金正恩「電撃訪中」裏事情(下)「4カ国協議」から外される安倍政権の「焦燥」--平井久志

北朝鮮問題を政権の延命に利用するのでなく、もっと正面から取り組む体制を作るべきだ。
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中朝首脳会談で習近平中国共産党総書記(中国国家主席)は、中国共産党と中国は中朝友好関係を非常に重要視しているとした上で、(1)新たな情勢下での習総書記と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の相互訪問を含め、特使の相互派遣、書簡のやりとりなど日常的な連絡を保持し、上層部交流を行う(2)戦略面の意思疎通という伝統的方法の十分な活用(3)地域の平和・安定・発展の積極的促進(4)両国民の交流・往来を強化し、中朝友好の民意の基礎を固める――の4方針を示した。

習総書記の訪朝時期は?

金正恩政権がスタートしたのは2011年12月。それから6年余で、金党委員長はようやく中国の地を踏んだ。一方、習近平総書記は2014年7月に韓国を訪問したが、北朝鮮は訪問していない。最高首脳同士の相互訪問は、中朝関係正常化の根幹だ。

金党委員長の訪中が実現したことで、次は習総書記の訪中がいつになるかが焦点になる。北朝鮮側の発表では、「金正恩委員長は、党と政府の名義で習近平主席が便利な時期に朝鮮を公式訪問することを招請し、招請は快く受諾された」としたが、中国側発表では習総書記の訪朝に関する言及はない。

香港の「中国人権民主化運動情報センター」は3月29日、ホームページで消息筋を引用しながら、習総書記が7月26日に訪朝する予定だ、と伝えた。

7月27日は朝鮮戦争(1950~53年)の休戦協定が締結された日であり、北朝鮮では「祖国解放戦争勝利の日」である。中国は朝鮮戦争に人民義勇軍を送って参戦したため、中朝関係は「血盟関係」とされる。今年の7月27日は、その65周年という区切りの年である。北朝鮮としては、習総書記を呼ぶのに好都合な日ではあるが、逆に中国が「対米勝利」の日に「中朝」の団結を誇示するような訪朝を望むかどうか、である。5月までに行われる米朝首脳会談が成功しているかどうか、この時点での米中関係がどうなっているかで大きく左右されるだろう。

習総書記が訪朝する機会としては、客観的に見ると今年9月9日の建国70周年の記念行事出席が無難ではないかと思われる。しかし、これも北朝鮮の核問題が前向きな進展を見せていることが前提になるだろう。米朝首脳会談が事実上決裂し、北朝鮮が再び軍事挑発をしているような状況では習総書記は訪朝できないだろう。

中朝外相がさっそく協議

習近平総書記が指摘した「戦略的意思疎通」の強化も重要だ。北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は今回の金正恩党委員長の訪中に同行し、3月26日の首脳会談にも同席した。李容浩外相は一度帰国した後、4月3日に再び訪中し、同日北京で王毅国務委員兼外相と中朝外相会談を行った。王毅氏も中朝首脳会談に同席していた。

李容浩外相は、アゼルバイジャンの首都バクーで4月5~6日に開かれる非同盟諸国会議の閣僚級会議に出席する予定。バクーに向かう経由地の北京で外相会談を行うことで、中朝首脳会談で確認された「戦略的意思疎通」をさっそく実践したことになる。

王毅外相は、「現在の状況で、中朝の伝統の友誼を維持し、発展させることは両国とこの地域にとって極めて重要だ。両国外交部門では各クラスの交流を強化し、両国最高指導者の北京会談の成果を早く実践に移さなければならない」と発言した。さらに北朝鮮が非核化への意欲を示したことを評価し、「中国は朝鮮半島の非核化実現と平和のメカニズムの確立に向け、積極的に努力する」と強調した。

李容浩外相は会談で、「朝鮮半島の問題を巡り、中国と密接で戦略的な意思疎通を保つ」と述べ、米朝首脳会談を前に、中朝の呼吸の合った姿勢を誇示した。首脳会談前の冷たい中朝関係では考えられない姿だった。

