ワイドショーがテレビを殺す【2018:メディア】

膨大なアーカイブを持っているのは新聞だけではない。

画像)東京都渋谷駅

©Japan In-depth編集

【まとめ】

・地上波テレビは朝から夕方までほとんどワイドショーを放送している。

・そのワイドショーは時として公平性を欠いたり、表層的だったりしている。

・週刊誌やネットの後追い報道ばかりやっているワイドショーは愛想をつかされる。

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昨年の新年特集【大予測:メディア(新聞)】で私はテレビについて触れなかった。が、膨大なアーカイブを持っているのは新聞だけではない。テレビは映像という新聞にはないアーカイブがある。この強みを使わない手はない。しかし、今のテレビがそれを活用しているとは思えない。

・勢いづくワイドショー

ワイドショーが止まらない。朝もはよから夕方のニュースの時間までほとんどワイドショーだ。朝早めに出勤するサラリーマンは見ていないだろうが、家にいる主婦やご年配の方々は延々とワイドショーから流れてくる情報に浸っている。

情報番組などとテレビ局は言っているが、中身はワイドショー。芸能人がくっついただの、不倫して別れただの、クスリをやっただの、はたまた猟奇殺人事件があっただの、もともとそうした話題が大得意の番組だ。女性週刊誌のテレビ版みたいなものだ。それが10数年ほど前から、「脱ワイドショー」と銘打って、政治やら経済やら国際などのジャンルのニュースも扱うようになった。

それはそれで、心意気や良し、だったのだが、最近どうもおかしなことになっている。政治・経済・国際ニュースを扱うにしても公平性を欠いたり、表面をなぞったりしているだけの場合が多過ぎるのだ。

そして、コメンテーターの面々。前からと言ってはそれまでだが、人選が話題性ありきで何故その人がその話題で座っているのかちっともわからないことがまま、ある。なにせ、常連コメンテーターの経歴詐称がバレて降板しても、テレビ局は責任を取ろうともしない。総理大臣の任命責任はがんがん問うのにダブルスタンダード極まりない。それをおかしいとも思わない視聴者もどうなのか?

さてワイドショーの何がどうおかしいのか、少し具体的に見ていこう。

・国際問題

日本人のトランプ好きは世界一。そう思う程、トランプのニュースがワイドショーにあふれている。アメリカ人以上にトランプの言動に詳しいのではないか?と思う程だ。

写真)トランプ米大統領

flicker:Gage Skidmore

しかし、そのトランプ政権の分析は余りに稚拙なものが多い。曰く、

・トランプは不動産屋だから相対取引しかやって来なかった。だからマルチ(多国間)の貿易交渉は嫌いなのだ。

・トランプは政治をやったことがないからこれまでの国際社会での外交的駆け引きなど知らないのだ。だから北朝鮮問題でもパレスチナ問題でも何をしでかすかわからないのだ。

・アメリカ国内でロシア疑惑の追及が強まっている。大統領の弾劾もありうるし、政権も長続きしない。

などなど。どれも素人の単なる感想に過ぎない。

トランプに会ったこともない、現政権中枢にパイプもない人間があーでもない、こーでもないとスタジオで言ったところで何の意味もない。井戸端会議を聞いても何のたしにもならないのだ。ましてその問題のプロでもない人間が感想めいたことを言ってどうするのか?視聴者をバカにするのもいい加減にして貰いたい。

次に北朝鮮問題だ。この問題の解説は極めて難しいのだが、当のテレビ局がどこまでわかって報道しているのか、疑問に感じる。

まずは、朴槿恵(パク・クネ)前大統領の弾劾だが、あれは本当に弾劾に値する疑惑だったのか?崔順実(チェ・スンシル)ゲートを韓国メディアが報道するまま日本でも垂れ流し、朴前大統領を叩いた。しかし、その後裁判がどうなっているかは全く報道されない。ようはその場限り。面白ければいい、という姿勢だ。

