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2019年01月22日 18時06分 JST | 更新 2019年01月22日 18時06分 JST

「バイクで世界一周」に挑む「異色カップル」の「ユーラシア」「南北アメリカ」3大陸制覇の旅(4)--フォーサイト編集部

世界を旅するということは、自分の尺度がまったく役に立たない世界を前に、立ちすくむことなのかもしれない。

移民集団「キャラバン」は一直線にアメリカを目指したが、小林剛さん(47)と二俣明日香さん(31)はエルサルバドル、グアテマラを過ぎたところで少し寄り道。東に進んでベリーズを抜け、ユカタン半島に点在するメキシコのマヤ文明遺跡を巡った。

思わぬニュースが飛び込んできたのは、世界遺産になっている古代都市パレンケから移動しようとしていた時のこと。

二俣さんが振り返る。

「パレンケから西にある町に向かおうとしていたら、この間の山道で行方不明になっていたドイツ人とポーランド人の2人組のサイクリストが、実は強盗に襲われて殺されていた、と『BBC』が報じたのです。観光客が多いからか、このルートでは強盗や殺人事件が頻発していました」

(3)で触れた外務省の「海岸安全ホームページ」を見ると、この山道が走るチアパス州はほぼ真っ白。つまり「レベル1」ですらない「安全な場所」ということだ。小林さんが疑問を持つのも頷ける。

意を決して走りはじめた2人。しかし、その先で待っていたのは強盗団ではない別の集団だった。この辺りの道々は、しばしば住民によってバリケードが張られる。政府や選挙結果に対する抗議の一環としてロープや丸太で道を封鎖し、通行人から料金を徴収するのだ。

「幸い私たちが通ったのは日曜だったので、敬虔なクリスチャンである彼らは教会へ行きます。それで平日より封鎖・徴収ポイントが少なかったようで、結局、料金を払わずに済みました。でも、翌日の月曜に通ったチリ人に話を聞いたら、私たちよりたくさん止められ、その分、高くついたそうです」(同)

チリ人が支払ったのは、6回の徴収で40ペソ(約220円)。もはや安いのか高いのか分からない。世界を旅するということは、自分の尺度がまったく役に立たない世界を前に、立ちすくむことなのかもしれない。

おススメの国立公園は

それは続々と「キャラバン」が到来した国境の向こう側で、まさに起きたことであった。

二俣さんが続ける。

「さすがアメリカ、高速道路は片道8車線、下道でも片道5車線というところがありました。そこを日本の観光バスほどの大きさのキャンピングカーが、ピックアップトラックを引いて時速120キロで走っている。これがこの国のスケールです。しかも、そこかしこに絶景が広がっている。アメリカ人があまり海外旅行をしない理由がよく分かりました。出ていく必要がないんだ!と(笑)」

この国の大自然を満喫するなら、国立公園を巡るのがおススメだという。1つの公園に入るのにバイク1台20~30ドルかかるが、2人は割安な年間パスを購入。カリフォルニアからアリゾナ、ユタと内陸に進み、ロッキー山脈に沿うようにワイオミング、モンタナと、カナダ国境まで北上した。

訪れたのは、9つの国立公園。コロラド川の浸食が生んだ驚異の峡谷、グランドキャニオンはもちろんのこと、色とりどりの間欠泉が広がる不思議な世界、イエローストーンにも足を運んだ。

「1番良かったのは、グランドキャニオンの少し北にあるキャニオンランズ」

「ここもコロラド川がつくりあげた峡谷ですが、ヘリコプターに乗って上空から眺めるだけのグランドキャニオンと違い、160キロほどの谷間を走れます。それで自転車やバイク乗りの憧れの地になっている。グランドキャニオンのように観光バスが発着していないので、自力で行ける方におススメ。僕らも本当は教えたくないのですが、特別に!(笑)」

開通した北極海への道

このコロラド川流域からカナダのブリティッシュコロンビア州を抜けて、極北のユーコン準州まで連なるロッキー山脈。

2人は日本列島よりも長い全長4500キロの「北米大陸の背骨」を北に進み、北極海とアラスカへの分岐点となるユーコン準州・ドーソンシティに到着した。

ここから北極海まで往復2000キロのオフロード、デンプスターハイウェイがはじまる。まず目指すのは、700キロ先にある町イヌヴィックだ。

「ここもウシュアイアと似ていて、ケンタッキーフライドチキンもあればピザハットもある意外な町でした。すぐそこが海なのに水が貴重で、500ミリリットルのペットボトルで500円もする。でも、コーラは100円。野宿をする時は簡単な自炊をするのですが、コーラじゃ料理ができない。水を買うくらいならケンタッキーを買った方が安いのではないかという、よく分からない現象が起きていました」(同)

以前はデンプスターハイウェイもここで終わりだった。北極海へ通じる道はアラスカ中部のダルトンハイウェイしかなく、カナダ側にはなかったのだ。

しかし2017年11月、イヌヴィックからトゥクトヤクトゥクという沿岸の町までデンプスターハイウェイが延長された。前人未踏とは言えないが、ここを通った人はそう多くないだろう。これは行くしかない。2人はバイクを走らせた。トゥクトヤクトゥクまで、あと150キロ弱。