積極外交を展開する李容浩外相はバクーで非同盟諸国会議の閣僚級会議に出席し、もう1カ国を訪問し、9~11日にロシアを訪れ、10日にロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と会談する予定だ。

1瓶2000万円超の「茅台酒」

中国は、金正恩党委員長が帰国した段階の3月28日、金党委員長の3泊4日の非公式訪中を明らかにするとともに、その映像も公開した。中国の『CCTV』は約30分のニュース時間のうち約14分間を費やして、トップで金党委員長の訪中を報じた。異例の手厚い報道である。

北朝鮮も3月28日午前8時半(日本時間)に活字メディアが訪中を報じ、同29日には約40分の映像を公開した。中朝ともに、中国が金党委員長をいかに手厚く歓迎したかを強調するような内容だった。

米政府系の『自由アジア放送(RFA)』は、中国側が金党委員長のために開いた3月26日の夕食会に出された「茅台酒」が、中国のネット上で話題になっていると報じた。この茅台酒は「矮嘴醤瓶」ブランドの最高級品で、ネットオークションでは、1瓶128万人民元(約2200万円)の値がつくほどの貴重なものだという。正価はそれほど高くはないと見られるが、中国市民からは税金の無駄使いだ、という声も上がっているという。

また過去の中朝首脳会談との違いとして、北朝鮮の最高指導者の会談の相手が、習近平総書記だけだったことが挙げられる。金正日(キム・ジョンイル)総書記の場合、中国の党総書記との会談に加え、経済政策に責任を持つナンバー2の首相との会談を持った。

しかし金党委員長は、習総書記とだけ会談し、李克強首相との会談はなかった。李克強首相は金党委員長を歓迎する夕食会には参加したが、金党委員長と会話した形跡はない。これは中国の第19期執行部が明らかに「習近平1強体制」になり、これまでのような「双頭体制」ではないことを反映したと言えそうだ。

ともに「血盟関係」「唇歯関係」強調

朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は3月30日付1面トップで、「朝中親善の新たな章を開いた歴史的訪問」と題した社説を掲載し、金正恩党委員長の訪中は「朝中親善の長い伝統を輝かせ、朝中両国関係を代を継いで立派に継承し、発展させる上で巨大な意義を持つ歴史的出来事である」と、その意義を強調した。

社説は、「朝中親善の歴史には、偉大な領袖らが中国の領導者らと結んだ同志的友誼がはっきりと刻まれており、互いに血と生命を捧げて緊密に支持、協力してきた朝中人民の親善の情が熱く脈打っている」と、中朝の血盟関係を強調した。その上で「伝統的な朝中親善の歴史は鴨緑江の流れのように永遠だ」と述べた。

北朝鮮の『朝鮮中央テレビ』は4月3日夜、「偉大な首領、金日成(キム・イルソン)同志が中国の毛沢東、周恩来、鄧小平同志たちと行われた対外活動」と題された約45分の記録映画を放送した。この記録映画が放送されるのは2013年10月以来約4年半ぶりのことだった。

一方、中国の党機関紙『人民日報』も3月29日付紙面で「中朝両国は唇と歯のように互いに密接な関係にある」と指摘し、「中朝の伝統的な友好を奮い立たせることが、唯一の正しい選択だ」と訴えた。その上で、今回の会談をきっかけに両国間の交流を強化し、関係を発展させるよう呼びかけた。また中国外務省の陸慷報道官は3月29日、「金委員長の初の訪中と中朝最高指導者の会談は中朝双方が両党・両国関係を非常に重視していることの表れだ。中朝の伝統的親善は双方共通の貴重な財産だ」と強調した。

中朝関係は過去に「血盟関係」「唇と歯のような切っても切れない関係」などとされてきたが、最近は「特殊な関係」から「普通の関係」への変化が顕著になっていた。今回の中朝首脳会談後の双方の反応は、中朝関係が再び「特殊な関係」へ戻ったかのような論調が目立つ。しかし一方で、双方にある相手方への不信感は依然として根強いものがあり、こうした上からの「伝統的友誼」強調がどこまで長続きするかは見守る必要があろう。ただ現在の朝鮮半島情勢では、北朝鮮は中国の支援を必要としており、中国は自身の役割を内外に誇示したいという事情があることも事実だ。

