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2018年11月15日 10時53分 JST | 更新 2018年11月15日 10時53分 JST

【特別対談】白戸圭一×篠田英朗:「アフリカ」から見える「日本」「世界」のいま(4)

「せっかく1000人の学生をアフリカから招いても、彼らがその後日本のために働きたくてもその場所がない」

白戸圭一:篠田さんが、アフリカに対する投資や援助の関わり方について「選択と集中」の事例として、シエラレオネの学生の話をしてくださいました。

 確かに、日本の対アフリカ外交というと、TICAD(アフリカ開発会議)にばかり焦点が当たりますが、それとは別に、特に安倍政権になってからむしろ積極的に進めているアフリカ外交の好例は、「ABEイニシアティブ」に代表される、留学生招致です。これは大体3年間で1000人ほど、日本側が金を出して、日本の大学に学生を招く。日本企業でも研修する。私も三井物産戦略研究所にいたころ、研修の講師として来日した人々の相手をしたことがあります。この枠組みで来日しているアフリカの留学生は、京都にもたくさんいます。

留学生招致は有効なツールだが

白戸:これは見事だと思うんですよ。安倍政権のイデオロギー的性格がどうかということに関係なく、純粋にプラクティカルな外交成果の1つだと思います。日本の援助原資が限られている中で、親日家、プロジャパンな人を増やしていく有効な援助ツールだと思う。

 ところが、その先にもう1つ残念な問題があります。それは、せっかく1000人の学生をアフリカから招いても、彼らがその後日本のために働きたくてもその場所がないことです。これは日本側の問題です。

 篠田さんも大学教員だからこういうご経験もおありだと思うんですが、ABEイニシアティブの留学生たちは私にこんな話をよくしてくれます。「せっかく日本のお金で日本に来て勉強させてもらったんだから、この1年なり2年のABEイニシアティブの留学期間が終わった後も日本とずっと関わり続けたい。日本語も一生懸命勉強した。どこか働ける企業はないか」と。ところが、これは私も企業にいた人間だからよくわかるんですが、日本企業は基本的には留学生をほぼ採りません。採ったとしてもキャリア採用しない。ここには、日本の制度というより、恐らく文化とかメンタリティーまでを含む同質性社会というか、ホモジニアスな社会の問題が関係していると思います。

篠田英朗:そうですね。

白戸:本来ならば、日本企業がアフリカでビジネスをしたいのであれば、ABEイニシアティブで学んだような親日家の学生たち、日本のこともアフリカの自分たちの国のこともわかっている学生に、現地における水先案内人になってもらうべきです。できれば、彼らの会社の中におけるキャリアの道筋も、日本人社員と同じように設計してあげるのが理想的です。同じアジアの中でも、香港やシンガポールの企業だったら、もう少しそのへんをきちんとやっているだろうと思う。しかし、日本企業は残念ながらそうではない。

 日本の会社、特に大企業の役員会は、基本的には日本人のおじさんで占められています。おためごかしに女性役員が1人か2人いることはあっても、基本的には日本人のおじさんの世界。まさに、アフリカがあぶり出す日本の問題というところで言うと、これも日本のガラパゴス化の1つです。

 アフリカの国々はなぜ近年、こんなに経済発展しているのか。いろんな理由がありますが、その1つに、アフリカのインテリは、必ずしもアフリカの大学で勉強した人ばかりではない、ということがあります。つまり、海外留学組がどんどん自国に戻ってきて、スタートアップ企業をつくって起業しているという現実があるわけです。その意味では、アフリカのほうが日本よりグローバル化している、とも言えると思うんです。

篠田:それはそのとおりだと思いますね。

白戸:ところが日本はガラパゴス化が著しく、文化的な閉塞性が、ABEイニシアティブの学生たちの就職問題1つを見ていてもわかる。それから、アフリカが国連PKO(平和維持活動)の主戦場であるにもかかわらず、そこに人を派遣しないで、一方でマルチ主義、国連中心主義の外交は維持したいと言う。これもガラパゴス化ですよ。簡単に解決策や処方箋がない問題だというのはわかっていますが、アフリカとつき合うことであぶり出される日本のガラパゴス化というか鎖国性。これは、どうしたらいいと思いますか。

積極的な民間の登用と活用を

篠田:私は民間企業勤めがないので、ちょっとおこがましいと思いながらもお話ししますと、留学生制度が有効な可能性を秘めているということは私もすごく感じるんですね。

 そこで留学についてまず第一に思うのは、奨学金を動かしているのは各国の大使館にいるある1人の大使館員で、大体は文部科学省から出向している人物だということです。ところが、外務省と文部科学省の出向者の間には、コミュニケーションがほとんどないというのが現実なんです。

白戸:大使館の中では、出身省庁によって担務が完全に分かれていますからね。

篠田:ええ。外務官僚は、そのポストは文科省のものだ、という理解しかないですから、奨学金の案件は文科省から来た出向者がやっている。外務官僚は「我々、知らないですよ。なんでそんなこと我々に聞くんですか」と堂々と反応するのが普通のメンタリティーなんです。

 こういう実態から考えると、政府がもっと戦略的に奨学金の運用や、その後の活用も考えるべきではないかと、非常に総論的な結論が出るんです。だけど、文部科学省と外務省がワーキンググループみたいなのをつくるだけでは全然足りなくて、今おっしゃっていた、プライベートセクターとの関わりですよね。

