還暦のギャルベーシスト、ラウドロック、日常すぎる歌詞。異色バンド『打首獄門同好会』が、「好き勝手」を貫いた方法。

「打首獄門同好会」を、あなたはもう聞いただろうか。 「生活密着型ラウドロック」と称する独特のスタイルで、武道館ライブも成功させた人気バンドだ。
打首獄門同好会:大澤敦史(ギター・ヴォーカル、中央)、河本あす香(ドラム・ヴォーカル、左)、junko(ベース・ヴォーカル、右)
打首獄門同好会:大澤敦史(ギター・ヴォーカル、中央)、河本あす香(ドラム・ヴォーカル、左)、junko(ベース・ヴォーカル、右)
Kaori Nishida / HuffPost Japan

「打首獄門同好会」を、あなたはもう聞いただろうか。

ゴリゴリのロックなのに、「はたらきたくない」「布団の中から出たくない」、あるいは「日本の米は世界一」「スマホの画面が割れた日」というタイトルで日常すぎる歌詞。「生活密着型ラウドロック」と称する独特のスタイルで、武道館ライブも成功させた人気バンドだ。

実は独特なのはそれだけではなかった。2018年末には、金髪ロングを振り乱し、メンバーでも最も激しいステージングで沸かせるjunkoが還暦を迎えたことを明かした。世間をアッと言わせただけでなく「生涯ギャル」を宣言し、女性たちに勇気を与えた。

キャリアは間もなく15年。「中堅」に至るまで3人はライブシーンだけでなくネットも駆使してファンを増やし続けてきた。唯一無二すぎる音楽の裏にあったのは、「好き勝手」を貫く方法論だった。

【打首獄門同好会:大澤敦史(ギター・ヴォーカル)、河本あす香(ドラム・ヴォーカル)、junko(ベース・ヴォーカル)(文中敬称略)】

打首獄門同好会公式Twitterより

還暦発表で「世界が広がった」ベーシストjunko

――2018年末、junkoさんの還暦発表がものすごく話題になりました。皆30代ぐらいと思っていましたから…。未だに「ウソじゃないの?」と。

junko:ウソってことでいいならそうします?(笑) 2人にも、実は数年間は黙っていたんですよね(経緯はマンガを参照)。親子ほども歳が離れていますから、「この人、体力大丈夫?」って思われるかもしれないっていうのが不安だった。今回も、女性の歳を世間にバラすってことには、躊躇したんですよ。ラウドロックバンドで、ガーッていく感じなのに、還暦以上のメンバーがいるって、世間でどういう目で見られるんだろう。ドン引きされたらどうしようって。発表が「バンドにとって本当にいいことなのかな。悪い方に転がらないかな」って不安もあったんですけど。でも公表したら世界がとっても広がりました。

――年齢を公表したら、世界が広がったんですか?

junko:言ってみれば「たかが歳」なのに、言っただけでお友達が増えたし(笑)こちらから声をかけづらかった先輩の皆さんもすごく親しく声をかけてくださるようになって…。

大澤:思ったよりスケール小さい話だった(笑)でも、先輩バンドの方が実は年下で、「今まで呼び捨てにしてスミマセンでした!」って言ってきたりして。面白がってね(笑)。

――ライブでの「ヘドバンし続けるし、金髪も切らないし、いつまでもギャル服を着続ける」というjunkoさんの宣言はTwitterでも拡散されて、特に女性から「憧れる」という声がたくさん届いていました。

大澤:そうですね、ネガティブな意見は本当に来なかったです。そのかわり、「勇気づけられた」っていう人が多くて。

河本:音楽ファンも歳を重ねると「私みたいな歳で、ライブハウス行っていいんだろうか」っていう悩みがあるんですよ。

大澤:そういう人が結構多かったですね。「私ぐらいの年齢で何言ってるんだろう、って反省しました」「ライブ行きます!」みたいな意見がたくさん届きました。

junko:私自身は「この歳だからこうしなきゃ」というマインドが今まで1つもなかったんですよ。あったら、どこかで音楽は辞めていたかもしれない。「親が心配するだろうな」とか「結婚もしないとな」とか、そういうことは何も考えてなかった。でも、世間では色々心配するじゃない?「60ならこれぐらいの感じであるべきだ」って。でも発表しても大丈夫だった。そう考えると、私は今までこういう感じでやって来られたから、今からも多分倍ぐらいまでやっていけそうな気がするよね。この感じで。

