児童養護施設で育った3人が、YouTuberになった理由。「当事者として、明るく発信できれば」

「施設出身者だから幸せになれない、と夢を諦めずに、自分を大切にしてほしい」
左から西坂さん、山本さん、ブローハンさん
左から西坂さん、山本さん、ブローハンさん
福祉新聞

児童養護施設で育った3人の若者が、「もっと社会的養護のことを知ってほしい」と動画サイト「ユーチューブ」で発信を始めた。制度の紹介のほか、自分たちの経験も交えながらのインタビューも実施。これまで5回のトライアルを経て、11月から本格的に番組を配信する。3人は「当事者として、明るく社会的養護のことを発信できれば」と話す。

「この番組は、児童養護施設で育った3人が発信する、超お気楽な情報発信番組です」――。冒頭、軽快な音楽とともに、「スリーフラッグス」のメンバーである山本昌子さん(26)、ブローハン聡さん(27)、西坂來人さん(33)が話し始めた。

2回目の番組のテーマは児童養護施設。西坂さんは施設の紹介とともに、入所児童の半数以上が入所前に虐待を受けた経験があることや、平均在籍期間が5年ほどであることなどを説明した。

その上で、ブローハンさんは施設での生活について「夕暮れまで遊んで、毎日わちゃわちゃしていましたね」と楽しい思い出を振り返った。

また、山本さんは「施設で育ったことに抵抗がないので、胸を張って幸せだと言える。施設で育つことをプラスに捉えている人もいることを知ってほしい」と語った。

もともと3人は、社会的養護の当事者が集まる場で知り合って意気投合。「一緒に社会に発信できれば」と番組を立ち上げた。

山本さんは、両親の離婚をきっかけに生後4カ月で乳児院に。社会人になるまで都内の児童養護施設や自立援助ホームで暮らした経験を持つ。その後、保育士となり、4年前には施設出身者に振り袖やはかま姿の写真をプレゼントするプロジェクトを立ち上げている。

同様にブローハンさんも11歳から都内の児童養護施設で育った。その後、専門学校や会社員経験を経て、現在、タレントやモデル活動、社会的養護の子どもたちへの就労支援の仕事など幅広く活動している。

一方、西坂さんは父によるDVから逃れるため、小学校高学年から一時、福島県の児童養護施設で過ごした。現在、映画監督や絵本作家として生計をたてており、スリーフラッグスの動画制作も担っている。

番組は一貫して、社会的養護当事者へ寄り添う姿勢を示す構成となっているのが特徴だ。

施設退所後の相談に乗る「ゆずりは」の高橋あみ所長へのインタビューを紹介した回では、番組の途中でブローハンさんが「実は自分も助けてほしいとメールを打ったが、最後の送信ボタンが押せなかった」と過去を告白した。いかに当事者が悩みを打ち明けることが難しいかを訴えている。

こうした制作意図について西坂さんは「社会的養護の制度批判をして注目を集めても意味がない。施設にいる後輩の道標となり、支援者も含めて共感を得るものにしたい」と話す。

実際、10月までにトライアルで5回の配信を終えたが、「貴重な体験を知れた」「もっと当事者の声を聞きたい」など大きな反響があったという。

11月からは本格的に週1回のペースで配信する。施設職員やボランティアへのインタビュー、座談会も企画するほか、時事問題の解説も予定している。

番組制作にあたり企業を対象にスポンサーも募集している。クラウドファンディングでの個人寄付も受け付ける。

山本さんは「施設出身者だから幸せになれない、と夢を諦めずに、自分を大切にしてほしい。今後、番組を見た人たちが社会的養護のために次のアクションを起こすきっかけになってくれれば」と期待を寄せる。

2019年11月11日 福祉新聞より転載

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