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2020年10月30日 07時43分 JST | 更新 2020年10月30日 08時36分 JST

“トランプ再選”が日本にとっては経済面で有利か。アメリカ大統領選、日米関係への影響を識者語る

【徹底比較】トランプ大統領とバイデン氏、それぞれの勝利で日米関係はどう変わるのでしょうか。

Jim Bourg / Reuters

世界が注目するアメリカ大統領選。

共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン氏の一騎打ちは、11月3日の投票日まで1週間を切り、終盤戦を迎えています。

そこで気になるのが「大統領選の結果が日本にもたらす影響」です。どちらの候補が次期大統領になるかによって、日米関係はどう変化していくのでしょうか。

日本への影響が大きい「外交・安全保障」「経済」「貿易」のポイントから、両者の政策を比較します。

トランプ大統領・バイデン氏、各分野における両者の方針は?

Mario Anzuoni / Reuters

■ 外交・安全保障

トランプ大統領

・アメリカ第一主義を掲げ、多国間主義やグローバリズムに否定的。地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱宣言、世界保健機関(WHO)からの離脱表明など、国際条約や機関から離脱を進めてきた。
・米軍が駐留する同盟国に米軍駐留経費の大幅増を求めてきた。日本に関しては、在日米軍駐留経費(=思いやり予算)に関する現行協定が2021年3月に期限を迎えるが、大幅な負担増を要求してくることが予想されている。

バイデン氏

・オバマ政権と似た国際協調路線。大統領になったら、パリ協定への離脱を直ちに撤回し、WHOにもとどまる方針を表明している。
・中国への対抗や、核拡散防止条約、気候変動といった分野で協力するため、同盟国との関係を重視する。

■ 経済

トランプ大統領

・法人税や所得税の減税などの「大型減税」、環境、エネルギー、金融などの分野での「規制緩和」、そして交通や通信、電力などの「インフラ投資」などで、経済の活性化を目指してきた。

バイデン氏

・富裕層への増税や、法人税の引き上げなどを主張。環境への規制強化に意欲を示しており、再生エネルギーなどに巨額の政府予算を投じることで、雇用創出と経済成長を図る。

■ 貿易

トランプ大統領

・アメリカ第一主義を掲げ、他国からの輸入品に高い関税をかける保護主義的な貿易政策を次々に打ち出してきた。
・2017年には、自国産業と雇用の保護を訴え、TPP(環太平洋経済連携協定)離脱を表明した。

バイデン氏

・民主党の政策綱領には「自滅的な関税政策には頼らない」と盛り込み、対中制裁関税を非難する。
・一方で、保護主義にも理解を示す。アメリカ国内産業の保護にも力を入れて、トランプ氏を支持してきた労働者層の取り込みを図る。

日本にとって「有利な」候補者は…

Rey Del Rio via Getty Images

それぞれ対照的な方針を打ち出している両氏。専門家は日本への影響をどう見るのでしょうか。米国政治に詳しい上智大学の前嶋和弘教授に聞きました。

ー トランプ大統領とバイデン氏、どちらの候補が大統領になった方が、日本にとって恩恵が大きいのでしょうか。

日本にとってどちらの政権が有利ということは、一概に言えないと思います。共和党と民主党の政策が分極化しているため、この部分は日本には有利だが、別の部分では不利というように、総合的に見て日本にとってどちらが良いかということは言いにくくなっています。日本経済や外交・安全保障にとってはトランプ大統領再選がプラスと言えるかもしれませんが、駐日米軍に関する「思いやり予算」の上積み要求などは、バイデン氏のほうが可能性は低いでしょう。安全保障、経済、貿易、環境など、どの視点に立つかで見方は大きく変わってくると思います。

undefined undefined via Getty Images

ーー トランプ大統領が再選した場合、現在の方針から変化はあるでしょうか。

トランプ大統領が再選すれば、おそらくこれまでの路線が継続されるでしょう。大きな流れとしては、「もはや世界の警察官ではない」と “引いていくアメリカ” です。

一方で、矛盾しているようですが、「力による平和」を掲げ、軍事費は増額していく。これはトランプ大統領らしいのですが、軍需産業っていうのはアメリカの製造業であって、つまり国内の製造業保護と雇用対策なんですね。

外交では引き続き「アメリカ第一主義」を掲げていきます。対中強硬路線は変わらず、中国からの輸入品に高い関税をかけることで、安全保障を動かしていくでしょう。貿易でグリップを利かせて、安全保障の分野で妥協させていくという方法です。尖閣問題をはじめ中国に脅威を感じている日本は、ある意味トランプ大統領のこの手法に「乗っていた」部分もあります。一方で、こうした米中貿易摩擦は、中国・アメリカと経済的な結びつき強い日本には、打撃も大きいのが事実です。

株式市場では、トランプ大統領再選への期待の声も大きいでしょう。政府が減税、規制緩和、インフラ投資と大盤振る舞いをし、短期的には株価が上がり景気が良くなる。アメリカ経済の好調が日本にメリットをもたらすとするならば、トランプ大統領再選は日本経済にとってプラスに働く可能性があります。

バイデン氏が当選したら変わる2つのこと

Mike Blake / Reuters

ーー バイデン氏が当選した場合、日本にはどのような影響があるでしょうか。

大統領選挙の争点は基本的に「内政」ですから、外交や安全保障などに関するバイデン氏の方針はまだ明らかではありません。

ただ、バイデン氏が大統領になった場合、「2つの変化」が日米関係に影響してくるのではないかと考えています。

まず1つは、政策において「環境」や「人権」が重要なテーマになり、それに伴って「安全保障」の相対的な優先順位が下がっていく可能性です。特に中国に対しては、トランプ政権があまり踏み込んでこなかったウイグル・チベット問題や環境問題にも厳しく対応していくことになる。そうすると全体として、尖閣や北朝鮮をめぐる安全保障の議論のプライオリティは下がっていくことが予想されます。