――120歳まで…。junkoさんの全然年齢を感じさせない激しいステージングがまた素敵です。

大澤:やんちゃするのを俺がたしなめる係ですから。「こういうタイミングでお客さんのところに飛び込んだらダメです」って。2年前にも骨折してますからね。

junko:足折ったのが2年前で、流血したのが3年前。今日はチークで隠してますけど顔にあざがあります。格闘技を習ってて(笑)。

Nishida Kaori / HuffPost Japan

「若者に共感する歌詞を頑張って作っている大人が多い」

ラウドロックでありながら、歌詞は食べ物のこと、ダイエットのこと、「風呂入ってすぐ寝る計画」のこと。それが「生活密着型」と称される理由だ。

3月6日に発売されミニ・アルバム『そろそろ中堅』に収録される「はたらきたくない」も、すでに代表曲になりそうな人気ぶりだ。激しいロックサウンドで始まった曲は、デスボイス、あるいは寝起きのような「バイトだるい」「起きたくない」という大澤の声が乗った後、一気に展開。河本、junkoがヴォーカルを取った「はたらきたくないねー」という痛快なメッセージで駆け抜ける。(意味がわからない方、まずはYouTubeを見てください)

Nintendo Switchのゲームソフト『WORK×WORK』のテーマソングであるこの新曲が、2018年9月、ツアーのファイナル公演で初披露されると、会場は笑いと感動に包まれた。

――「はたらきたくない」は最初から大盛り上がりでしたね。

大澤:うちのライブってVJ(映像効果を担当するヴィジュアル・ジョッキー)が歌詞を後ろに出しながらライブを進めるスタイルなんで。初めてでも何を歌っているかわかる。だから、ライブで皆が手を叩いて笑ってたんですよ。

河本:あんまりないよね、新曲を披露して爆笑される(笑)。

――その反応を聞かれて、ステージでは。

大澤:ステージでは音楽に集中しているので、「変なこと言ってる」っていうのは自分たちも忘れてるんですよ。一回我に返っちゃうと、こっちも笑ってできなくなるから。我々の課題は、「やってる途中で我に返らない」。何を言っているかを考えるなっていう。でも、たまにツボ入るよね。

――でも曲はものすごくかっこいい、疾走感がすごいです。

junko:デモで曲を貰った時点から、これは雰囲気がすごく良くて、瞬時にかっこいいって思ったんですよ。その時から気に入ってました。曲と歌詞のギャップは毎度のことなので、あんまり意味は考えてないよね(笑)。

――面白いけれど、ちょっとホロリとくる歌詞もあったりして。

河本:ゲームの主題歌でありながら、普通に働いている人にも心に響いた曲になって…。

大澤:響いちゃったね。

Nishida Kaori / HuffPost Japan

――「生活密着型ラウドロック」という独特のスタイルです。そういうスタイルで行かれるようになったのはどうしてなんでしょうか。

大澤:俺がギタリストから流れでヴォーカリストになってしまったので、世界観を歌詞で作り込む概念がなかった。楽器に目覚めた頃からずっと洋楽を聞いてきたんですが、さっぱり何言ってるかわかんないんですよ、英語だから。好きな曲9割ぐらい意味わかってないです。でも、曲は好き。そういう世界観で生きてきちゃったもんだから。だからこのバンドを組んだ時も、サウンドが先にできて、歌詞はどうしよう、っていう感じで。
――サウンドが大事で、歌詞は後からだったんですね。

大澤:色々試してはみたんですけど、一番自然体にできたのが、「朝ごはん食べる」っていう内容の歌詞(「Breakfast」)だったんですよ。ライブでも受け入れられて「こっちでいいなら俺は楽だよ」って。やっぱり、自然体が一番長続きすることだと思うんですよ。逆に、大変だなと思うのは、ラブソングが代名詞になってる人って、きっと恋愛中じゃなくてもラブソングを作らなきゃいけないと思うんですよ。それは大変だな、と。こっちは楽なんですよ。四六時中食事はするから。

――たしかに…。人間そんないつも恋愛はしていない。

大澤:だからそれが結果的にコツっていうか、秘訣になった。偶然なんですけど。長続きするものが勝手に見つかって、そいつらが勝手に導いてくれたので。音楽業界も、古今東西「若者向けにしないと売れない」みたいな風潮がある。それで、若者に共感する歌詞を頑張って作っている大人が多いと思うんですよ。でも、うちのバンドは、いい歳した奴が等身大で書いちゃってるから、若者に全然向けてないんですよね。だから結果的に、年齢が関係なく受け入れられる曲になっている。「布団の中から出たくない」が、ちびっこにも、中国でも大受け!みたいな。

