このたび、新書『御社の働き方改革、ここが間違ってます! 残業削減で伸びるすごい会社』(PHP研究所)を発刊しました。(7月発売で品切れになっていたのですが、9月1日にやっと重版が到着しました。)
新刊の中では、「大手マスコミは働き方を変えられるか? 記者たちの覆面座談会」と題して、大手テレビ局、新聞社で子育てをしながら働く女性記者による座談会を実施しました。その内容を、3回に分けてご紹介します。
今回は第2回目です。(第1回目はこちらから)
今回は「恵まれた仕事も夫もある女性が仕事を続けたいというのはわがままなのか?」という問いかけをしてみました。少なからずそういった声はある。またそれが女性たちを分断します。こんな記事もあります。
どんなに恵まれた環境にあっても、悩みや申し訳ない気持ちが消える訳ではない。むしろ恵まれているからこそ「こんなことを言ったら反感を買ってしまうかもしれない」と、悩みを一人で抱え込んでしまう人も多い。私もずっとそのジレンマを抱えている。
以前、女性同士のキャリア観の違いによって女性同士が細かく分断されてしまうことを「ガラスの床」と表現したコラムを読んだが、まさにそんな感じだ。
男性だって女性だって、好きな仕事を理不尽に奪われることはある。しかし「子育て」という理由で、努力してはいった、やりがいのある仕事を奪われるのは「女性特有」のことかもしれません。
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(以下、『御社の働き方改革、ここが間違ってます! 残業削減で伸びるすごい会社』より抜粋)
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【メディアがつくり出す、「昭和」な役割意識】
山口:メディアって文化を創っていく面があるし、社会を映し出している面があるじゃないですか。「二十四時間がんばるマン」型の記者たちだけでやっていると、社会全体の多様性をキャッチできなくて、報道が偏ってしまう。
小関:ワイドショーって、だいたい年齢の高い女性が見るんですよ。デスク陣も考え方が凝り固まっているから、働くママの企画を出すと「おばあちゃんたちは女の人が働くのは嫌いだから」ってはねられる。いかにデスクを説得しつつ本質に近づけるVTRを作るかという交渉をしなきゃいけない。
白河:とらえ方が一面的なんですね。
佐藤:「子育ては女性がするもの」という固定観念が番組を通じて広まっていく。そうした考えが世の中に再生産されるんです。
白河:男の子のママの有名なキャリアウーマンが「男の子もちゃんと家のことをやるんだよ」って言ったら、「大丈夫、僕、奥さんにやってもらうから」って言われて愕然としたんだって。ママは外で仕事をして、パパも家事をやっているのに、どこからそんな考えが来たのかって思ったら、『妖怪ウォッチ』だったって。『妖怪ウォッチ』のお母さんは専業主婦。作り手の恣意みたいなものが子どもにいかに影響するかということですよね。
小関:保活のニュースのとき、VTRでお母さんがものすごく怒っているシーンを使ったら、スタジオにいたオジサンが「お母さん、怒りすぎだよ」って言った。そういうシーンを削り取ろうとするんです。
青木:そういったジェンダー観がすごく弊害になっている。自分たちがジェンダー観に縛られているということに気づいてもいない。意思決定の立場にいる人は、自分と同じような人を引き上げていくから、同じ価値観の意思決定者が再生産される。何か革命でも起こらない限り変わらない。
【メディア上層部は働き方改革をどうとらえているのか】
白河:今後メディアは、働き方改革や女性活躍に向けて変わっていくでしょうか。
小関:完全に義務化しない限り、メディアが一番変わらないかもしれない。
佐藤:「メディアは例外」と思っているんです。「テレビや新聞だから、しょうがないじゃん」って。
白河:金融業界などは、横並びになろうとしてお互いに相談しながらやっていますよね。
佐藤:オジサンたちの中に「やらなきゃいけない」というモチベーションが一ミリもないですからね。もっと強く指導してもらわないと、理解もしない。
山口:経営者の中にもわかっている人はいるんでしょうけど、コストを払ってまでやるものではないという感じですね。だから、メディアで働いている女性は、自分で外的リソースを使って、がんばって、何とかしちゃうんですよ。
佐藤:それを見て、「会社がやらなくてもできてるじゃん」という感じになる。
小関:私たちの企画って、世に問うという面もありますけど、自分の会社の経営層にも見てほしいと思っている。全国ネットのトップニュースで流したら、さすがに見てるよねと思ったんだけど、少なくとも全然頭には残っていない。
白河:みなさん、平気でスルーできる、都合のいい脳を持っていらっしゃるのでしょうね。どうしたら変わるんでしょうか。会社が潰れるくらいの危機的なことがないとダメということなんでしょうか。
佐藤:もしくは、政府から強く言われるとか。
小関:ただ、ちょっとだけ変わりました。前は、お母さんが子どもを保育園に預けるときに、記事の中で「なぜその人は保育園に預けなければいけないのか」という理由を書かなければいけなかった。家のローンが大変とか。普通の人が預けているだけなのに、なんで私はこんな言い訳のようなことを書かされているのかと思いました。今は、そういう前置きはしなくてよくなりました。安倍政権の女性活躍推進法のおかげでちょっとだけ変わりました。
山口:働き方改革担当相ができたのは、個人的には涙が出る思いですよ。
白河:女性活躍を女性だけに言っても何も解決しないし、男性の働き方、会社全体が変わらなきゃいけないというステージに来ているんですね。
佐藤:テレビ局の特徴かもしれませんけど、正社員はあまり多くなくて、派遣社員や子会社・関連会社の社員が多い。働き方改革で「同一労働同一賃金」になると、派遣の賃金を上げなきゃいけないからすごく心配している。だけど、男性に育休を取らせることが働き方改革だとはまったく考えていない。関心があるのは、派遣の人との賃金のすり合わせのことばかりですよ。
【子どもを産んでも働き続けたいのは「わがまま」?】
白河:正社員で、いいお給料をもらっていて、旦那さんがいて、子どもがいて、贅沢すぎるんじゃないかという意見があるんです。それに対してはどう思いますか。
青木:確かに、よく言われます。「正社員で、子どももいて恵まれている」って。「わがまま」と言われることもあります。
山口:みんな一生懸命にがんばって就職して、会社でもがんばって働いてきたのに、子どもを産んだことで仕事を失ってしまいかねない。仕事を失いたくないというのが「わがまま」と言われるんですね......。保活のことを記事に書いても、「この人そんなに困窮していないよね」「生きる死ぬの話じゃないよね」と言われる。死ぬ寸前まで苦しんでいる女性のことじゃないと記事にできないのはおかしい。
小関:私が保育園問題をニュースで取り上げ始めたときも、女性がめちゃくちゃ苦しい保活をしているのに、「女が騒いでいる」の一言で片付けられた。上の世代にも少なからず共働きの人がいるのに、報道機関にいながら、なんで扱ってこなかったのか。「そんなの、おかしい」という気持ちが動機としてありました。
(次回に続く)
「働き方改革」の光と影、その本質に豊富な取材をもとに迫る一冊