写真)朴槿恵前韓国大統領

flickr : Republic of Korea

そもそも文在寅大統領は親北朝鮮であり、だからこそ年明け金正恩北朝鮮労働党総書記が韓国とのホットラインを再開するなどの動きに繋がっている。拉致問題を抱え、かつ核の脅威にさらされている日本にとって、日米韓同盟を弱体化させようとする北朝鮮の策略に呼応した動きを見せる韓国の実体をどれだけテレビは伝えているのか?我が国にとって深刻な危機であるにもかかわらず、だ。

写真)文在寅韓国大統領

flickr : Republic of Korea

むしろテレビには「(日米両政権が)北朝鮮を追い詰めるようなことをするから金正恩は核開発が進めるのだ」、などと北朝鮮を利するようなことを平気で言うコメンテーターと称する人物が連日出ている。それはバランスを取っているのではなく、間違いを垂れ流しているに等しい。これまで太陽政策で北朝鮮が核開発を諦めたことがあっただろうか?

こうした背景をわかって報道しているのなら罪は重いが、わかってないで無邪気に報道しているのだとしたら、一層罪が重い。

・国内政治

2017年は「もりかけ問題」に終始した。あるワイドショー番組などは連日1時間かけてこの問題を根掘り葉掘りやっていた。何が何でも安倍首相は嫌だ。共産党や社民党、最近誕生した立憲民主党がそういうのなら、わかる。しかし、一部のテレビ局の安倍政権叩きには首をかしげざるを得ない。最後に残ったのは「森友学園」前理事長籠池泰典容疑者の詐欺容疑だけだった。「加計学園」問題含め、未だに何が問題だったのか、いまだにわからない人が多いのではないか。

写真)イバンカ・トランプ米大統領補佐官と安倍首相 2017年11月3日

出典)首相官邸

その間北朝鮮はミサイルを何発日本に向けて撃ったのか?国内問題ばかり報じるワイドショーに違和感を持った視聴者は多かったろう。しかも「もりかけ問題」であんなに大騒ぎしたのに、いざ選挙をやってみたらみな自民党に入れた。国会で「もりかけ問題」を追求してばかりの野党は分裂せずとも最初から負けが決まっていたといえよう。ワイドショーはある意味与党の勝利に加担したのではないか、とさえ疑いたくなる。

もし「もりかけ問題」を徹底追及するなら、なぜ補助金搾取などという問題が起きたのか、そこを追求すべきだろう。100万円を安倍明恵氏に渡した、いやもらってない、などという些末な話ではないはずだ。

写真)学校法人「加計学園」が運営する岡山理科大学獣医学部

出典)岡山理科大学獣医学部

もう一つ上げよう。小池百合子都知事に関する報道ぶりだ。小池氏が2016年都知事選に立候補した時は、スタジオでは誰も小池氏が勝つと思っていなかった。それが圧倒的な勝利を収めたものだから気分が悪かったのか、なんなのか、とにかくスタジオ常連の政治評論家の方々は小池都知事を批判するのがお好きなようで、絶えずあら捜しをしているようだ。

写真)都知事選に臨む小池百合子候補(当時) 2016年7月25日

©Japan In-depth編集部

とあるジャーナリストが嘆いていた。某ワイドショーに呼ばれたとき、スタジオで自分より年配のレギュラー男性コメンテーターの小池嫌いは凄い、と。それ以外のゲストの面々も小池批判一辺倒だったという。そうした中、そのジャーナリストはなんとかバランスを取ろうと努力はしたらしいが、何せ多勢に無勢、下手に小池氏を擁護するとバッシングを受けかねない雰囲気だったそうだ。好き嫌いでコメントされても視聴者は戸惑うばかりだろう。

特に去年10月の衆議院選挙。小池氏が希望の党を立ち上げ、その後勢いが急速に萎んだことに関し、原因は「排除の論理」を安易に口にした小池氏の「驕り」のなせる業だ、との分析がテレビではまことしやかに語られているが、果たしてそうなのか?

