「脱悪魔化」した仏極右「国民戦線」の台頭とジレンマ

3月下旬に行われたフランス県議会選挙第1回投票では、極右政党の国民戦線(FN)が25.2%の史上最高の得票率を獲得した。

3月下旬(3月22日と29日)に行われたフランス県議会選挙第1回投票では、極右政党の国民戦線(FN)が25.2%の史上最高の得票率を獲得した。既成大政党に対抗して2位につけ、大躍進となった。

事前の予測ではFNが第1党となる世論調査結果もあった。結果的に国民運動連合(旧ドゴール派、サルコジ前大統領が代表の政治勢力UMP)を中心とする保守中道派連合(UMPと、バイルー前大統領候補率いる中道派民主運動MoDem、そしてサルコジに近かったボロー元環境大臣らによる民主独立連合UDI)の29%には及ばず、第1党の地位は逃したが、大統領与党社会党中心の左派連合の21.9%の得票率を大きく上回った。

第1回投票では「2大政党の一角」

その意味は大きかった。FNは今や現状に対する不満勢力を糾合して、社会保障を重視する政党へと転換している。つまりFNは社会党の支持基盤に食い込んでいるのである。したがって、その当面の敵は保守右派勢力であるよりも、社会党・左派政権与党とも考えられている。

第1回投票に関する限りFNの大勝だった。これが比例代表制であったら、フランス政治の地殻大変動が起こるところであった。マリーヌ・ルペン党首は 第1回投票の結果を受けて、「FNは単独では第1党の政党である」「FNと右派・保守中道派の2大政党制が誕生した」と意気軒昂に語った。この「勝利」は「2017年大統領選挙の布石」を意味した。

今回の県議会選挙は、全国一斉選挙という形で行われた。2013年に改正される前の制度では、6年任期の議員のうち半数が3年ごとに改選されていたが、今回からは全議員が一斉に改選された。そのため今回の県議会選挙は、国政の行方を占う意味を持った。

またもうひとつ、今回の選挙ではフランス政治特有の一面が試された。県議会選挙はカントン(小郡)と呼ばれる小さな選挙区での単記投票の集票結果であるが、今回からは2000年に導入されたパリテ法(男女同権法、候補者を男女同数にすること)を有効に生かす方法がとられた。つまり、単記投票では女性の候補者をたてても当選しにくい。今回から男女ペアで2人ずつ候補者をたてることを義務づけ、その分カントンの数を約半分(2054)にして、ペアで当選者がでるようにしたのである。左派では女性候補との組み合わせなど、立候補準備の段階で対立が大きかった。第1回投票後に社会党ヴァルス首相が「左派は選挙協力が十分ではなかった」として左派の統一を呼びかけたことにも、それは表れていた。

「高得票率」でも「議席」は取れず

この選挙でのFNの勢力伸張は明らかではあったが、第2回投票の結果はFN勢力の県議会レベルでの突出の可能性を杞憂に終わらせた。FNはどの県議会も制することができず、全国の総議席4108議席のうち62議席を獲得するにとどまった。議席数の上では依然としてFNは泡沫政党にすぎない。

それでは得票率をそのまま反映しないこの選挙の仕組みはどんなものなのであろうか。

フランスの選挙制度はそれぞれ複雑な仕組みを持っている。県議会選挙では、第1回投票で12.5%の票を獲得した候補は第2回投票に残ることができる。残った政党の候補者はそのまま立候補を続けるか、決選投票までの1週間、各政党が「立候補とり下げ」などによって調整を行う。したがって、2番目以下の得票率の政党が複数で協力すれば、1回目投票の第1党勢力に勝利する可能性が高まる。

しかしFNは、第2回投票で提携する相手が、同じく極右と見なされている「南同盟」のような極小政党しかいないため、票の過半数を制することはとても困難なのが現状である。票の獲得率は高くとも、なかなかそれが議席数には繋がらない。今回も101県のうち、FNが第1回投票で第1党となったのは43県にのぼったが、結局どの県でも過半数の議席を得ることはできなかった。

とくに第1回投票の直後は、第1党になった勝利の気分から、FN支持者の間では、「ついにFNが県議会選挙を制する時代が来た」という声まで上がっていた。南仏のヴォークルーズ県、北仏のエージーヌ県など3つの県で、議席の半数を得る予想もあったからだ。

しかし実際にはどの県議会でも過半数の議席を得ることはできなかった。もっとも勝利の可能性が高いと言われていたのは南仏ヴォークルーズ県。この地域を地盤とし、2012年の国民議会選挙で史上最年少の22歳で国民議会議員となったFNのマリオン・マレシャル・ルペンは、「今の選挙制度ではFNが最終的に勝つのは難しい」と正直に語った。彼女は今回の結果を「辱(はずかし)めの教訓」と位置づけ、第1党でありながら議席を取れないジレンマを重く見た。マリオン・マレシャルはFN創立者のジャン・マリ・ルペンの孫娘である。FN支持派の中では叔母で現党首のマリーヌ・ルペン(創立者の三女、マリオン・マレシャルは次女の娘)よりも将来の大統領候補の呼び声が高い。それだけに支持者の一部では失望感も強い。

