれる。まさに、筆者は51歳であるが、同じ年代の人が、良く見た未来の世界の図である。なお、ディズニーランドのトゥモローランドとは関係が無い。

監督は『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』などのブラッド・バード。主演は、筆者も好きな色男ジョージ・クルーニー。クルーニー家は芸能一家で、『ホワイトクリスマス』(1957年)のローズマリー・クルーニーは叔母。彼は1961年生まれ、1978年にテレビドラマで俳優デビューを果たすが泣かず飛ばす。1994年から5年間医療ドラマ『ER緊急救命室』においてダグ・ロス医師役でレギュラー出演しブレイク。アカデミー賞は『シリアナ』で助演男優賞を受賞。また『フィクサー』(2007年)、『マイレージ、マイライフ』(2009年)、『ファミリー・ツリー』(2011年)で主演男優賞にノミネート。またプロデューサーとしても『アルゴ』(2012年)でアカデミー作品賞を受賞。『オーシャンズ11』シリーズも捨てがたい。

共演は『愛する人』などのブリット・ロバートソンやテレビドラマ「Dr.HOUSE」シリーズでおなじみのヒュー・ローリーなど。

17歳の少女ケイシー(ブリット・ロバートソン)が見覚えのないピンバッジに触ると、自分が思い描いた別世界(トゥモローランド)へと入り込んだ。バッテリー切れで現実の世界に戻ることになるが、彼女の前に、不思議な少女アテナが現れる。そしてケイシーにトゥモローランドに戻りたいのなら、フランク(ジョージ・クルーニー)を訪ねるよう助言した。彼は以前にトゥモローランドに行った経験を持つ。実はアテナが人類の未来を託したふたりの人間、それこそがケイシーとフランクだったのである。そして、それは、壮大な冒険と未来の世界に向かう始まりであった。しかし、秘密結社が登場し決して未来が明るいものではないと気が付いていく。

この作品は「未来」がテーマである。未来は分からない。不安だという方もいるが、だから逆に面白いのではないか。未来が決まっていたらつまらない。努力もしなくなる。進歩もない。これは固定化された経済も一緒である。

筆者はこの「努力」というものが未来に向かっていくときにもっとも大事ではないかと考えている。そして、努力には「希望」が必ずある。希望は、全てが決まっている未来には必要ない。そして、合理的な、また効率的な動きとは相入れない。未来というか、物事は分からないことが多い。実際は、分からない中を、様々な形で努力して何とか物事を成し遂げているのではないか。

そして物事を成し遂げていく努力は、合理的・効率的な行動、そして損得とは違う「強い気持ち」が必要になり、それこそ希望の源泉となるのではないか。

その挫けない強い気持ちこそ未来を切り開いていける。物事は計画通りには行かないし、合理的・効率的な面だけではない。ゲーテの『ファウスト』には、成功した状態よりも、努力を続けている状態の方が、幸福である、とあった。筆者もそう思う。実際は努力している状態こそ、本当は幸福なのである。

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