本田圭佑、今後の活躍を左右するセリエAの異質な世界(神尾光臣)

1-1の引き分けに終わったトリノ戦。ミランの本田圭佑は終了間際までプレーしていたが、見せ場をつくれずに終わった。本田を苦しめたのが、守備の国・イタリアのタイトな守備。今後活躍するためにどう対応すべきなのか?

■守備を固めてきたトリノ

1-1で迎えた後半の44分、逆転のゴールを狙いたかったミランのセードルフ監督は、若手のFWペターニャを投入した。交代を告げられたのは、10番。本田が下がると、スタンドからはまばらな拍手と、これまたまばらな指笛が聞かれた。

確かに強烈なブーイングにさらされてはいなかったが、ファンの目には納得のパフォーマンスというふうにも映らなかった、ということだろう。

カリアリ戦では3つの決定機は外したが、逆に言うとそれは、ゴール前でボールに触りチャンスに絡めたということの証でもある。しかし今回は、同じ4-2-3-1の右サイドでの先発でありながら、本田は前節のようには上手くポジションを取れず、パスを呼び込めなかった。

現在6位にいるトリノは、カリアリよりもさらに精密で堅い組織守備を準備し、ミラン側の動きを封じてきた。そして本田も、その網の中でスペースを奪われた。そこにきて合流間もないことからくる連係の不足、そしてイタリアサッカーへの対応が響き、展開から外れてしまってしまった印象だ。

今季のトリノは3バックを敷く。ベントゥーラ監督は、イタリアでは珍しく攻撃的な監督として名声を確立していた。4トップをワイドに張らせた上で、DFラインにビルドアップをさせ敵陣を押し拡げる。かつてバーリ時代、彼のもとで鍛えられたボヌッチは、現在ユベントスでピルロとともに組み立ての軸を担っている。

しかし今季は、より上を狙うべく守備を強化した。前線にはチェルチというスピードスターがいるので、彼のスピードを活かしたカウンター志向へと変更し、あえて4トップを削って守備の枚数を増やす。これが当たったのは、6位という順位を見れば一目瞭然である。

■すべて潰された右からのカットイン

そして今回、このタイトな守備組織が本田を取り囲んだ。スタートポジションとして彼が右サイドに広く張り出せば、対面の左WBマシエッロが付き、縦のスペースを消す。一方で本田がこのマークを外し、内側に切り込んでくれば、今度は3バック左のモレッティが張り付き、さらにボランチが張り付いてスペースを消す。

サイドのスペースを切られてしまっては、ポジションチェンジを駆使し中へ入ってボールを触るしかない。しかし相手の守備組織は3ボランチに3バック、中央にも常に枚数が掛かる。

そんな中で本田はダイレクトプレーを心掛ける。カカーやモントリーボと2,3本いい形でパスが回り、また自らがポストとなってムンタリのシュートを演出するなどのプレーもあったが、互いの意図がズレてパスが通らなかったシーンもあった。

後半早々、ラミのファインゴールでミランが同点に追いつくと、相手のインテンシティが低下し、本田もボールを持てるようになる。右サイドから周囲にパスを預けての侵入、またはサイドでマークを外してのクロスなど、色々工夫も見えた。ただ、フィニッシュワークには絡ませてもらえなかった。

特に右サイドからカットインを仕掛け、左足でシュートを狙うプレーは3度中3度潰され、そのうち2度はボールロストからカウンターにもなりかけた。体をがっちりと寄せられ、ゴールへの方向を向かせては貰えず、密着されているのでフェイントで外すことも出来ない。

個人技のある相手は、徹底してスペースを消しプレーそのものを許さない。これが、イタリアサッカーの厳しさだ。

■求められる厳しい守備への対応

外国人選手にとっては異質の世界のようで、苦労するのは当たり前とも見られている。以前、外国人プレーヤーを多く抱えるインテルのバレージ助監督に話をきいたが「レベル云々はさておき、誰しもがこういう戦術的なサッカーに慣れているわけではない。ここで頭を切り替えられ、修正出来るかが、外国人選手にとっては活躍のポイントになる」と語っていた。

その点で、ポジションは違うがこの日のラミのプレーは興味深かった。インモービレに慎重にディレイを掛けたつもりが、そのスペースを使われてフェイントで抜かれ、シュートをねじ込まれる。しかしその後に彼は対応を切り替え、ガチッと体を当てて潰しにきたのだ。試合の中で現実を理解し、切り替えてきたのはさすがだった。

逆に言えば、スペースは組織で消し、個人技は体で止めて来るのがイタリアの守備の現実。これにどう対応できるかが、本田の活躍の鍵となる。モレッティのマークを華麗に外し、裏のスペースを突破した後半24分のプレーなどは秀逸だったが、こういう瞬時のキレを使った仕掛けは不可欠になって来るだろう。

傍目には愚直に過ぎた3度のカットイン失敗も、彼なりにチャレンジをし、間合いを計ろうとしていたことの証かもしれない。これが次節以降の試合でどう反映されるのか、期待することにしたい。

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