「社会政策重視」と「右派」のバランス

前回の大統領選挙(2012年)以後、FNが勢力を伸ばしてきた要因は、雇用問題を筆頭に経済政策で呻吟する社会党の敗因に重なる。社会経済事情の悪化に対するフランス国民の不満を吸い上げられない社会党に代わって、FNへと票が流れているのだ。

ただ、第2回投票で、FN対社会党の候補者の決選投票の際に第1回投票でFNに投票した支持者が、第2回投票では棄権するというケースも結構出ている。元々社会党の支持者でFNに投票した人たちは、決選投票では逡巡し、結局は社会党への制裁票を投じるところまではいかず、その一部は棄権を選択した。社会党に対する「失望」の一方で、FNにはまだ「期待」にとどまる支持者が多いということでもある。

FNが勢力を伸ばした背景には、欧州統合というグローバリゼーションの波の拡大の中で、主幹産業を失い、失業や不況に苦しむ過疎地域の現状があった。欧州統合が進む中で発展から取り残された地域の現状に不満をもつ住民がFNに投票する。こうした過疎地域でのマリーヌ・ルペンのローラー作戦によって、同党は息を吹き返したのである。

FN躍進の理由は、排外主義が支持されているわけではなく、今や社会政策重視の勢力と見られるようになっているからである。知り合いのフランス人の青年は、「何十年も既成大政党は議論するばかりで、実際には何も変えなかった。新しい政治が必要だ。その可能性はFNにある」と断固として語った。この青年は人種排外主義者ではない。失業問題で一番苦しんでいるのは、若年世代である。今回の選挙は、辛うじて50%の投票率を得たが、若い世代が棄権する傾向が強くなっている。

創立者ジャン・マリ・ルペンに代わって党首となったマリーヌ・ルペンは社会政策を推進するイメージを強めることで勢力を拡大することに成功した。彼女は、「FNを脱悪魔化する」と繰り返し主張してきた。

しかし今後の難しさもある。つまり元々は極右の勢力であるから、あまりにも左傾化した政策を唱えていては、右派の支持を失ってしまうことになる。要はバランスをとることがFNの今後の重要な課題になっているといえよう。

サルコジの「復活」

改めて言うまでもなく、今回の県議会選挙の最大の敗者は社会党であり、勝者は保守中道派、とくにUMPである。昨年11月にUMP党首に返り咲いたサルコジ前大統領の「復活」となった。

与党社会党はこれまで全国101県のうち61の県議会を制していたが(前回選挙は2011年)、今回の選挙で半減、その数は34県にまで大幅に後退した。逆に野党保守中道派連合は、過半数を制する県議会数を選挙前の40県議会から67県議会にまで拡大した。

ヴァルス首相は完敗を認め、とくに左派の分裂が最大の要因だとした。旧共産党勢力や環境派、さらに社会党内部での選挙協力は十分ではなかった。加えて、国民の苦しい声を吸い上げられなかった政府の失敗であることも認めた。

サルコジ前大統領は「第5共和制になって県議会選挙でこれほどの勝利はなかった」と勝利宣言を行った。社会党の領袖であるオランド大統領(コレーズ県)、マルチーヌ・オブリ前第1書記(ノール県)、ヴァルス首相(エソンヌ県)の地元をはじめ、従来の社会党の選挙基盤で保守派が勝利した。コレーズ県は本来シラク元大統領の地盤で、オランドが保守派からはぎ取った地盤であった。保守の巻き返しは明らかだった。今回の選挙結果でサルコジが次回の大統領選の候補者として最有力に躍り出たという見方もある。

2017年大統領選挙を見据えるFN

FNは今回勢力拡大した兆候を示したとはいえ、前途が容易でないことは確かである。パリ政治学院のレニエ教授は、「次回の大統領選挙で決選投票に残れなかったら(第2党に食い込めなかったら)、そのときにFNは限界を露呈するだろう」と述べた。次期大統領選挙がFNの正念場であることは確かだ。

しかし、FNは比例代表制選挙や国民投票型の選挙には強い。今年の12月に予定されている州(地域圏)議会選挙は比例代表選挙である。FN票が更に伸びる可能性は高い。そしてその先に国民投票型の大統領選挙がある。FN が今後しばらくフランスの政局の台風の目であることには変わりはない。

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渡邊啓貴

東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1954年生れ。パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員研究員、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)など。

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(2015年4月6日フォーサイトより転載)

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