あの人のことば
2019年10月18日 07時37分 JST

「ゲイの居場所は、“2丁目”か、NPO的なものだけだった」 どちらも馴染めなかった僕は…。

「世の中とLGBTのグッとくる接点をもっと」をテーマにコンテンツを発信している「やる気あり美」編集長の太田尚樹さん。なじめなかった記憶を、どのように笑えるコンテンツに変えてきたのでしょうか。

太田さん提供
「やる気あり美」のメンバー

「世の中とLGBTのグッとくる接点をもっと」。そんなコンセプトのもと、記事や動画を配信している「やる気あり美」というメディアがある。

「仏教的にLGBTはどうなのか?」をテーマにお坊さんと座談会をしたり、「ゲイだとカミングアウトされたときにどんなリアクションを取ってほしいか」をテーマに動画をつくったり……。力の抜け具合が絶妙なコンテンツは、SNSでも話題だ。

編集長を務める太田尚樹さんは、高校時代にゲイだと自覚して以降、既存のゲイカルチャーになかなかなじめなかった経験を踏まえ、自分にとってもっと「居心地の良い」場所づくりを模索してきたという。

この数年でLGBTを取り巻く環境は大きく変化した。

その渦中にいながら、「なじめなかった」記憶を、どのように笑えるコンテンツに変えてきたのか。

途上国で生産したバッグやジュエリーを各地で販売する「マザーハウス」の代表取締役副社長・山崎大祐さんが、太田さんにインタビューした。太田さんは大学3~4年の2年間、マザーハウスでアルバイトをしていたといい、インタビューは、和やかな雰囲気で始まった。

インタビューは、マザーハウス代表取締役兼チーフデザイナーの山口絵理子さんの『ThirdWay 第3の道のつくり方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)を記念して行われました。

太田尚樹さん

■どこにもなじめなかったので「ここに旗を立てた」

ーー太田くんがなぜ「やる気あり美」を立ち上げたか、ちゃんと聞いたことがなかった気がします。なぜ自分でメディアを始めようと思ったんですか? 

僕たちゲイの人たちの居場所と言えば、(古くからゲイバーなどが立ち並ぶ新宿の)「2丁目カルチャー的」なものか、「NPO的」なものの、大きく分けて2つしかなかったように思います。

でも、僕はもともと適応能力があるタイプではなくて、2つともあまりなじめなかった。時間をかけて、今では共に関わりが濃い場所になりましたし、思い入れもあるんですけど、当時の自分は、必ずしも心地良い場所とは感じていなかったんです。

考えてみれば昔から、すでにある場所になじめない時には新しい場所を作る、ということが得意でした。だから、小さくても良いから「場所」を作ろうと思いました。それが「やる気あり美」です。

2014年12月に「やる気あり美」のベータ版をリリースしたとき、代々木公園の真ん中で、手作りの旗をたてている写真をサイトのトップ画像に選びました。

「私たちはどこにも馴染めなかったので、ここに旗を立てます」ということを言いたかったんです。

そうしたら、思ったよりも共感してくれる方が多かった。自分としては「ただそこにしかいられなかった」っていう感覚が強かったのですが、「声をあげたらみんなが来てくれた」という感じでした。

太田尚樹さん提供
やる気あり美

 ■「LGBT or not」ではない社会 

ーー改めて、やる気あり美が大事にしていることってどういうことなんでしょう?

少し抽象的なんですが、僕たちは、LGBTとそうでない人を分ける「LGBT or not」の視点で物事を捉えすぎないようにしています。

人って対立する方が上手だから、そうやって分けられると、めちゃめちゃ対立してるってことがある。対立はほどほどにしないと、いずれ分断になります。

だからLGBTではない人に「LGBTってこうなんですよ!」と発信することより、「LGBTとかどうとか関係なく、今共感できた気がする」という瞬間を演出したいと思っています。「LGBT or not」の間を行きたい。それが自分たちの役割だと思っています。

一方で、常に難しさは感じています。「わける」ということは、人が何かを「わかる」上で重要だからです。その意味で、この10年、「LGBT or not」という分け方が社会に広がって、いろんな人がセクシュアル・マイノリティの直面する現実について理解してくれたことは大きかった。けど、やっぱり僕らは「LGBT or not」の間を行きたい。

だから、「やる気あり美」では言葉選びにすごく苦戦しますし、こだわっています。なぜかと言うと、一方のコミュニティーで使っている言葉と、もう一方のコミュニティーで使っている言葉しか世の中には存在しない中で、その真ん中の世界のことを説明することって、とても難しいからです。

