あいちトリエンナーレ、海外の作家11人が展示中止を求める。「表現の不自由展の再開」求めて実行委を批判

企画アドバイザーを務める東浩紀氏も辞任の意向。「慰安婦像については、政治家やメディア(海外含む)に政治的に利用されてしまいました。天皇作品については、過激な表現が多くの市民にショックを与えました」

慰安婦を表現した少女像などの展示作品に批判が相次ぎ、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」内の企画展「表現の不自由展・その後」が中止になった問題で、「トリエンナーレ」の別の展示に作品を出展していた海外の作家11人が、中止に抗議するため自身の作品も展示中止とするよう求めていたことがわかった。

「平和の少女像」
「平和の少女像」
HUFFPOST JAPAN

■オープンレターで異議

作品の展示中止を求めたのは、タニア・ブルゲラさんら11人。11人はネット上にトリエンナーレ実行委員会にあてたオープンレターを公開し、「表現の不自由展」の中止判断について「参加した作家に事前の相談なく中止したことに疑問を持っている」「展示作家の権利を守ることや、表現の自由を保護することはトリエンナーレ側の責任だ」などと抗議した。

そして、自らの出展作品を、表現の不自由展が中止されている限り、同じく展示中止とするよう求めた。11人はオープンレターで「このアクションを通じて実行委員会が表現の不自由展を再開することを願う」としている。

実行委員会によると、11人のうち韓国出身の2作家の作品はすでに展示中止となっている。

実行委員会はハフポスト日本版の取材に「アーティストの意向を最大限優先したいが、今後の方針は検討中です」と説明している。

展示の中止を求めたのは以下の11人。

Tania Bruguera(タニア・ブルゲラ/ハバナ)
Javier Téllez(ハビエル・テジェス/ベネズエラ)
Regina José Galindo(レジーナ・ホセ・ガリンド/グアテマラ)
Mónica Mayer(モニカ・メイヤー/メキシコ)
Pia Camil(ピア・カミル/メキシコ)
Claudia Martínez Garay(クラウディア・マルティネス・ガライ/ペルー)
Minouk Lim(イム・ミヌク/韓国)
Reynier Leyva Novo(レニエール・レイバ・ノボ/ハバナ)
Park Chan-kyong(パク・チャンキョン/韓国 Dora García(ドラ・ガルシア/スペイン) Ugo Rondinone(ウーゴ・ロンディーネ/スイス)

■企画アドバイザーも辞任の意向示す

「不自由展」の騒動は、トリエンナーレの企画アドバイザーを務める作家の東浩紀氏が、自身のTwitterで辞任の意向を表明する事態に発展している。

東氏は辞任を決めた理由について、「(芸術監督の)津田監督には、この1週間、いろいろ善後策を提案していたのですが採用されず、アドバイザーとして職務を果たすのが困難な状況になりました」と説明。

問題の本質は「外交問題に巻き込まれたこと」と「市民の説明不足」だとし、少女像の展示や、昭和天皇の肖像写真が焼けている作品の展示について、「慰安婦像については、政治家やメディア(海外含む)に政治的に利用されてしまいました。天皇作品については、過激な表現が多くの市民にショックを与えました」と分析した。

その上で、「外交問題に安易に巻き込まれる展示を行ったこと、市民に十分な説明をしないまま過激な作品を展示しショックを与えたことについて、まず誠実な謝罪をし、そのうえで対策について市民や出展者を巻き込んで議論をすべきだ」「混乱の責任をとって監督を辞任し、ほかのキュレイターと協力関係を築くべきだ」などと津田氏に提案したが、受け入れられなかったと明かした。

東氏は「今後、「海外の現代美術作家」vs「日本の市民」という不毛な対立構図が作られないよう、微力ながら情報を発信できたらと考えています」と投稿している。

実行委員会はハフポスト日本版の取材に対し、東氏について「(辞任の)申し出があったのは事実。受け入れるかについては現在、検討している」としている

東浩紀氏の一連のツイート全文

すでに報道されているとおり、海外作家7人より展示中止の申し出が出たようです(ぼくも報道でしか知りません)。津田監督には、この1週間、いろいろ善後策を提案していたのですが採用されず、アドバイザーとして職務を果たすのが困難な状況になりました。

そこでさきほど、アドバイザーを辞任する旨のメールを津田監督と事務局に出させていただきました。今後は、公的な立場を外れ、一個人としてトリエンナーレを応援していければと思います。あらためまして、このたびは、ぼくの力が及ばず、県民のみなさま、出店者(※原文ママ)のみなさま、申し訳ありませんでした。

辞任となりましたのでぼくの考えを整理しますと、ぼくは今回の問題について、「表現の自由」vs「検閲とテロ」という構図は、津田さんと大村知事が作り出した偽の問題だと考えています。ぼくはこの1週間、津田さんにはそれを訴えてきました。

ではなにが本質だったのか。それは「外交問題に巻き込まれたこと」と「市民への説明不足」だというのが、ぼくの考えです。慰安婦像については、政治家やメディア(海外含む)に政治的に利用されてしまいました。天皇作品については、過激な表現が多くの市民にショックを与えました。

それゆえ、ぼくは津田さんに、論点をこの2点に絞り、外交問題に安易に巻き込まれる展示を行ったこと、市民に十分な説明をしないまま過激な作品を展示しショックを与えたことについて、まず誠実な謝罪をし、そのうえで対策について市民や出展者を巻き込んで議論をすべきだ、と提案しました。

そして、市民や出展者の信頼を回復し、「議論の場の再設定」を実現可能なものにするために、まずは混乱の責任をとって監督を辞任し、ほかのキュレイターと協力関係を築くべきだと提案しました。けれども、残念ながら、津田さんを動かすことはできませんでした。

ぼくの観察するかぎり、今回「表現の不自由展」が展示中止に追い込まれた中心的な理由は、政治家による圧力や一部テロリストによる脅迫にあるのではなく(それもたしかに存在しましたが)、天皇作品に向けられた一般市民の広範な抗議の声にあります。津田さんはここに真摯に向かい合っていません。

それら抗議は検閲とはとりあえずべつの問題です。日本人は天皇を用いた表現にセンシティブすぎる、それはダメだと「議論」することはできますが、トリエンナーレはその日本人の税金で運営され、彼らを主要な対象としたお祭りでもあります。芸術監督として顧客の感情に配慮するのは当然の義務です。

この問題を「表現の自由」vs「検閲とテロ」の構図でとらえているかぎり、そこには出口がありません。表現の自由を守らない美術展を支持するアーティストはいません。その意味では海外作家の離脱は当然です。津田監督は、早急に、表現の自由は守る、「だからこそ」の展示中止であり再設定なのだという論理をつくり、作家を説得しなければなりません。ぼくはそれは、むずかしいけれど不可能ではないと考えます。前述のように、ぼくはこの1週間、その「新たな問題設定」に進むように提案をしてきました。けれども、理解を得られないまま、新たな作家が離脱する局面を迎えてしまいました。

この状況はたいへん心が痛むものです。海外のアーティストは表現の自由を訴えている。けれどもそれは日本の市民には特定のイデオロギーやプロパガンダに賛同する党派性のように見える。このようなねじれを作り上げた責任は津田さんにあり、彼はそれを早急に解きほぐさねばなりません。

ぼくは今回アドバイザーを辞任しましたが、ぼくが辞任したのは、このようなことを自由に言うためでもあります。今後、「海外の現代美術作家」vs「日本の市民」という不毛な対立構図が作られないよう、微力ながら情報を発信できたらと考えています。よろしくお願いします。

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