アートとカルチャー
2020年08月13日 15時47分 JST | 更新 2020年08月18日 13時46分 JST

『となりのトトロ』ポスターの少女は映画に登場しない。その正体は?

よく見ると、メイでもサツキでもないようだ…。上映当時のポスターやパンフに使われ、その後もDVDのジャケットなどで使われる謎の少女の真相に迫る。

1988年劇場公開時の『となりのトトロ』のパンフレット。ポスターと同じく謎の少女が描かれている(安藤健二撮影)

トトロが帰ってくる——。 

スタジオジブリの人気アニメ『となりのトトロ』が日本テレビ系の「金曜ロードSHOW!」で8月14日午後9時からノーカットで放送される。

宮崎駿さんが脚本・原作・監督を務めたファンタジー映画。4歳のメイと、12歳のサツキの姉妹が不思議な生き物・トトロに出会うという内容。1988年4月の劇場公開から32年が経過したが、根強い人気を誇っている。今回の放送は2018年8月以来2年ぶり、17回目の放送となる。

この『となりのトトロ』。劇場公開時のポスターやパンフレットには、ある秘密が隠されているのをご存じだろうか。

 

■ポスターに隠された秘密とは?

ポスターに描かれているのは、「稲荷前」と書かれたバス停の前の様子だ。葉っぱを頭に乗せたトトロの隣に、赤い傘を差した二つ結びの少女が立っている。

この少女は劇中に登場するメイともサツキとも、微妙に姿が違う。顔はメイに似ているが、頭身と年齢はもう少し高そうだ。服装はオレンジ色の吊りスカートで、劇中でサツキが着ているものだ。

ハフポスト日本版の編集部の同僚に聞いてみると、「メイだとばかり思っていた」という声が多数聞かれた。

このポスタービジュアルは、劇場パンフレットのほか、DVDのジャケットや、今回の「金曜ロードSHOW!」の番組紹介でも使われている。

この少女は、一体誰なのだろう。

 

■もともと主人公の女の子は1人だけだった

スタジオジブリの広報部に取材すると「かなり前の映画ということもあって、詳しいことは諸説あってはっきりしません」としつつも、「サツキとメイの特徴を1人の女の子に集約したというのは、間違いないようです」というコメントだった。

2人の少女が1人に……とは、どういうことだろう。その後、関連資料を調べていくと、興味深いことが分かった。

『となりのトトロ』の原型となったのは、1975年に宮崎監督が描いた3枚のイメージボードだった。このときすでに、バス停で父親を待つ少女と、頭の上に葉っぱを載せた謎の生き物が描かれている。このときは絵本にするつもりで、主人公の少女は1人だった。79年にもテレビの特別番組などの企画が動き、イメージボードが新たに描かれたが幻になっている。

その後、1986年末から『となりのトトロ』の制作が本格的に始まると、宮崎監督は主人公の少女を2人の姉妹に設定変更した。その理由は、同時上映される『火垂るの墓』(高畑勲監督)の上映時間が予定より延びたことに伴い、『となりのトトロ』の上映時間が延びたことが理由だったという。

ジブリの教科書3 となりのトトロ」(文春ジブリ文庫)の中で、製作委員会のメンバーだった鈴木敏夫さんは次のように振り返っている。

「『となりのトトロ』は本来、女の子とオバケの交流で、その女の子は一人だったんですが、高畑さんへの対抗心に燃えた宮さんは「映画を長くするいい方法はないかな」と言い出して、それで一人の女の子を姉妹にすることを自ら思いつくんです。サツキとメイは、宮崎駿の負けず嫌いの性格から誕生したのです」

 

■「サツキとメイの二人がトトロと並ぶのは、どうしても違う」

そして、1987年夏ごろに『となりのトトロ』のポスターの原画を宮崎監督が描いた。

『となりのトトロ』の制作デスクを務めた木原浩勝さんの著書『ふたりのトトロ』(講談社)によると、第2稿まではサツキとトトロが並んでいたのだが、第3稿になって、以前のイメージボードに近いサツキでもメイでもない少女が描かれたという。

バス停で待っているのがサツキ1人でいいのか……という問題があったが、宮崎監督は「サツキとメイの二人がトトロと並ぶのは、どうしても違う」と主張。その結果、二人の特徴を併せ持つ少女が描かれることになったのだという。

木原さんは前出の著書で、以下のように綴っている。

「ポスターの少女をサツキだと思っている人、メイだと思っている人がいると思うが、実のところどちらでもないといえるし、どちらでもあるともいえるキャラクターだ。つまり一種の合成キャラクターとでもいえばいいだろうか?具体的にいえばサツキより低くメイより高い身長。服装はサツキ。肩から上(顔立ちや傘の色)はメイとして決定される。映画に登場しないキャラクターを使ったポスター画など前代未聞だと思った」

 

■上映当時は「大ヒット作」ではなかった

1988年の上映時、『となりのトトロ』と『火垂るの墓』の配給収入は合わせて5億8800万円と伸び悩んだ。

前出の木原さんによると、上映当時に「ポスターの少女は誰?」という問い合わせがスタジオジブリにあった記憶はないという。ハフポスト日本版の取材に対して、木原さんは以下のように回答した。

「映画としては大ヒットしたわけではなく、話題としても大きく取り上げられたワケでもありません。そのため、ポスターの女の子は、さほど気にする程の事ではなかった……という事ではないでしょうか?」

テレビで放送が繰り返される中で人気が上昇し、スタジオジブリの看板作品となった『となりのトトロ』。上映当時のポスターの謎に注目が集まるのも、長寿作品になったからこそだった。

 

【訂正】当初、興行収入と書いていた箇所は、正しくは配給収入でした。「配給収入は合わせて5億8800万円」と訂正します。(2020/08/14 15:15)