習主席が「4カ国協議」を提案

『共同通信』は4月1日、複数の米中外交筋の話として、習近平国家主席が3月9日に米国のドナルド・トランプ大統領と電話会談をした際、朝鮮戦争の当事国である韓国、北朝鮮、米国、中国の4カ国による平和協定の締結を含む「新たな安全保障の枠組み」の構築を提案していたことが分かった、と報じた。トランプ大統領は明確な賛否を示さず、北朝鮮への圧力を維持するよう習主席に求めたもようだ、とした。

この電話会談は、トランプ大統領が米朝首脳会談を受諾したことを受けて行われたものだ。習主席は、米朝首脳会談の開催を北朝鮮核問題の解決に向けた進展と評価する一方、朝鮮半島の非核化には息の長い取り組みが重要であり、中国が仲介役としての役割を果たすべきだ、と強調した。

これは、すでに関係国が5月までに開かれる米朝首脳会談後の朝鮮半島情勢の協議の枠組みを考え始めていることを示すものだ。

北朝鮮の核問題をめぐる重要な合意である、6カ国協議での「9.19共同声明」(2005年9月)の第4項は、「(朝鮮戦争の)直接の当事者は、適当なもう1つのフォーラムで、朝鮮半島における恒久的な平和体制について協議する。6者は、北東アジア地域における安全保障面の協力を促進するための方策について探求していくことで合意した」となっている。この「もう1つのフォーラム」は、朝鮮戦争の直接の当事者、すなわち韓国、北朝鮮、米国、中国で構成されると見られた。つまり「9.19共同声明」は、北朝鮮の非核化は「6カ国協議」で進めていくが、その枠内に朝鮮半島の恒久的な平和体制を構築するための4カ国協議を想定している、ということだ。習主席の提案はこの考え方の延長にあると見られる。残念ながらそこでは、日本とロシアは除外されることになる。

なぜ「3者もしくは4者」となったのか

この問題と関連した重要な合意として、2007年10月の盧武鉉(ノ・ムヒョン)韓国大統領(当時)と北朝鮮の金正日総書記の「10.4南北首脳宣言」がある。この10.4宣言の第4項では、「南と北は現在の停戦体制を終息させ、恒久的な平和体制を構築しなければならないという認識を共にし、直接関連する3者、もしくは4者の首脳が朝鮮半島地域で会い、終戦を宣言する問題を推進するために協力していくことにした」と合意している。

当時、この宣言にある「3者、もしくは4者」の意味をめぐる論争があった。4者は韓国と北朝鮮、米国、中国だが、「3者」になった場合は「南北米」なのか「南北中」なのかという疑問だ。

これに関連し、3月31日に早稲田大学で行われたシンポジウムで、2007年の南北首脳会談にも同行した文在寅(ムン・ジェイン)大統領のブレーンである文正仁(ムン・ジョンイン)延世大学名誉教授(大統領補佐官)が、興味深い背景を明らかにした。

文名誉教授によると、盧武鉉大統領は南北首脳会談に先立ち、2007年9月にオーストラリア・シドニーで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、ジョージ・ブッシュ米大統領(当時)と胡錦濤国家主席(当時)にそれぞれ、平和協定などを協議する新たな話合いの枠組みについて意見を聞いた。ブッシュ大統領は賛成を表明したが、胡錦濤国家主席は明確な回答をせず態度を保留した。そのために10月の南北首脳会談で「3者、もしくは4者」という表現になったのだという。

協議の枠組みから落ちる国が米国なのか中国なのか論議が起きることを想定し、事務方は合意文を「関係国による」と曖昧な表現にしたが、盧武鉉大統領が「3者、もしくは4者」という表現に書き直したという。盧武鉉大統領がその表現にこだわった理由は明らかではないが、態度を保留した胡錦濤国家主席への苛立ちだったのかもしれない。

