地域における自然エネルギー普及のための「ゾーニング手引書」を公表

ゾーニングは、自治体、住民、NPO、有識者など、地域の関係者が協力することで、地域が納得できる自然エネルギーの「導入場所」を決める取り組みです。

深刻化する気候変動(地球温暖化)問題を解決するための切り札として、加速化する再生可能な自然エネルギーの導入。一方で、その開発による負担を懸念する声が各地で聞かれるようになっています。そうした中、地域の自然・社会環境を悪化させず、地域の納得も得られる開発場所を、事業者に代わり地域関係者で選定する「ゾーニング」の取組みが注目されています。2017年12月、WWFジャパンでは、徳島県鳴門市で進めてきた実例をもとに、自然エネルギーの持続可能な普及を図っていくための参考書として、『自治体で進める地域協働でのゾーニングのすすめ』を公表しました。地域に歓迎される再エネの開発が進むように、各地での活用が期待されます。

地域における自然エネルギー普及の課題

2017年12月、WWFジャパンでは、徳島県鳴門市で同年4月まで進めてきたゾーニングの取組みをまとめた事例報告書、『自治体ですすめる地域協働でのゾーニングのすすめ』を公表しました。 ゾーニングは、自治体、住民、NPO、有識者など、地域の関係者が協力することで、地域が納得できる自然エネルギーの「導入場所」を決める取り組みです。

2012年7月に、太陽光や風力といった、再生可能な自然エネルギーの普及を後押しする、固定価格買取制度(FIT)がはじまって5年。 気候変動問題だけでなく、地域活性化の切り札としての期待からも、自然エネルギーの普及が急速に進んできました。

一方で地域によっては、風車の建設などをはじめとする急速な開発に対し、事業者と住民の間でのコミュニケーションが十分に取られず、計画への反対が起きる事例が見られます。 これは、自然エネルギーの導入水準が諸外国にくらべまだ低く、その普及が端緒についたばかりの日本で、解決してゆかねばならない課題です。

将来の地球環境を温暖化の脅威から守り、また地域の活性化にもつながる手立てとして、再エネの普及を今後、進めて行くためには何が必要なのか。 こうした課題が指摘される中、地域関係者が主役となり、自身の地元で自然エネルギーを適正に普及させていくための「話し合いの場」を設ける取り組みが、いま、注目されています。

これまで日本では、「自然エネルギーの開発場所」、つまり太陽光パネルの設置場所や、風力発電用の風車の立地などは、開発を行なう事業者により選ばれてきました。 しかしこの選定を、地域の関係者が主役となって話し合い、検討することで、住民の納得できる開発場所を見つけ出せれば、開発に当たって生じる業者と地域の行き違いや、反対運動などを避けることができます。

適正な導入を行なうための手法「ゾーニング」

このために必要とされるのが、「ゾーニング」です。 これは、長期にわたり自然エネルギーが受け入れられていくように、地域社会だけでなく、在来の自然環境への悪影響も極力排除した、適切な導入場所を明らかにするものです。 自然に配慮した、自然エネルギーの開発を当たり前としていくためにも、今後各地で進めなくてはならない極めて重要な取り組みです。

今回公表した報告書は、WWFが徳島県鳴門市において、行政や地元の利害関係者と協力し、どのようにこの「ゾーニング」を進めてきたかをまとめた資料です。

日本の各地域で未来に向けて実現が求められる、「自然エネルギーと地域環境が調和した社会」を形成する上で欠かせない、大きなポイントがまとめられています。 WWFジャパンでは今後、日本国内において、地域に歓迎されるような自然エネルギーの持続可能な普及が実現できるように、この報告書が活用されることを目指しています。

自然エネルギーの普及を目指し、地域で活動される方に向けた参考情報

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重要なポイントとなる検討着手のタイミング

自然エネルギーの開発は、たとえ地域の人々にとって望ましくない場所での計画であったとしても、違法性が問われない限り、適正な許認可申請を行なえば、民間開発を進めることが可能です。 そのため、事業者側に配慮を求めるためにも、開発を望まない場所があれば、どのような理由で開発を望まないのか、地域側が根拠を示すことが重要となります。

ただし、開発を望まない場所、あるいはここであれば大丈夫といった、適切な場所を地域が主体となって検討する「ゾーニング」の取組みには時間がかかります。 したがって、事業者の計画が固まり、開発に向けた許認可を得る段階では、検討は間に合いません。

しかし、住民や行政がこうした計画の存在を知るのは、許認可申請がされてから、ということがしばしば起こります。 このため、反対運動などが起こり、その後の事業推進にも課題が生じてきます。 また、開発事業者側としても、許認可をとるような段階においては、すでに計画のための費用をかけている以上、計画を修正したり、撤回することが難しくなります。

そのため、事業者と地域が衝突を起こさないためにも、開発計画が具体化する前のタイミングで、地域が主体となって適切な開発予定地の検討(ゾーニング)をすすめ、事業者と情報を共有できるようにしておくことが、極めて重要です。

