【現地レポート】青木功「世界記録」への挑戦--内木場重人

74歳7カ月は、日本ツアー史上最年長出場記録だ。記録より、目の前の目標。その意識で今日、36ホール目に挑む。

スタート前の練習グリーン上。近寄ってきたPGA(日本プロゴルフ協会)会長の倉本昌弘と二言三言交わしたあと、パッティングしたボールの行方を確認しながら、青木功は語った。

「いま倉本くんにも言われたけどさ、こんな嬉しそうな顔してる青木は見たことがないってさ。そりゃそうだよ。だって本当にわくわくしてるから。こうやってコースに選手として立ててることがさ。やっぱりね、ゴルフっておれの人生そのものだもの」

男子レギュラーツアーの今季5戦目(国内開催3戦目)となる第58回中日クラウンズ(名古屋GC和合)。4月27日、その1番ティーグラウンドに、出場選手中最高齢74歳7カ月の青木は、選手として立った。昨年3月よりJGTO(日本ゴルフツアー機構)会長を務めている青木は、本来ならばスーツを着て、選手を送り出す立場にある。

実際、会長就任以来、シニアツアーも含めて試合にはほとんど出場できず、レギュラーツアーは1年前のこの大会、実戦も昨年11月の「富士フイルム・シニアチャンピオンシップ」以来だ。

会長就任以前から「生涯現役」を公言し拘ってきた青木は、「永久シード」保持者であるために本人がエントリーすればレギュラーツアーでもすべて出場可能。

しかし、出場選手の枠は限られているため、青木のエントリーによって出場できない選手が1名増えることになる。その点で、ゴルフ界のレジェンドとは言え、若い選手の可能性を問う異論があることも事実。しかしそれでも敢えて青木は出場に踏み切った。

「おれが出ることで、この歳になってもゴルフに懸けている姿を会場やテレビでたくさんの人に観てもらい、ゴルフってそんなに面白いんだっていう魅力を伝えられればいいと思ってる」

今年3月、この試合に向けて沖縄で実戦調整中だった青木はこうも語っていた。

「去年会長を引き受けた時点で、出場できる試合数ががくんと減ることは覚悟していたよ。それを承知でおれにやってくれって言ってきたんだから、若い選手たちには、だったらお前たちもちゃんとおれの言うことを聞けよって言ったんだ。

試合数も含め、男子ツアーに元気がなくなってる現状を、おれはまず『人を育む』というスローガンで改革しようと取り組んできた。その成果が出てきて、選手たちも目の色が変わってきたよ。

そして今季は『ともに歩む』という理念を掲げた。選手はもちろん、スタッフやギャラリーのみなさんとともにゴルフ界を盛り上げていきたいと思ってのこと」

自らの出場は、その思いの一環でもある。

あり得ない変更

実際、青木の組について観戦したギャラリーの数は例年を上回っていた。同じ組で、ジャンボ尾崎もプレーしていたためだろう。74歳の青木は国内だけでも51勝、70歳のジャンボは同94勝。日本人初の米ツアー優勝など海外を含めると85勝の青木が先に、そしてのちにジャンボも、ともに世界ゴルフ殿堂入りしているレジェンド2人が同組で対決するのは、2012年の日本オープン以来5年ぶりだ。

「この中日クラウンズでジャンボと同組で戦えるなんて、これでもう最後の機会だろう。それだけに、おれにとっては今回の試合はすごく大事だと思ってる」

試合前日のプロアマ戦を終えたあとの青木のこの言葉が取り囲んだ若い記者たちには誤解されて伝わり、「青木の中クラ出場は今回が最後」と誤って報じられた。

そのこともギャラリーの多さにつながった一面もあったかもしれないが、青木にとっては、やはりプレーでギャラリーを魅了したいという思いがひときわ強い。

と同時に、あくまでもプロゴルファーとして、出場する以上は「常に勝ちを意識してるよ。あったりめえだろうよ」。

沖縄での調整は近年以上に上々で、それだけに闘志も上がる。JGTO会長として週の半ば以上は様々な行事をこなさねばならず、ラウンドはおろかクラブを握る暇さえないほどの多忙を極める青木は、それでも日々の肉体トレーニングだけは欠かさない。