「役割」に固執する中国

習近平主席は明らかに、4月の南北首脳会談、5月までの米朝首脳会談後の朝鮮半島問題協議で、中国が「役割」を果たすことを念頭に動いている。金正恩党委員長の「電撃的」な訪中提案を受け入れたのは、朝鮮半島情勢が韓国、北朝鮮、米国の3者の枠組みで協議されていくことにくさびを打ち込み、中国がこれに参加し、「重要な役割」を果たす枠組みをつくるためだったと言える。

中国はすでに、米朝首脳会談後の北朝鮮の非核化協議の長期化は必至と見越して、その主導権を中国が握る方向で動き出し、そのためには中朝の関係修復が必要と判断したと見られる。

これまで中国の関与に拒否感を示してきた北朝鮮だが、一転これに同意したのが中朝首脳会談だった。党機関紙『労働新聞』は3月30日付社説で「歳月の流れとともに、国家間の具体的実情と環境では多くの変化が起こった」と指摘。その上で「しかし、朝中人民の運命が互いに切り離すことのできない関係にあるという歴史の真理は変わらず、歳月の激しい風波の中で逆に両国間の団結と協力を強化することが人民の幸福な未来を建設し、地域の平和的環境と安定を守護する上で必須不可欠の条件だということが再び実証された」とし、中国の関与を認めた。

『日本経済新聞』は4月6日、北京発で、金党委員長が3月の習近平総書記との首脳会談で、「6カ国協議」への復帰に同意する考えを示していたことが分かったと報じた。これが事実なら、6カ国協議の議長国は中国であり、中国の「役割」への北朝鮮の同意の意図が含まれていると見られる。

韓国は首脳会談で「非核化宣言」を希望か

一方、韓国と北朝鮮は3月29日、板門店で閣僚級会談を開き、文在寅大統領と金正恩党委員長の南北首脳会談を、4月27日に板門店の韓国側にある「平和の家」で開催することで合意した。しかし南北双方は、首脳会談の議題については明らかにしなかった。これは韓国側が「非核化」を議題にすることを強く求めているが、北朝鮮側は「非核化」を韓国との会談の議題として明確化することに抵抗を示しているからだ、と見られている。

韓国側は南北首脳会談の議題として(1)朝鮮半島の非核化(2)軍事的緊張緩和を含む恒久的平和定着(3)南北関係の進展――の3項目を念頭に置いている。

康京和(カン・ギョンファ)外相は4月4日、韓国メディアとの懇談で「(南北首脳会談では)大きくは非核化、南北関係、平和定着という大きな主題がある」としながら、「両首脳の間で、それこそ虚心坦懐で包括的な対話ができるよう、議題も少し柔軟性を持ってやろうということで意見が集約されつつある」と語り、南北間で事前に明確な議題を設定せず、首脳会談で自由な対話ができるようにする方向だと説明した。韓国としては、非核化ははずせない議題で、文大統領がこれを求めるのが当然のため、敢えて北朝鮮側が抵抗している事前の議題の明確化をする必要はない、との姿勢だ。

一方、青瓦台(大統領府)関係者は4月3日、南北首脳会談で朝鮮半島の非核化をうたう何らかの宣言を発表することを検討している、との韓国内の一部報道について「当然のことではないか。会談の最も核心的な部分が非核化だ」と述べ、こうした報道内容を認めた。

ここで再び注目されているのが、1992年に発効した「朝鮮半島非核化共同宣言」だ。この宣言は当時の韓国の鄭元植(チョン・ウォンシク)首相と北朝鮮の延亨黙(ヨン・ヒョンムク)首相の間で1991年12月31日に合意。北朝鮮は1992年2月5日に中央人民委員会と最高人民委員会常設会議の合同会議を平壌で開き、この宣言を承認した。南北は同2月19日に平壌で第6回南北首相会議を開き、南北基本合意書とともにこの宣言の発効を承認する文書を交換し、この宣言は発効した。

同宣言は、「南北は核兵器の実験・製造・生産・搬入・保有・貯蔵・配備・使用をしない」と明記し、さらに「南北は核再処理施設とウラン濃縮施設を保有しない」としている、ある意味で完璧な非核化宣言であった。だが北朝鮮はその後核開発を進め、この宣言は「死文化」したが、韓国政府は破棄などの明確な措置は取っていない。2005年9月の6カ国協議の「9.19共同声明」でも、この宣言は「順守されかつ実施されるべき」であると明記されている。