小池氏が希望の党を立ち上げなければ、そもそも野党は分裂しなかった。民進党丸のみなんてしていたら、それはそれでテレビは猛バッシングしたはずだ。民主党の時代から、「右から左まで」揃っているから何も決められない、と批判してきたではないか。

小池氏の一番の功績は、野党を分裂させたことであろう。左派が民進党から出ていき、同床異夢的な野党はとりあえず無くなったのだから、将来の2大政党制の道筋をつけた、ともいえるのだ。しかし、そうした評価はついぞ聞こえてこない。ただただ結果をネガティブに見るだけでは、視聴者にとって有益な情報を提供しているとはとても言えない。それこそ放送法の精神に反しているのではないか?

豊洲の汚染水問題にしても、あれほど専門家が開場しても問題ないレベル、と言っているのに大騒ぎし、その後移転が決まったらちっとも報道しないのはどうしたことか?汚染水の問題もさることながら、施設の使い勝手の悪さや、環状2号線未開通で起きる一般道の交通渋滞の問題、築地の「食のミュージアム」の行方と豊洲市場との両立の現実性などを継続して報道することこそ、視聴者のニーズにこたえることになりはしないか。

写真)豊洲市場 水産卸売場棟①地下ピット内の様子(平成29年1月19日撮影)

出典)東京都中央卸売市場

・不倫報道

年末にどこかの番組で去年1年間の不倫報道の総ざらいをやっていたが、芸能人か政治家の不倫報道がない月はなく、苦笑した。ワイドショーもネタに困らないというわけだが、それにしても政治家の不倫報道をえんえんと時間かけてやるべきものなのか議論の余地がある。

そもそもそうしたネタは週刊誌の十八番だったはず。かつてはそこには何らかのすみ分けがあった。なのに今やテレビは週刊誌に書かれた内容をそのまま垂れ流すことに何の躊躇もなくなってしまった。

最近は週刊誌もデジタル戦略に長けてきて、スクープ映像などを有料配信している。直近では女優と某テレビ局プロデューサーを週刊誌の記者が直撃した映像がネットで配信されたが、テレビはちゃっかりそのビデオをそのまんま番組で流していた。もうプライドも何もあったもんじゃない。他人のふんどしで相撲取ってまで視聴率を稼ぎたいのか、と開いた口がふさがらない。

そもそもW不倫したと報じられた女性議員も先の総選挙で当選している。視聴者、というか有権者はさほど不倫を気にしていないのかもしれない。不倫報道に時間を割くより、もっと報じることあるんじゃないの、と思っている視聴者は実はかなりいて、それに全く気づいていないのがテレビ、ということだろう。

・テレビのこれから

そんなテレビだが、まだまだ総広告費(2016年:約6兆円)の約3割(同:約2兆円)を占める。(注:地上波+衛星メディア関連の合計)新規参入がない免許制だから競争がない。したがってそのパイを分け合っているだけなので危機感がない。ひたひたとインターネット広告がその存在感を増しているのだが、大方のテレビマンにはその足音は聞こえていないようだ。

図)媒体別広告費の構成比 2016年

出典)電通

一部のテレビ局はインターネット放送局を立ち上げて金をつぎ込んでいるが、ほぼほぼ地上波テレビと同じようなことをやっている。それでは視聴者はついてこない。視聴者は今やホンモノを欲している。ネットにもどこにもない深い洞察や分析などだ。

拙稿、『ウェブメディア猛攻 新聞の漂流止まず【2018:メディア】』でも書いたが、折角持っているアーカイブや人材という資産を全く活かせていない。このままではウェブメディアに勝つことは難しい。テレビが週刊誌やネット情報の後追いを続ける限り、早晩ワイドショーも視聴者に愛想をつかされるであろうし、広告費でもインターネットに追い越されるであろう。驕れる平家はなんとやら、なのである。

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