白戸:つまり民間企業。

篠田:例えば日本人を留学させるスキームとして、今「トビタテ!」というものがあり、民間企業が入って動かしていますね。これはすごくいい。私はよく、奨学金の推薦状を書くんですよ。「トビタテ!」宛てにね。

白戸:私も、推薦状を最近1通書きました(笑)。

篠田:学生は留学が終わった後に就職活動に行きますから、アフリカに1年行ったら、もうお前就職できないよと言われると困るんですよ。

白戸:とても困りますよね。

篠田:それは親がまず反対するとか、そういう事情も含めて困るんだけど、企業が留学に介在するだけで、ひょっとしたら日本の企業の中にも、自分がアフリカで1年学んだことを認めて評価するところもあるかもしれない、という気持ちになれる。私もそのことを真剣に考えてプロポーザルを書くし、推薦状を書く。それが審査員にうまく伝われば、ちゃんと奨学金の合格を出してくれるんですよ。たとえルワンダに行きたい、と言ったとしてもです。

 こういう考え方を延長させれば文科省、MEXTと言いますが、その運用に民間企業の人を入れるということなんですよね。採用の段階から、これはいいということを民間企業の人に言わせる。ここは成長分野だから、この分野をやりたいという学生をどんどん日本に送るべきだ、と。

白戸:アフリカから人を採る時も、ですね。

普通の発想を普通に

篠田:企業の人に、成長分野について抽象的には教えてもらっていますが、紙の上でIT(情報技術)がいいとか言うだけではあまり指針にならないから、いい面構えの彼がやりたいという分野を日本でやらせよう、と企業家に言わせる。そのための委員会をつくってもいいんです。

 もっと言うなら、文部科学省の留学生セクションに民間の人間を1年とか2年ローテーションでいいので雇って、文部科学省の職員として、奨学金の運用に当たらせるとかもいい。あるいは文科省の人が民間企業に出向して様子を探り、その上で奨学金を動かすようにすればいい。そういう人的流動性が難しいというなら、委員会を組んで運用面から入ってもらう。例えばケニアの奨学金なら、ケニアで活躍している民間企業の方に奨学金委員会に入ってもらうとかですね。

白戸:今はまだ、そうはなっていませんね。

篠田:文科省の聖域になっている。民間企業を入れるどころか、外務省の「が」の字も聞きたくない、と。

白戸:ABEイニシアティブはアフリカ人留学生を呼ぶプログラムですが、これも文科省担当だから、残念ながら日本の企業社会とはつながっていない。

篠田:霞が関の中同士でさえもつながっていないぐらいですから、民間企業とつながるなんて至難の業なんでしょうね。

白戸:今のところ、ほんの少し研修に来るだけですね。

篠田:首相候補と言われるような外務大臣と、あまりいませんが同様の文科大臣が「やりましょう」と言ったら簡単に実現できることなんですよ。でもそういうふうに考えている政治家がいない。みなさんただ惰性で仕事をしているばかりで、本当は誰かが「やるべき」「やる」と言い出したら、実はできることだと私は思うんです。

 民間企業の閉塞性については、民間企業は利益を追求しているわけなので、その路線の中に留学生が置かれるのか置かれないのか、ということ。全く置かれる要素がないということはないはずですよ。

白戸:それが利益になるという構図ができた時には、民間企業は動くでしょうね。企業は結局、全ては自社の利益で動いていますから。

篠田:企業は、日本人の理科系の大学院生には奨学金を払い、卒業のあかつきにはうちに来なさいといったことを長年やっているわけですよね。それを留学生に対しては絶対にやらない、ということはないと思うんです。民間企業の人を加え、文部科学省の役人も現実離れしたことを言わないで、きちんと人を採るという、考えてみれば普通の発想のことを普通にやれ、ということなんですけどね。

 同様のことがいろんな分野にあると思います。それらを1つ1つ、戦略的にやっていく。留学生プログラムなど適当な予算がついていたりするのですが、それをもっとうまく活用していく術を考えると、見え消し国連中心外交ではなく、日本が実際にバイでやっていることを基盤にして国連との連動ができる。国連外交の発展性が、顔が見える形で出てくるのではないかと、すごく思いますね。(つづく)


白戸圭一 立命館大学国際関係学部教授。1970年生れ。立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了。毎日新聞社の外信部、政治部、ヨハネスブルク支局、北米総局(ワシントン)などで勤務した後、三井物産戦略研究所を経て2018年4月より現職。著書に『ルポ 資源大陸アフリカ』(東洋経済新報社、日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『日本人のためのアフリカ入門』(ちくま新書)、『ボコ・ハラム イスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織』(新潮社)など。京都大学アフリカ地域研究資料センター特任教授、三井物産戦略研究所客員研究員を兼任。
篠田英朗 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程、ロンドン大学(LSE)国際関係学部博士課程修了。国際関係学博士(Ph.D.)。国際政治学、平和構築論が専門。学生時代より難民救援活動に従事し、クルド難民(イラン)、ソマリア難民(ジブチ)への緊急援助のための短期ボランティアとして派遣された経験を持つ。日本政府から派遣されて、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)で投票所責任者として勤務。ロンドン大学およびキール大学非常勤講師、広島大学平和科学研究センター助手、助教授、准教授を経て、2013年から現職。2007年より外務省委託「平和構築人材育成事業」/「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」を、実施団体責任者として指揮。著書に『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築入門』、『ほんとうの憲法』(いずれもちくま新書)など多数。
関連記事 (2018年11月14日フォーサイトより転載)