「死ぬほど好きでたまらない」ゴルフを選手として続けたい一念からだが、今回、試合が近づくほどに体内のアドレナリンも急増している。

それだけではない。この試合のために、使用するアイアンをすべて契約メーカー「テーラーメイド」の新モデル(未発売)に換えた。しかもドライバーは、1年かけて身体になじませてきたシャフトを、1週間前に変更した。

一流のプロゴルファーにとっては、シャフトの長さ、重さは1インチ、ゼロコンマのグラム単位で打球に影響を及ぼす。それをこれほど直前に変更するなど、通常のプロではあり得ない。

しかも、スタート直前のドライビングレンジ(練習場)でさえ、2種類のシャフトを試し打ちし、キャディの村田一治と激論を交わす。

「うっせえな、おれは理論じゃねえんだよ」。

無論、村田も最終的には青木の判断を最優先するのだが、長年苦楽をともにし、ある意味本人以上に青木のクセ、体調を知り抜いているだけに、ギリギリまで主張をぶつけ合う。

「普通はあり得ない選択だけど、最後はやっぱりプロ(青木)の天才的、動物的カンなんですよね。そこに委ねるしかない」

「そのため」につくった身体

その村田はスタート前、初日のポイントをこう見ていた。

「1番ホールから4番まで。ここをパープレイで凌いでいければ、あとは18番まで流れに乗れる。最も肝心なのは、1番のティショット。左バンカーの右フェアウェイに落とせるか、あるいは左の林方向に行ってしまうか」

1番ホールは緩やかな左ドッグレッグの370ヤード、パー4。

「まさにアーメンコーナーのような心境。キャディとしてはもう祈るしかない」

ゴルフの祭典マスターズの会場「オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ」には、あまりの難所に選手はみな祈るしかないという意味で「アーメンコーナー」と呼ばれるホールがある。和合の1番ホールは難所ではないが、村田の心境はそれほどだった。

そしていつもの、独特のスイングフォームから放たれたショットは、狙い通りのポイントへ。さらにほぼ1ピン位置にパーオンさせてバーディ発進も期待させたがわずかにボール1個外し、難なくパーセーブ。続く2番ロングホールでは4メートルのパーパットを見事に沈め、技の冴えを見せつける。

が、3番のパー4が鬼門となった。前日の大雨でベアグラウンド状態となっていたライの悪さもあり、アプローチをミス。続くバンカーショットも「名手」と言われる技術を発揮できずに失敗し、結局、5オンのトリプルボギーで一挙に3オーバーにしてしまった。

「記録ってのはあとからついてくるもんだと思ってるけど、やっぱり70台でのエージシュート(年齢以下のスコアで回ること)は狙っちゃうからね。欲が出ちゃうんだよ、欲が」

ホールアウト後、悔しそうにそう語った青木。

だが、「よく若い選手が試合後、結果を出せなくても『楽しめました』って言うけど、それは違うと思ってる。プロたるもの、結果が出なくて楽しめたなんてない。おれはいつも結果を求めたい」

と常々力説している青木だけに、初日の15オーバーという結果には、その表情に悔しさがにじみ出ていた。

74歳7カ月は、日本ツアー史上最年長出場記録だ。そして、今日行われる2日目の結果次第で予選を通過すれば、米PGAツアーを含めた史上最年長予選突破の「世界記録」である。

世界のプロゴルファーで未だ誰も成し遂げられなかった偉業。「記録なんてあとからついてくる」という青木だが、「36ホール回って予選突破がまず第1の目標。そのために身体つくってきたんだから」。

記録より、目の前の目標。その意識で今日、36ホール目に挑む。

内木場重人

フォーサイト編集長

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(2017年4月28日フォーサイトより転載)

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