しかし今日の北朝鮮が、この完璧とも言える非核化宣言を再び確認するとは思えず、韓国政府がどの程度の「非核化宣言」を考えているかは明らかではない。やり方を間違えれば、今でも南北が履行義務を負っているこの宣言を否定することになりかねない。

焦燥する安倍政権

日米両政府は4月2日、安倍晋三首相とトランプ大統領の日米首脳会談が、同17~18日(米東部時間)の日程で、米フロリダ州の別荘「マール・アラーゴ」で開催されると発表した。

安倍首相は5月までに開催予定の米朝首脳会談を前に、米国が「最大限の圧力」を維持し、日本の拉致問題を米朝首脳会談で取り上げるよう求める方針とされる。併せて、「公正で互恵的な」日米の貿易、投資関係を拡大する方策も話し合うという。

また『共同通信』は4月3日、河野太郎外相が8日から始まる週に韓国を訪問する方向で韓国側と調整中だと報じた。韓国外務省は協議中でまだ決まったことはないとするが、河野外相が訪韓するとすれば、岸田文雄外相(当時)が2015年12月に慰安婦問題解決の合意のために訪韓して以来となる。

安倍首相の訪米と河野外相の訪韓は、いずれも4月27日の南北首脳会談、5月までの米韓首脳会談を前に、北朝鮮とのパイプのない日本が、トランプ大統領と文在寅大統領に、「最大限の圧力」の継続や拉致問題解決を北朝鮮側に働きかけるよう求めるものだろう。

しかし、どれほど効果があるのだろうか。米国自身も3人の米国人が北朝鮮に拘束されている状況で、まずは自国民の解放を優先させるだろう。日本は他国に要請する前に、自らが北朝鮮との対話パイプをつくり、拉致問題の解決などに当たるべきだろう。明らかに「圧力一辺倒」政策が限界に来ているということだ。

河野外相は3月31日に高知市で講演し、北朝鮮が新たな核実験を行う準備と見られる動きをしている、と述べた。北朝鮮との対話については「焦る必要は全くない」と述べ、日朝首脳会談には慎重姿勢を示した。北朝鮮の最近の対話攻勢については、国際社会からの制裁圧力を弱め、経済的支援を得るためだと分析した上で、「(現時点で)支援する必要はないし、すべきでない」と述べた。

これに対し、米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト『38ノース』は4月2日、北朝鮮が新たな核実験に向けた準備をしているとの河野外相の発言を裏付ける動きは確認できない、とした。さらに中国外務省の耿爽副報道局長は4月3日の会見で、「日本はいささか疎外されていると感じているようだ」「各国が現在のタイミングを捉え、同じ方向に向かい、朝鮮半島情勢の緩和を後押しし、朝鮮半島問題の解決を対話と協議という正しい道に戻すために共に努力することを希望する。われわれはみなが共に努力している時に、『足を引っ張る』者がいないことを希望する」と述べた。

河野外相は同3日、「公開されている情報を見る限り、実験場を含む核関連施設での活動が続いていると思う」と北朝鮮の核実験に向けた動きはあると改めて強調した。1国の外相が1シンクタンクの分析に敢えて反論する必要があるのだろうか。

最近の日本のメディアには、政府消息筋などを引用し、安倍政権が日朝首脳会談開催を北朝鮮側に働きかけているという報道がある。一方で、安倍首相は日朝首脳会談について「焦る必要は全くない」と述べている。

首相は「焦る必要はない」と言うが、頼りにしていたトランプ大統領が米朝首脳会談を受け入れてからは、日本政府が対応を「焦っている」のは明らかだ。また、この間の政府の対応を見ると、森友問題などの政権の苦境を北朝鮮カードで乗り越えようという意図を感じる。北朝鮮問題を政権の延命に利用するのでなく、もっと正面から取り組む体制を作るべきだ。(了)

平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。

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(2018年4月6日
より転載)

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