サイボウズ式:「役職にかじりつく」「フォロワーのいない」上司はリーダー失格──ヤフーの人財戦略と新たな課題

「爆速経営」を推し進めるヤフーが新たに作り上げた人事制度・人財戦略について、同社の湯川高康ピープル・デベロップメント戦略本部長とサイボウズ執行役員・事業支援部長の中根弓佳が語り合うこの対談。

「爆速経営」を推し進めるヤフーが新たに作り上げた人事制度・人財戦略について、同社の湯川高康ピープル・デベロップメント戦略本部長とサイボウズ執行役員・事業支援部長の中根弓佳が語り合うこの対談。バリューの浸透や評価制度について語った前編に続き、後編では新人事制度の重要なポイントである「リーダーシップからフォロワーシップへ」という考え方を中心に話が進みます。「上司力」を高めるための、ある意味シビアな施策の数々に、中根も思わず驚愕・絶句! ヤフーが優秀な人材を輩出し続けられる秘密が、たっぷりと詰まっています。

「あなたは今の上司についていきたいですか?」と全社員に訊いた

中根:ヤフーさんが導入された新しい人事制度では、人材育成、特にリーダー層の能力を開発することにフォーカスした仕組みをたくさん作られていると聞きます。

湯川:そうですね。今回の人事制度では、「リーダーシップからフォロワーシップへ」という、大きな考え方の転換をしました。

ヤフーはもともとベンチャー企業ということで、リーダー自身が先陣を切ってガンガン動く傾向が強かったんですよ。部下の育成も「俺の背中を見て育て」みたいな。

中根:ああ、ありがちですよね。

湯川:でも組織が大きくなってくるとそれでは限界があります。リーダー層には「いかにチームとして成果を上げるか」に力を入れてもらわないといけない。5000人いる企業なんだから、まずは5000人分の力をきちんと出せるようにしよう。そのためにリーダーが、部下が10人いるなら10人分の力を充分に引き出せていなくてはいけない。

中根:リーダー自身がガンガンやっていると、どうしても「上司がやってくれているからいいや」となってしまいますもんね。

湯川:ええ。そこでフォロワーシップという考え方を導入したわけです。後ろを振り返ってみて誰もフォロワーがついていない上司はリーダー失格。いいリーダーはフォロワーの数を見たらわかる、という考え方です。

中根:フォロワーシップへの転換にあたってどんなことをしたのですか?

湯川:まずやったのは非常にシンプルで、全社員に「あなたは今の上司についていきたいですか?」と訊いたんですよ。そこで結果が悪かったら、リーダーを交代してもらいました。

中根:シビアですね。外されたリーダーが文句を言ったりしなかったのですか?

湯川:ヤフーでは役職は「配役」という位置づけにしているんです。今回は申し訳ないけれどもリーダーという配役から交代してもらいます、ただし当然今後、またリーダーに戻ってもらうこともありますよ、ときちんと説明したので、さほど大きな反発はありませんでした。もともと当社では管理職になっても管理職手当のようなものは付けていないので給料は変わらず、リーダーとしての経験を積めることに重きを置いています。

とはいえ、新体制になったばかりの頃は、「考え方が違う」ということで去っていった社員もいます。「ヤフーバリューは絶対的なものなので、ヤフーにいる限りは譲れない考え方」と最初にはっきり宣言しましたし。ただ、こうしてメンバー全員に上司のことについて訊いたことはめちゃくちゃポジティブな反応でしたね。

中根:私も個人的に付き合いのある貴社の社員の方から「最近会社が変わってすごく楽しい」という声を聞いていました。

湯川:上司の陰口を言うって、すごく不健全じゃないですか? 陰で言うのではなく、どこが悪いのかをきちんと言ったほうがいい。

「ななめ会議」というのも、そのための施策です。メンバーに対して、隣の部署の上司が「あなたの上司はどうですか?」と訊いて、誰が言ったのか名前は伏せた上で改善してほしいことなどをフィードバックするというものです。それを受けて、上司は部下の前で、自分はこれからこう変わっていくと宣言します。

