「大統領候補ヒラリー」の最重要課題は「オバマ氏との距離感」

2016年米国大統領選挙プロセスの幕開けとなるアイオワ州党員集会までわずか1年となるため、民主、共和両党でそれぞれの大統領候補指名獲得を目指す動きが活発になる。

今年11月4日に行われる中間選挙が終わると、米国は2016年大統領選挙に向けた動きをさらに加速させることになる。来年1月には中間選挙の結果を受けて第114議会(-2017年1月)が招集されるとともに、2016年米国大統領選挙プロセスの幕開けとなるアイオワ州党員集会までわずか1年となるため、民主、共和両党でそれぞれの大統領候補指名獲得を目指す動きが活発になる。バラク・オバマ大統領の場合、2006年中間選挙の後、上院議員在職わずか2年が過ぎたばかりであった2007年2月に地元イリノイ州の州都スプリングフィールドで民主党大統領候補指名獲得争いへの出馬表明を行っている。

共和党大統領候補指名獲得争いに出馬するのではないかと見られているジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事は出馬するか否かの判断を年末までに明らかにする考えを既に示している。ブッシュ氏の他に、マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)、ランド・ポール上院議員(ケンタッキー州)、テッド・クルーズ上院議員(テキサス州)、 ニュージャージー州のクリス・クリスティ州知事、2012年共和党副大統領候補であったポール・ライアン下院議員(ウィスコンシン州第1区)、テキサス州のリック・ペリー州知事、インド系の保守派政治家であるボビー・ジンダル・ルイジアナ州知事、インディアナ州のマイク・ペンス州知事らの名前も浮上している。

一方、民主党では、ジョセフ・バイデン副大統領、リベラル派のエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)、メリーランド州のマーチン・オマリー州知事らの名前が挙がっている。だが、出馬するか否か最も注目されている本命候補はやはりヒラリー・クリントン前国務長官である。今年6月には第1期オバマ政権での国務長官時代を振り返った回顧録「Hard Choices(困難な選択)」が出版されたばかりであり、同回顧録の出版はクリントン氏の事実上の選挙キャンペーンの開始とも一部からは受け取られている。

クリントン前国務長官は「Hard Choices」の中で対シリア政策についてオバマ大統領との間で意見対立があり、シリア国内の反体制派勢力に対する軍事支援に慎重であったオバマ大統領とは対照的に、反体制派勢力に対する軍事支援には積極的姿勢を示していたことを明らかにしている。また、最近ではウクライナ危機を巡りクリミアをロシア領に併合したウラジーミル・プーチン露大統領を、第2次世界大戦前夜にズテーテン地方を併合したヒトラーに重ねる批判を行っている。共和党からのオバマ批判は今後強まることはあっても弱まることはないと考えられるが、そうした状況下でオバマ大統領との違いを強調しすぎた場合、クリントン氏からオバマ支持者が離反するというリスクがある。

2008年民主党大統領候補指名獲得プロセスではクリントン氏はオバマ氏と熾烈な戦いを展開し、敗北した苦い経験がある。この時の敗因は、序盤における予備選挙・党員集会への不十分な対応とともに、2002年10月にクリントン上院議員(当時)が投じた対イラク武力行使決議案への賛成投票に対する党内左派・リベラル派勢力からの猛反発であった。クリントン氏が2016年民主党大統領候補指名獲得争いへの出馬を決断した場合、オバマ政権が現在直面しているイラク、シリア情勢の不安定化やウクライナ危機を巡るロシアとの関係悪化について、オバマ批判に踏み込み過ぎずに2008年の民主党大統領候補指名獲得争いのように民主党左派・リベラル派勢力やオバマ支持者の離反を招かないよう振る舞う一方、オバマ大統領との適当な「距離」も図りつつ独自性を打ち出していくことが重要になる。

米国では第2次世界大戦後、同一政党が3期連続して政権を担ったことはたった1度しかない。それは1981年1月にホワイトハウス入りし、1984年の大統領選挙で民主党大統領候補のウォルター・モンデール元副大統領に圧勝して再選を果たしたロナルド・レーガン大統領と、レーガン政権で副大統領に就任していたジョージ・H・W・ブッシュ氏が1988年大統領選挙で民主党大統領候補であったマイケル・デュカキス・マサチューセッツ州知事に勝利して1期4年政権運営した合計3期12年である。

ブッシュ副大統領が共和党大統領候補として3期連続して共和党が政権を担おうとした当時、レーガン大統領は有権者の間で依然高支持率を誇っており、ブッシュ副大統領の大統領選挙勝利にとりレーガン大統領の存在は重要な後押しとなった。クリントン氏は第1期オバマ政権で国務長官の立場にあったのに対し、ブッシュ氏は2期8年間レーガン政権で副大統領職にあり、クリントン氏とブッシュ氏との立場を単純に比較することは勿論できない。だが現在、内政・外交の両分野で多くの難しい課題に直面して支持率低下にも苦しむオバマ大統領は、今秋の中間選挙を終えた2期目後半の2年間は「レームダック化」が顕著になり、さらに厳しい政治状況が続く可能性が高い。そうなれば、クリントン氏がオバマ大統領に1988年当時のレーガン大統領のような役割を期待することはとてもできない。クリントン前国務長官がホワイトハウスを目指す場合、オバマ大統領との「距離」に悩まされることは避けられない。

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足立正彦

住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト。1965年生れ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より現職。米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当する。

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(2014年8月15日フォーサイトより転載)

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