1.国内で控えている事業案件の規模

このプロセスとタイミングが重要な理由は、今、日本国内において、多くの自然エネルギーの開発事業が、推進・計画されているためです。 現在、国内では約1,650万kW(=風車約6,600基相当)(※1)の風力発電の開発計画が、環境アセスメント(※2)の手続きに入っています。 過去25年間で、日本国内で設置された風力発電設備の数が約2,200基(※3)であることを考えると、より多くの設備がこれまで以上に短期間で導入される可能性があります。 さらに、具体的な計画内容が固まっているこれらの事業案件のほかに、計画の構想段階のものが相当数存在すると考えられます。

例えば、九州では、環境アセスメント段階にある風力発電事業の発電規模は約129万kW(2017年12月7日時点)に及んでいます。 一方で、事業者が環境アセスメントの手続きとは別に、検討を進めなければいけない「発電設備の電力系統への連系手続き」に関しては、電力会社への問合せを済ませた風力発電事業の合計規模が、約513万kWに上ることがわかっています(2017年8月末時点)(※4)。

つまり、表面化していない相当数の「構想段階の計画」があると考えられます。こういった傾向は、東北や中国地方でも見られることから、事業がアセスメント段階に入り計画が具体化される前に、いかにゾーニングの検討を各地で行なえるかが、いままさに問われていると言えます。

2.より難しくなる地域と事業者のコミュニケーション

こうした多数の開発計画がある一方で、発電事業を取り巻く政策・制度の変化から、今後地域住民と事業者のコミュニケーションは、さらに取りにくくなることが予想されます。 現在、国で検討が進められている、「環境アセスの迅速化」の施策もその1つです。 この施策の検討では、現行のアセス審査期間を半分に圧縮するため、費用のかかる環境調査の一部を、まだ事業計画が固まらないうちに前倒して実施する、としています(※5)。

これは自然エネルギーを促進する上では望ましい点がある一方、事業の実施を前提としたかのような検討を助長してしまうおそれもあるため、計画が地域にとって望ましくない内容であった場合、地域との対話がより難しくなる可能性が考えられます。 同様の懸念は、近年スタートした「電源接続案件募集プロセス」の制度についても考えられます。

「電源接続募集案件プロセスとは?」太陽光や風車を設置して発電事業を行う場合、発電した電気を系統(送電線)に流す必要があります。しかし、系統にすでに多くの発電事業者が電気を流している場合、追加で電気を流す余裕(空き)がないことがあります。この場合、新たに設置する発電設備からの電気を流すために、送電線を増強することで解決を図る方法があります。 「電源接続募集案件プロセス」とは、ある場所で太陽光や風車等の設備を設置して発電事業を行おうとする事業者が複数いる場合、入札を通して、それぞれの発電事業者の送電線の増強費用の負担分を決めることで、これらの発電事業をすすめるために必要な系統の増強工事の準備を整えることです。

現在は各地で、発電した電気を流すための送電線の余裕がない、いわゆる「系統線の空きがない」状況となっています。そのため、発電事業者が事業を進めて行くためにも、今後より多くの事業者がこのプロセスを活用すると予想されます。

しかし、このプロセスは、住民意見を聴収する環境アセスメントなどのプロセスとは別に実施されるもの。 事業者によっては、環境アセスメントなどの実施前に増強費用を支出することになります(※6)。そのため、コストを回収するためにも、一度このプロセスを利用した事業計画案については、実施することが前提となりがちになり、そのため地域の意思を汲み取り、計画を変更することが極めて難しくなると考えられます。 このように、地域における自然エネルギー開発をめぐる状況は、今後さらに難しさを増していくことが予想されます。

これを打開するには、当事者である地域の関係者が中心となり、事業者との対話を重ね、真剣な検討を行なう必要があります。 ゾーニングの活用が意味を持つのは、まさにこの検討のタイミングです。 「地域環境と自然エネルギーが調和するふるさと」を目指すこれからの自然エネルギー開発は、地域が理解し、納得し、周囲の自然環境も守られ、その利がまた地域に還元されるものでなければなりません。

WWFジャパンでは、今回の報告書の活用を通じて、ゾーニングの取組みを進めようとする全国各地の自治体や地域関係者を、今後も支援していきたいと考えています。

(※1) 環境影響評価情報支援ネットワークより、「手続中の環境アセスメント事例「(確認日2017年12月7日)を集計したもの(第2種事業含む)。なお集計にあたっては、異なるアセス段階にわたる同一事業の重複を除いた。また、想定される基数については、標準的な商業風車を2000kW~3000kW(ここでは中間値の2500kW)として計算。

(※2) 事業者自らが、計画する事業が環境に与える影響を調査し、評価することで、環境影響を低減させるため必要な措置を講ずる手続きのこと

(※3) NEDO公表値、日本における風力発電設備・導入実績(2017年12月6日確認時点)より http://www.nedo.go.jp/library/fuuryoku/state/1-01.html

(※4) 経産省総合エネルギー調査会系統WG(第12回) 資料1-6 より、九州電力への風力発電申込のうち、「接続検討申込み」、「接続契約申込み」、「承諾済」を総計した値を指す

(※5) NEDO、「前倒環境調査のガイド(2016年度中間とりまとめ)」より

(※6) OCCTO(電力広域的運用推進機関)における規定では、電源接続案件募集プロセスの完了に際し、優先系統連系希望者がプロセス完了以降に辞退した場合においても、当該優先系統連系希望者が他の優先系統連系希望者と共用する予定であった増強設備の費用を負担(補償)する契約(工事費負担金補償契約)を締結することとなっている。

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