Kaori Nishida / HuffPost Japan

「いたずら半分で色々やっちゃう」戦略

打首獄門同好会のもう一つの魅力は、活動の幅をどんどん広げていることだ。結成10周年を記念して始まったネット番組「10獄放送局」や、人気のクリエイターとのコラボで制作されたMV(ミュージックビデオ)も何度もTwitterなどを通じて「バズ」っており、そこからライブに足を運ぶ観客を増やしてきた。

――色んな手法を駆使して、お客さんを増やされてきたバンドというイメージもありますね。

大澤:そうですね。色々工夫や発明が多いですね。ライブハウスでもスクリーンとプロジェクターを持ち込んでVJをしているんですが「すごく曲と歌詞がシンクロしているのはなんで?」って聞かれるんです。でも実はOffice PowerPointを操作してますよっていう(笑)。普通は思いつかないでしょうけど、こっちは好き勝手やることに慣れているから、何の躊躇もないんですよ。「歌詞を見せるならパワポでやりゃいいんじゃね?」って言って、ほんとにやっちゃう。いたずら半分で色々やっちゃうんですよね。

――MVのYouTubeでの展開だけでなく、ネット番組を自分で作ってしまうという発想も独特ですね。

大澤:インターネットの発達と共にバンドもありましたから。15年前にバンドを組んだ時は、BBS(掲示板)の全盛期。各バンドのサイトの掲示板を皆で行き来しあって、文字だけで告知を書いてました。だんだん、音楽もアップロードできる回線になって、MySpace、mixiというSNSが出てきて、今はTwitter、Facebook、YouTubeで動画も流せるようになった。でも予算はないから手作りで。最初のMVはうまい棒の歌(「デリシャスティック」)でしたけど、知り合いのカメラマンに撮ってもらった写真をPhotoshop elementsで一所懸命切って貼ってiMovieで繋いで。

朝岡英輔

――それも大澤さんが全部自作していた。

大澤:音楽は好き勝手やりたいですから。決して音楽では媚びない。だから、メディア戦略は時代に合わせて、武器やスキルを増やしていこうという心がけはありまして。今って昔に比べて、ライブハウスもバンドもすごく数が多い。悲しいことに、良いライブさえしていれば自然と売れてくるという時代ではなくなって、最低限の戦略性も必要になってしまった。でもそれでこのバンドを知ってライブ見に来た人は、「なんかかっこいいと思ったんだけどこの感情はなんだろう」ってなる。こっちは真剣に演奏はしてますから、そう感じていただけるのは自然なんですけど。

――ライブに行けば決して「ネタ」のバンドではない、ことがわかる。

大澤:音楽家のプライドとしては、絶対に楽曲の構成と演奏の能力でちゃんと与えるものを与えるっていう方向に行かないと。音に関しては、誰でもできるような子供騙しに頼らず、演奏の上手さで感じられる重みとか、音色の良さで問答無用に与えられる迫力とか、ちゃんとそこはこだわりを持って作っています。

Kaori Nishida / HuffPost Japan

――歌詞をどんなに「面白く」されても、守っている部分があるからすごく愛されているんだろうなと感じます。

大澤:「言ってること面白いけど、音楽的に物足りない」みたいなバンドには絶対になりたくない。「このバンド面白い!」と評価されて、ちゃんとライブシーンで生き残っているバンドって、大体演奏もめちゃくちゃ上手い。きちんと「音めっちゃいいな!」そして「ライブ面白いな!」という二面性が、ないといけない。だから、ちゃんと音にこだわっていくというスタンスを今後も貫いていきたいと思ってますね。

河本:ライブで聴いた時に、ワアってくる衝撃はやっぱり演奏力。それがまず来てから、色んな部分が見られるんだと思うんです。だからやっぱ根本的なところ、しっかりした部分ってやっぱ大事かなと。

junko:ふふ、でもライブではお客さん煽ったりするし、わりとかっこつけるわけですよ。で、撮ってもらった写真を見ると自分の後ろに(VJで)「マグロ!」とか出てる…。マジで、こういうライブしてるんだよなって思う。

河本:アホやなあ〜。

大澤:自分たちで動画見て爆笑することあるもん。「何やってんだろこの人たち」って。

junko:お客さんはVJで歌詞も、ライブ全体も楽しんでくれてるし、我らながら、このバンドって盛りだくさんだなって思ってます(笑)。

名曲「私を二郎に連れてって」のライブ場面
名曲「私を二郎に連れてって」のライブ場面
朝岡英輔
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