中根:なるほど、ヒアリングする隣の部署の上司もそれを聞いて自身の行動の振り返りに活かせそうですね。

湯川:先ほどお話したバリュー評価(多面評価)でも、管理職は自分の上司と部下全員から評価されます。10人部下がいたら10人全員から評価されるんです。下の人がちゃんと評価して緊張関係を保たないと、上司はどんどん勘違いしてコミュニケーション不全を起こしますから。フォロワーシップという考えに変わったので、今は上司と部下は完全に対等です。

中根:徹底していますね。

部下に対して同じコメントしかできない上司は明らかに怠慢

中根:上司からメンバーへのフィードバックについても、何か新しい仕組みはあるんですか?

湯川:「人財開発カルテ」「人財開発会議」というものを導入しました。

「人財開発カルテ」は、自律的なキャリアを描くための支援ツールで、半年ごとに各メンバーが「自分は今後、こういう経験をして、こういうふうになっていきたい」という希望を、キャリアシートに書いて自己申告するんです。それに基づいて、直属の上司だけでなく複数の上司が集まって「この人にはこういう経験をさせたほうがいい」と話し合うのが「人財開発会議」。人財開発会議で話し合われた内容をサマリーしたものを、各メンバーに返しています。

中根:なるほど。

湯川:ただし、これもリーダーの力を高めるためのものでもあるんです。管理職の人財開発カルテの中には、「自分の後任には誰が適切か?」という設問も入れていて、最低2人の後任を指名してもらいます。自分の役職にかじりつくのではなく、後任を育てる意識を持ってほしいからです。万一、その人が抜けた時に、後任が誰も育っていないというのでは組織としてのリスクも高いですし。

また、人財開発会議で、部下に対して同じコメントばかりしている上司は、「じゃああなたは半年間、そのメンバーの成長のためにいったい何をしていたんですか?」となる。それは明らかに上司の怠慢ですよね。上司自身がいかにメンバーと向き合っているかが問われるわけです。

中根:上司の育成、部下の育成、両面の意味があるんですね。

人は変化があった時にこそ大きく成長する

中根:人財開発カルテに近いものだと、サイボウズでも、「Myキャリ」という制度があります。自分ができるようになったことと、やるべきこと、さらに自分が今後やりたいことが重なるとチームとしても個人としてもハッピーなので、それをできるだけマッチングしていきたいと思って作りました。

やるべきことは上司からリクエストする。だから、経験してきたこと(できるようになったこと)と、「今すぐやりたいこと」「3年後やりたいこと」「いつかやるチャンスがあったらやりたいこと」をシートに書いてもらい、それに基づいてその人の今後のキャリアを考えていく、という制度です。記載することによって、自分のキャリアを考えるきっかけになります。

湯川:確かに近いですね。

中根:ただし、居心地のいい部署にいると、「今後こういうことをやりたい」というのを書かなかったりするんですよね。「自分がやりたいのは今の仕事なので」ということで。

湯川:その点について、ヤフーでは「ジョブチェン」という制度も設けています。同じ仕事は3年以上はしない、3年に一度は必ず異動する。ただし、強制的に異動させてもうまくいかないので、自分で行きたい部署を選ぶというものです。いわゆる自己申告異動ですね。

以前もこれに近い自己申告異動制度はあったのですが、結構制約が厳しかったんです。ジョブチェンでは1年半たったら申告が可能で、ハードルがかなり低くなっています。

人間は元来、保守的な動物で、変化をあまり好みませんよね?