自分たちの考えを、双方で使われている言葉を借りながら表現していくしかない、という矛盾をいつも抱えながらやっています。

山崎さんと太田さん

■自分の実感のないことは言えない

ーーここ最近、世の中では「LGBT」を主語にして物事を語られることが増えてきましたよね。でも、「やる気あり美」のコンテンツは、それとは一線を画しているように見えます。

恐怖心は常にあります。僕らは簡単に言うと、「LGBTとかどうとか関係なく、素敵って思われたいよね〜!」という感覚で何かを作ったり発信したりしているわけですが、それが迷惑だと感じる当事者の方は少なくないんじゃないかと思うからです。

言葉を選ばずに言えば、僕らは社会から長らく「変態」と平気で言われてきた身ですから、そこに「LGBT」という言葉が生まれたことは大きかった。「LGBT or not」という構造に僕も助けられてきましたし、今も「LGBT」という言葉を大切にされている当事者の方はいると思うんです。

そういった方々にとって、「LGBTとかどうとか関係なく」なんて言ってしまう僕らは、くせ者なんじゃないかと思ってしまいます。自分たちの存在価値を疑うこともあります。

太田尚樹さん

■笑いの力を信じている

ーーどちらかというと、シリアスになりがちなセクシュアリティやLGBTをテーマにする中で、なぜ「笑い」という要素を取り入れたんでしょうか?

僕らは「笑い」の力をすごく信じているんです。

何か課題があったとき、その課題の本質を見つけて取り上げたからと言って、解決しないことはたくさんあるじゃないですか。「やる気あり美」のメンバーにはそういう原体験をした人が多い。 

例えば僕は、小学校がいじめの激しいところだったんですね。自分自身がゲイだと自覚したのは高校1年生の頃でしたが、小学校高学年ごろから「男子化」していく同級生についていけず、すごく浮いてしまった時期があったんです。

そのときに救われたのが、「ダウンタウンのごっつええ感じ」でした。あの番組で取り上げていた題材は「倫理観」という軸で考えると評価は多岐にわたると思うんですけど、少なくとも当時の僕にとっては、悲しいことも、苦しいことも、「笑ってしまう」という事実に救われた実感がありました。 

「笑ってしまったから、悲しみも無に帰す」という、笑いの持つ神秘や暴力性と、それがあるからこそ作れる「救い」みたいなものに、僕らはすごく関心があります

一方で、限界も感じます。笑いって、何かに興味を持つ「入り口」にしかならないことが多い。やる気あり美の動画をみてLGBTに関心を持ってくれた人がいたとしても、その先の行動変容を起こすところまでは、今の取り組みではなかなかできないですからね。 

Sports Nippon via Getty Images
ダウンタウンの松本人志さんと浜田雅功さん

■コミュニケーションは急げない

ーーとはいえ、少しずつでも行動変容を起こしていきたい。そのとき、当事者の感覚をいかに持つかが重要なのかなと僕は思っています。僕はいま、「ブラインドサッカー」をやっている視覚障害のある選手たちと交流しています。知らないことから来る恐怖心みたいなものが若干あったのですが、1人の選手と仲良くなり、ふれあう機会が増えて、自分の一部になった感覚がありました。そういう感覚まで持っていくには、どうしたら良いんでしょうか。

 「やる気あり美」のメンバーの間でよく言う言葉に、「コミュニケーションは急げない」というものがあります。

コミュニケーションには、一定の「型」があります。

例えば、「ある友人と自分とはいつもこんな会話の流れで笑う」とか。「テレビタレントはこれくらいの長さで食レポする」とか。

どんな場所のコミュニケーションにも「型」って望まずとも生まれてしまう。その「型」は一度できるとなかなか変わってくれないし、その意味で「コミュニケーションは急げない」と考えているんです。

例えばこんな経験があります。

いまでも仲良くしているある友達に、ゲイだとカミングアウトしたとき、「ゲイなんだ、めっちゃウケる」と言われたんです。その友達は起業家で、会う度にお互いの刺激になるような情報を共有する間柄だったんです。だから「めっちゃウケる」は彼なりの「いいね」だったんだと思うんですよね、めっちゃムカつきましたけど(笑)。

それからというもの、彼は僕のことを誰かに紹介する時には「こいつ、ゲイなんです」と言うようになりました。僕はそれにムカついていたんですけど、やっぱりコミュニケーションって急げないので、「ちょっと、いまの差別なんで、警察行ってくるね?ここで待っててくれる?」とか返していました。

理解不足から来る言動に対して、真正面から返しても伝わらない場合には、ユーモアをまじえて返しつつ、自分の意思はきちんと入れていく、ということをずっとしてきたんです。

