フランス極右「国民戦線」は勝利したのか?:地域圏議会選挙

極右政党は牙を隠し、仮面をかぶることで「普通の政党」へと変身する。

フランス地域圏議会選挙第2回投票日の12月13日、投票終了直後に、排外主義を標榜する極右・国民戦線(FN)の党首マリーヌ・ルペンは最近の常套句となった、「自分たちは最大政党です」という言葉を繰り返した。

12月6日と13日に行われたフランスの地域圏議会選挙で、13地域圏のうちのどこも手中に収めることはできなかったが、その言葉には、FNはフランス政治において、もはや確固として根付いた政党となった、という自負がうかがえた。

実際にFNは、12月6日の第1回投票で13地域圏のうち6つで第1位となり、かつてない躍進ぶりを示した。マリーヌ・ルペンが候補者リストの筆頭になったノール地域圏と、マリーヌの姪であり、創立者ジャン=マリー・ルペンの孫で、最年少の国民議会議員であるマリオン・マレシャル・ルペンがリストの筆頭に立った地域圏PACA(プロヴァンス・アルプ・コート・ダジュール)ではFNの支持率は40%を超えた。マリオンも敗北にもかかわらず、「勝利者に屈辱を与える勝利もある」と語った。2010年の地域圏議会選挙以来のFNの意気軒高ぶりが顕著となった選挙であった。

「不利な選挙制度」の中での健闘

一見奇妙な選挙結果である。第1回目投票では、FNが約28%を獲得してトップに立ち、共和党・中道派は約27%、政権与党の社会党は約23%の得票率にとどまった。

しかし第2回投票の結果は、保守派・共和党を中心とする右派連合が13地域圏のうち7地域圏で過半数を制し、与党・社会党を中心とする左派連合は5地域圏しかとれなかった(残りの1つは、コルシカ島の地域政党が最多票を獲得)。前回2010年選挙ではアルザス州以外(当時はフランス本土で22地域圏)はすべて左派が勝利したので、今回は保守派のまきかえしというのが選挙全体のもっとも大きな結果であるはずだ。実際第2回投票ではフランス全体で右派連合が40%、左派連合は29%、FNは27%という得票率だったからである。

しかし、この左右の逆転という結果も、焦点としては霞んでしまった。地域圏議会を1つもとれなかったFNが「勝利」の凱歌を上げ、勝利したはずの共和党はサルコジの指導方針に疑問が投げかけられるという事態に至っている。

これは選挙制度の妙である。本年3月に行われた県議会選挙で、FNは第1回投票では25.2%の票を獲得し、2位につけた。第1党の地位こそ逃したが、全国101県のうち、第1回投票で第1党となったのは43県にものぼったことから、マリーヌ・ルペンは「FNは単独では第1党である」「真の保守2大政党制が誕生した」「2017年大統領選挙の踏み台となった」とその勢いを誇示した。

しかしそのときもFN は、最終的にはどの県議会でも過半数の議席をとることはできなかった。若いマリオン・マレシャル・ルペンは、今の選挙のやり方では「FNが第1党となるのは難しい」と顔をゆがめて語った。

地域圏議会選挙は第1回投票で過半数を制する政党がない場合には、第1回目の投票で10%以上の得票率を得た政党が第2回決選投票に進める。決選投票で首位になった政党はまず25%の議席を得ることができ、残りの75%の議席を各政党の得票率に応じて配分する。

だがFNは、ここで壁にぶつかる。第2回投票では、政党間の連立がポイントとなるが、FNには連帯する政党がないのである。したがって三つ巴の選挙区では結局左右対立する勢力が「反ルペン」で連帯し、FNの勝利を阻む。そのくびきをなかなか乗り越えられないのが、極右のジレンマである。

今回は同じような状況の中で、極右の躍進に危機感を高めた社会党が三すくみの選挙区で候補リストを取り下げ、右派連合に勝利を譲った。両派が支持者の動員を促したこともあり、第2回投票で投票率は9ポイント上昇して58%に達し、今回もFNが過半数を獲得する地域圏はなかった。

「普通の政党」への変容

2002年大統領選挙でジョスパン社会党候補の怠慢から、FNの当時の党首ジャン=マリー・ルペンが決選投票に残ったことはあったが、サルコジ時代には支持が低迷した。そのFNが党勢の回復基調を示し始めたのが、前回10年地域圏議会選挙だった。この選挙でFNは11.74%の支持率を獲得し、22地域圏(当時)のうち12の地域圏で決選投票に残った。

その後2011年3月県議会選挙でFNはこの種の選挙では結党以来最大の得票率15.06%を記録。12年大統領選挙では17.9%を獲得、14年市町村議会選挙では全国11の市町村で勝利、同年5月の欧州議会選挙では約25%の支持率を獲得、第1党となった。15年3月の県議会選挙でも第1回投票で保守派に肉薄して2位となり、25.2%の票を獲得した。

その大きな背景の1つには、経済・社会保障政策で行き詰まる既成政党へのフランス国民の不満がある。工業化に取り残され、基幹産業を失い、高い失業率に苦しむ地域、欧州統合が進む中で恩恵を受けない地域、こうした地域の住民の社会不満を吸い上げていこうというのがFNの戦略である。

排外主義を標榜し、本来「単一イシュー政党」「ポピュリスト」であるはずのFNの攻勢を支えたのは、新党首となったマリーヌ・ルペンのこうした新しい社会保障重視戦略である。2011年1月に新党首になった創立者の三女マリーヌは、党を「非悪魔化させる(恐怖イメージを拭い去る)」と語ったことがある。理念化と組織化を図る中での、「普通の政党」への変容だ。着実にその成果はあがっている。「牙を隠し、仮面をかぶった」極右の台頭の怖さはそこにある。

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渡邊啓貴

東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1954年生れ。パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員研究員、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)など。

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(2015年12月18日フォーサイトより転載)

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