「ドーソンシティから延々と続くオフロードは、泥とも氷とも見分けがつかない悪路で、途中でバイクが壊れて引き返す人も見かけたくらいでした。夏のこの時期、北極圏は太陽が沈まないので、気温が30度近くにあがることもあれば、急に雨が降ることもある。私たちは泥だらけになりながら走り続けました」(二俣さん)

「彼女の姿を見て涙した」

ようやく見えてきた「北極海」の看板。2018年7月14日、2人はゴールに到達した。

北米大陸最北端はカナダ東部のエルズミーア島にあるので、南北アメリカ大陸の最南端から最北端までを縦断することは叶わなかったが、それでも半年前に目の前にあった南極海が、いまは北極海に代わっている。走馬灯のように蘇る、日本を出発してからの1年数カ月。今度こそ、こみ上げてくるものがあっただろう。

「ウシュアイアからここまで走ってきたと思うと、さすがに感慨もひとしおでした。そして彼女が走っている姿を見て、涙しました。よく頑張ったな、よくここまで来たな、と。ま、本人はケロッとしていましたが」

そう言って小林さんが笑うと、二俣さんが続けた。

「いや、そんなことないですよ! 達成感ありましたよ! 無事に辿り着いてよかったという思いも、もしかしたらこの道でトゥクトヤクトゥクまで来た日本人女性は私が初めてかもしれないという嬉しさもあった。ただ、行きより帰りの方が気が緩んで危ないので、早く町に戻らなきゃという緊張感があったことも確かです。ようやく実感が湧いたのは、ドーソンシティで久しぶりに宿に泊まった時かもしれません」

この日、北極海に臨む村はずれの公園で野宿をした2人は、一晩中(と言っても白夜だが)、蚊の攻撃をテントに受け続けた。北極圏では夏になると氷や雪が溶けて湿地帯のようになるため、蚊が大量発生する。"諸先輩方"の手厚い歓迎だった。

3大陸を制覇した2人は(1)の冒頭で触れた通り、アラスカにバイクを走らせた。待望のデナリを拝んだ後は、同州最大の都市アンカレッジを越え、キナイ半島の西端に向かう。アンカーポイントという小さな町が、バイクで行ける限りの南北アメリカ大陸最西端だ。2人はそこから少し南にある町ホーマーも訪れた。

「大陸縦断を終えた後のアラスカだったので、おまけみたいなものではありましたが」

と、小林さん。

「ホーマーで『道の終わり』という看板を見た時は、ここで道も終わりか、と。カムチャッカ半島に渡って日本に帰れたら近いのにな、と。帰国して地球儀を見回してみて、つくづく思いました。よく走ったな」(小林さん)

聞こえてきた「帰れ」というお告げ

本当なら2人はこの後、アメリカ本土をもう少し回り、ヨーロッパからユーラシア大陸を往路とは逆方向に横断して日本まで帰ってくる予定だった。

だが、アラスカからドーソンシティの南にあるユーコン準州の州都ホワイトホースに戻って来たところで、"お告げ"が聞こえた。

「キャンプ場で野宿をしていたら、翌朝に荷物がごっそり盗まれてしまって......」

と、二俣さん。

「探してみたら、簡易トイレに捨ててありました。もちろんクレジットカードやトークンやお土産といった金目のモノが、すべて抜きとられた状態で。確かにこのキャンプ場には至る所に『泥棒出没』の張り紙があったのです。一応、警察には届け出ましたが、いつものことなのでしょう。通り一遍の聞き取りをされただけでした」

しかも、ここへ来て20年も愛用していた小林さんのバイクが壊れたという。

「これはいよいよ帰れということだな、と悟りました。でも、僕らの合言葉は最後まで"みんないい人"でした。あの人は泥棒かもしれないと思ったら、全員がそう見えてきてしまうし、そう思って旅をしても楽しくない。泥棒に遭ったその日も、"泥棒なんていない"と唱えていました(笑)」(小林さん)

いったん帰国した2人は現在、アフリカ大陸の縦断に向けて準備を進めている。

次回の"相棒"は、2018年9月に発売されたホンダ「スーパーカブ」の新型だ。1958年の発売以来、累計生産台数が1億台を超えるロングセラーは、世界の郵便配達の原動力にもなっている超高燃費がウリ。

「メーカーの発表では、1リットルで実に70キロ弱も走れるということです。実際は荷物を積むのでそこまでいかないでしょうけれど、50キロを下回ることはないと思います。今回の旅で使用したバイクは1リットルでせいぜい30キロなので、やはりスーパーカブはスゴイ。今回はガソリン代がかなりかさんでしまったので、なるべく抑えたいというのもありますが、この小さなバイクで世界を旅するって面白くないですか?」(同)

2人がアフリカの大地を踏む日はそう遠くない。

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