木の学び/机と椅子の更新から考える森林の循環

「日本の木を使っているということで、温かさも感じる」

森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。3月号の「NEWS」欄では、ネパールでの植林活動を続けてい学校法人自由学園(東京都東久留米市)の女子部(中等科・高等科)では、古くなった教室の机と椅子を新しくするに当たり、何年もかけて生徒自身が検討を重ねることで実践的に"木"を学ぶ取り組みがなされています。新しい机と椅子の第一陣が使われ始めたのを機に、指導に当たった自由学園非常勤講師の遠藤智史さんから、学びの過程を報告してもらいました。

●木の伐採・搬出に携わった人たちと自由学園の生徒たちで、仲良く記念撮影
●木の伐採・搬出に携わった人たちと自由学園の生徒たちで、仲良く記念撮影
自由学園

自由学園では「木の学び」が幼児生活団(幼稚園)から最高学部(大学部)までの一貫教育の中で、随所に取り組まれている。2017年12月に新たに竣工した木造校舎「自由学園みらいかん」は、創立者羽仁吉一の「生徒が植えた木で校舎を建てよう」というスケールの大きな夢が半世紀という時を経て実現した。建物や家具に使用された木材の8割以上に、男子部高等科と最高学部の生徒・学生が、埼玉県飯能市と三重県紀北町の植林地で約70年にわたって育ててきたヒノキを活用している。

これらの植林地の木材は、初等部の図工教材としても扱い、他にも男子部(中等科・高等科)では教室で6年間使う机と椅子を生徒が入学年に製作しており、その材料としても使用している。最高学部でも、植林地の木材を用いて東久留米市内に公共ベンチを設置したり、ネパールで森づくりを手がけたりしている。2015年からは埼玉県飯能市で新たに針広混交林化による明るい里山づくりを進めている。

生徒たちによる推進係

こうした中で2011年に、女子部(中等科・高等科)では、教室で使っている木製の机と椅子各300台を全て更新・新調することが決まった。古くは約80年前に揃えていた物も、いくつか現役で使われていた。これまで生徒たちが何度も修繕を繰り返し、傷みが激しい物は数十台ずつ新しく買い替えていっていたようだ。老朽化と機能性の見直しがきっかけとなった今回の新調プロジェクトは、教職員がカタログから選んで揃えてしまうのではなく、生徒たちからプロジェクトを推進する係を出して、女子部の木造校舎に合う机と椅子を考えてみよう、という自由学園ならではの企画となった。

●80年使っていた机と椅子(左)と、新調された机と椅子(右)
●80年使っていた机と椅子(左)と、新調された机と椅子(右)
自由学園

私がこの学びの狙いにしていることは、木製品と森林とのつながりを知り、材料の背景までを追って森林の利用と循環の意義を学ぶことである。建物にしても家具にしても、森林資源を利用することは地球環境に何かしらの変化を与え、今回の更新のように、いつか再び同じプロセスを踏んで資源を利用することになる。その際に、森林の循環に我々が積極的に関わっていくためには何ができるのかを生徒たちと考えてきた。

係の生徒たちは、既に3代にわたって交代して学びを深めている。2012年に当時高等科2年生だった94回生から係が出され、主に椅子について取り上げて80年間の歴史を振り返り、現在に至るまでの経緯を詳細に調査した。また、専門家や木工メーカーにアドバイスをいただきながら、家具の基本的な構造やデザインを学び、係の生徒たちそれぞれが理想とする椅子のプロトタイプを完成させた。2014年から、2代目の97回生の係たちは机の考察を行い、二人用だった机を生徒の身長に合わせて使い分けられるように、一人用としてデザインした。

探し出した国産広葉樹材

木材は、仕様や耐久性を検討した結果、広葉樹材を用いることに決まっていたが、生徒たちは自由学園が使うべき、選ぶべき材料は、どこのどのような広葉樹なのだろうかという課題に直面した。学びを深めていく中で、日本の森林率と木材自給率のギャップや、広葉樹でできた木製品の多くが外国産の輸入木材か輸入製品であることを知り、可能な限り材料の背景を追うために国産材を探すことになった。

そこで、国産材で家具を製造している株式会社ウォールデンウッズの吉川和人氏に相談した。吉川氏から、机と椅子各300台全てを同じ樹種で統一することは国産材では難しいが、いくつかの樹種を混ぜて上手く活かせば生産できるとアドバイスを受け、岐阜県郡上市にて広葉樹人工林の造林に取り組む団体「ものづくりで森づくりネットワーク」(以下、もの森)を紹介され、団体が管理している広葉樹林から木材を提供してもらうことになった。

2017年に、3代目の100回生が係となり、8月には、もの森代表の山口博史氏に森林を案内していただき、今回のプロジェクトのために伐採する場所を見学した。さらに、立ち木の状態で材積を割り出し、歩留まりを考慮した上で各300台のために必要な森林面積を、この森林をモデルにして理解することができた。

10月には再び岐阜へ向かい、伐採後の状態を目にした生徒は、一言「え!?」と驚いて、ぽっかりと空いた森林の空間に唖然としていた。本当に木を伐ってしまって良かったのだろうか、という疑問が湧いたようだ。もの森で計画と施業を担当されている塩田昌弘氏、澤田良二氏から話を伺ったところ、人工林は木を利用して循環することで成り立つもので目的を持った広葉樹造林の計画が大切である、と教えていただき、生徒たちは納得した様子だった。もの森から提供していただいた広葉樹は、主に机の天板用として使われ、不足分は岐阜県内の広葉樹を用いた。最終的に製品となった樹種は、カンバ、サクラ、ブナ、ナラ、シデ、ミズメ、カエデ、コシアブラ、アズキナシ、ハンノキである。

●森林の循環を学ぶため、生徒たちは伐採前(左)と伐採後(右)に森を訪ねた
●森林の循環を学ぶため、生徒たちは伐採前(左)と伐採後(右)に森を訪ねた
自由学園

係の生徒たちは、これまで6年間のプロジェクトをまとめ、11月に行われた学業報告会という学校行事で発表した。学びの総括では、このプロジェクトが学校の備品の新調にとどまらず、学内全体として意識を持とうとしている国際目標「SDGs」(国連で採択された持続可能な開発目標)の中でも、循環型社会の形成につながる部分があるとして、さらにこの学びを魅力的なものにしていくと締めくくった。

引き出しは授業で製作

現在、各300台中の100台が納入され、高等科の教室を中心に使われ始めている。また、新しい机では、引き出し用の木箱を生徒たちが授業で製作して使用している。この木箱の木材は、中等科3年生の時に見学している三重県の速水林業のヒノキであり、製作時に日本の森林や林業、そして森林認証制度について学ぶ機会となった。

生徒の感想にはこのようなコメントもあった。「新学期が明けて、教室に入った時、新しい机と椅子の木の香りに驚いた。一気に教室内が明るくなった気がする。そして、机の中にこの小箱が入ったら、もう教室とは思えないところになりそうだ。日本の木を使っているということで、温かさも感じる」

今後2年間にわたり、残りの200台が製造される。係の生徒たちは、今年も岐阜の森林に足を踏み入れる計画でいる。また、古い机と椅子はできるだけ廃棄せずに使っていこうと考えており、これからその仕組みを作っていく予定である。

この学びは、机と椅子が完成して終わりではなく、2021年に創立100周年を迎える自由学園が、その歴史を基に学校生活の一部を何代にもわたって考えていく取り組みである。いつか、またこの机と椅子を見直す日が来た時、生徒たちが植えて育てた広葉樹で新調する日が迎えられることを期待している。

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