そしたら数年前、その友達とあるパーティーで同席し、別の男性から僕が「ゲイなんだ。ウケる」って言われた時、その友達が「別にウケないですよ」って言ったんですよ。お前が言うんかいっていう(笑)。

人のコミュニケーションの型や認識は、ゆっくりと変わっていくことがあるんだと信じています。今の型にのっかりながら、どう異議をまじえていけるか。それが「コミュニケーションを急がない」ということだと思っています。

僕は「笑いを交えて徐々に伝える」というのが得意だったので、それをしてきましたし、それができるのは恵まれたことだと感じます。でもストレートに怒ろうが、悲しみをしっかり伝えようが、笑いを交えようが、とにかく、すぐには相手に分かってもらえないのだと思っています。だからすぐに相手に絶望したりはしないようにしています。

山崎大祐さん

■LGBTに対する認識は大きく変わった

ーー相手の態度を一気に変容させるのではなく、一歩ずつ自分たちが理想としている社会に寄せていくというのは、相当忍耐と勇気が必要だとは思います。

実は、僕らが「やる気あり美」を始めた当初は、結構周囲のLGBTの友人に馬鹿にされたんです。

「結局、人権運動的なことをやるんだ」って。当時は「社会は変わらないし、どうやってそこに順応していくかが大事でしょ」というノリが僕の周囲にはあって、人権運動は「それができなかった人がやること」という扱いだった。

実際はそんなことはないし、活動家の先輩は、みんな人間的に素晴らしい方ばかりですけど、僕の周りの人はそういう印象で捉えていました。 

でも、この5年くらいでLGBTに対する世の中の認識は変わってきた。社会の仕組みも変わってきたということが大きいですよね。

「やる気あり美」はそうした変化の中で、「2丁目らしい」でも、「NPOらしい」でもない、自分たちの「らしさ」を大事にする場所にしていきたいです。

太田尚樹さん

■インタレストよりも、ファニーを

ーー社会も大きく多様性を受け入れて変化していく中で、「やる気あり美」は今後どう変わっていくんでしょうか。

僕たちのコンテンツを見た人に「バカバカしい〜!」って言われたいです(笑)。バカバカしいってバカではできないじゃないですか。

言い換えるとコンテクストに深い理解がある上での笑いが「バカバカしい」。そういうファニーなものを作ることに憧れます。

ここ数年はたいして活動もしていないのに、僕がこういったややこしい話をメディアでしてしまうから、ありがたくも「興味深いなー」「すごいなー」って言っていただけることが増えました。

作っていたコンテンツも、「ファニー」より「インタレスト」な印象のものが多かったように思います。でも、このままでは「スベッた団体」になってしまうよね、という話をメンバーの間でしています。

太田尚樹さん。ハフポスト日本版のオフィスの壁に「笑えるって大事」とメッセージを書いてくれた

お笑い芸人さんやタレントさんでも、もともと面白い人がテレビで鋭いことを語り過ぎると「すごい人」になり過ぎちゃって、もう笑えない、と感じることが僕にはあります。そうはなりたくないよね、と。シリアスなものや真面目なものも続けていきますが、そればっかりじゃ「笑えない団体」になってしまう。それは避けたいと思っています。

最初の頃、「思わせぶりなノンケ男性の一言劇場」というコーナーをやっていました。ゲイのメンバーが、これまでの人生で「思わせぶり」と感じたノンケ男性の一言を集めて、それを6秒間のアニメにして、30本載せるというもの。

ちょっと狂気的じゃないですか。「わけわからない」「やばっ」みたいな。そんなことをもっとやりたいですね(笑)。

いまは「LGBT or not」の狭間で、周りからすると一見「よくわからないこと」を発信して、社会にシミを作っていきたいです。

シミなので今は一つの「点」のようなものですが、いつかそれが群がって大きくなって、「点」が「面」になり、ようやくそこがコミュニティと呼ばれるようになるところまで、じっくりとでも続けていきたいです。

山口絵理子さんの著書名「Thirdway(第3の道)」というメッセージは、ハフポスト日本版が大切にしてきた理念と大変よく似ています。

これまで私たちは様々な人、企業、団体、世の中の出来事を取材してきました。多くの場合、そこには「対立」や「迷い」がありました。両方の立場や、いくつかの可能性を取材しつつ、どちらかに偏るわけでもなく、中途半端に妥協するわけでもなく、本気になって「新しい答え(道)」を探す。時には取材先の方と一緒に考えてきました。

ハフポストは「#私のThirdWay」という企画で、第3の道を歩もうとしている人や企業を取材します。ときどき本の抜粋を紹介したり、読者から寄せられた感想を掲載したりします。