環境問題はもはや、安全保障に関わる問題にもなってきているんですね。3週間ほど前、カリフォルニア州に住んでいる民主党の支持者が電話で「カリフォルニアの山火事は、トランプ政権と中国が二酸化炭素排出の規制をしないからだ」と話していました。もちろんこれは極端な話ですが、(環境問題をめぐる)こうした空気は確かにあります。カリフォルニアは民主党支持者が圧倒的に多く、まさに民主党の「牙城」。それだけに、バイデン氏は環境問題に関して、かなり厳しく取り組んでいくことが予想されます。

Jonathan Ernst / Reuters

2つ目は、オバマ政権のように「専門家に委託する外交」に戻っていきます。政権には、日本政府の手法を知り尽くした「ジャパンハンドラー(知日派)」が入ってくるでしょう。民主党では、たとえばスーザン・ライス氏やミシェル・フロノイ氏などです。

共和党政権にも本来は知日派の専門家がいるのですが、従来の政権運営に縛られないトランプ政権は、既存の政権中枢の人間を「Deep State(影の政府)」とみなし、政権内部に入れるのを拒否してきました。

バイデン氏が大統領になり、政権に知日派が戻ってくれば、日本にとって「足元を見られた外交」が展開される可能性が高くなるでしょう。

トランプ外交と具体的にどう変わるのかですが、たとえば、エスパー米国防長官が9月、日本を含む同盟国に「国防費を国内総生産(GDP)比で少なくとも2%に増やしてほしい」と表明しました。(編注:日本の防衛費は現在、GDP比で約0.9%)このように最初にこちらの驚く大きい数字を提示し、そこから相手国とディールしていくのがトランプ政権のやり方です。一方バイデン政権は「日本がここまでは譲歩するだろう」と見極めて、最初から「日本が飲みやすいけど、逆に飲まざるを得ないような要求」を突きつけてる可能性はあると思います。たとえば前述の国防費の例では、2%ではなく、もう少し妥協できる数字を出してくるといった具合です。

トランプ政権とは、安倍政権が築いた「シンゾウ・ドナルド関係」もあり、この良い関係性はおそらく「ヨシヒデ(義偉)・ドナルド関係」として引き継がれていく。

そういう意味では、外交・安全保障の観点では、日本にとって「トランプ政権の方がやりやすい」という側面が出てくるかもしれません。

思いやり予算やTPPの行末は…

SOPA Images via Getty Images

ーー トランプ政権は、米軍が駐留する日本や韓国、ドイツなどの同盟国に米軍駐留経費(「思いやり予算」)の大幅増を求めてきました。トランプ大統領再選の場合、日本は2021年3月に期限が切れる在日米軍駐留経費をめぐる協定の更新において、交渉の難航が予想されています。バイデン氏が当選した場合は、どうなるでしょうか。

民主党が政権を獲得すれば「思いやり予算」で揉める可能性は高くないと考えています。日本の負担割合は約70%ほどで、他の同盟国と比べても高い。知日派の専門家が対日外交を担うバイデン政権ならば「これ以上出しようがない」というのは分かっているはずで、この点を強く攻めてくるのではなく、他の点で負担を要求してくるのでは思います。 

Mike Segar / Reuters

ーー トランプ大統領は2017年にTPP(環太平洋経済連携協定)からの脱退を決めました。バイデン氏が政権をとった場合、TPPへの復帰の可能性はあるのでしょうか。

TPPへの復帰はバイデン氏が大統領になっても難しいと考えています。日本側にとってTPPは中国の影響力を封じ込める包囲網ですが、アメリカでは民主党にも「アメリカの雇用が失われる」と主張するTPP反対論が出てきています。

また環境の観点でも、TPPには反対の声があります。貿易をさらに自由化することで、環境規制の弱い製品や、カーボンフットポイント(製品が生産され廃棄されるまでの二酸化炭素排出量)が高い製品がアメリカに輸入されるリスクが指摘されているからです。

バイデン氏は「新しい自由貿易協定はアメリカに必ず明らかなメリットがない限り入らない」と表明していますし、TPPがアメリカ国内でこれほど「悪者」となっている以上、復帰は困難だと考えています。

前嶋和弘教授 ご提供
前嶋和弘教授

前嶋和弘(まえしま・かずひろ)

静岡県生まれ。上智大学教授。専門は現代アメリカ政治外交。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。主な著作は『アメリカ政治とメディア』(北樹出版、2011年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著、東信堂、2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著、東洋経済新報社、2019年)、Internet Election Campaigns in the United States, Japan, South Korea, and Taiwan (co-edited, Palgrave, 2017)など。

11月5日夜9時(日本時間)から、モーリー・ロバートソンさん、長野智子さんとともに議論します。また、これまでアメリカの「ラストベルト(さびついた工業地帯)」を訪ね歩き、今回も現地で取材をしている朝日新聞機動特派員の金成隆一さんと中継をつなぎ、投票直後の「アメリカ」を伝えていただきます。

番組はこちらから=>
Twitter: https://twitter.com/i/broadcasts/1lDGLylbnRQJm
YouTube:https://www.youtube.com/watch?v=iqjG-xll4j8&feature=youtu.be

(時間になったら自動的にはじまります。視聴は無料です)