しかし、変化があった時にこそグッと成長するというのも明らかです。制度として入れないと、どうしても慣れた環境に安住したくなるということで導入しました。

まあ、ヤフーはもともと異動が好きな会社で、3年以内に異動になるケースも多かったんですが。

中根:3年で勝手に異動させられるなら、自分から行きたい部署を選んで手を挙げたほうがいいと考えるでしょうしね(笑)

湯川:それはありますね(笑)。この「ジョブチェン」についても、まさに上司がフォロワーシップを発揮していないと、部署の全員が手を挙げることもあり得るんですよ。

中根:厳しい現実ですねえ。

環境を変えて違う仕事をするのがスキルアップの最短の道というのは全く同感です。サイボウズでは異動は本人の希望や納得感も大事にしています。一方的、強制的な異動はほとんどありません。

湯川:サイボウズさんでは、職種を越えた異動もあるんですか?

中根:もちろんあります。営業から人事に、といった異動はありますね。

湯川:うちも、以前は人事の人はずっと人事、という感じだったのですが、最近は社内での人材の流動性が高まっていますね。

中根:人事って、ある意味、会社の価値観を明確にしていく仕事といえますよね。その部署を経験した人が社内のいろいろな部署にいるのはいいことだと思います。

湯川:同感ですね。

新オフィスは「みんなが来たいと思ってくれる」場にしたい

中根:新しい人事制度を導入して2年経ちましたが、課題は見えてきましたか?

湯川:ヤフーバリューを身につけてもらうことはできてきたので、今後は1人ひとりに、プロフェッショナルとしての役割をもっとどう発揮してもらうかを定義していかなくてはならないと思っています。

全体のテーマとしては、「働き方改革」を進めています。2年後の2016年にオフィスを引っ越すのですが、それに合わせて、固定概念にとらわれない、イノベーションを起こすのに適した働き方を確立したい。ダイバーシティなども含め、働き方が多様化しているので、それにマッチした仕組みをつくるのが人事にとっての大きなミッションです。

中根:働き方改革について、今現在取り組んでいることはあるんですか?

湯川:今年4月から「どこでもオフィス」という制度を導入しています。月2回まで、自宅でもカフェでも、それこそ海でも山でもどこでも仕事をしていいというものです。我々はネットの会社ですから、それを活かした新しい働き方ができないかと模索しています。

中根:当社では恒常的な働き方の選択に加え、一時的に働く時間や場所に制限を設けない「ウルトラワーク」という制度を導入しています。台風が来た時などは出社している社員は少ないですね。

湯川:サイボウズさんはそのあたり、非常に進んでいますよね。当社ではみんなマジメなのか、「どこでもオフィス」のような制度があってもまだなかなか利用が促進されていません。

中根:当社でも、在宅勤務を導入したばかりの時は、サボっていると思われるのを恐れるあまり、メッセージに即座に返信するとか、1日の終りに目に見えるアウトプットを出すとかいうことにこだわって、逆に疲れたという声もありました(笑)。

湯川:わかりますね(笑)。ヤフーでは、「どこでもオフィス」のような制度を導入しながらも、基本は顔を突き合わせてワイワイやったほうがいいものが生まれる、という考え方なんです。だからオフィスを新しく作るにあたっては、「どうやったらみんなが来たいと思ってくれる場にするか」を考えています。

中根:実はサイボウズも来年、移転を予定しているんです。そこはリアルとバーチャルの特性を活かした、コミュニケーションが実現できるオフィスにしたいと考えています。リアルは直接顔を合わせて場を共有できる良さがあります。バーチャルも含めてサイボウズの社員だけでなく、サイボウズを取り巻くいろいろな方々が集まり、つながり、コミュニケーションが自然に生まれるオフィスを目指したいと思っています。

湯川:いいですね。

中根:人材輩出企業といわれる会社はたくさんあると思いますが、「サイボウズにいる人・いた人は優秀」「活き活きしている」と言ってもらえるとやはりうれしい、そうなるとますますいい人材も集まってくれると思います。能力を活かす人事制度を考える上で、今日は学ばせていただけることが本当に多かったです。ありがとうございました!

湯川:こちらこそありがとうございました!

文:荒濱 一 撮影:谷川 真紀子 編集:渡辺 清美

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