カタール脱退「OPEC総会」開催!「協調減産」具体量は明示されるか--岩瀬昇

サウジが、ロシアが、米国が…と各国の生産政策について語られるが、主体性に大きな違いがあることに注意すべき。
shaadjutt via Getty Images

カタールが年明け1月1日付で「脱退」を通知したOPEC(石油輸出国機構)の定例総会が近づいてきた(12月6、7日、ウィーンにて開催)。

『フィナンシャル・タイムズ』(FT)が「注目すべき5点」なる記事を掲載していたので、取り急ぎ紹介しておこう。

「FT」が挙げているのは、「1.コンセンサス」「2.2014年の記憶」「3.サウジの難題」「4.ロシアを味方に」「5.減産の拡張」の5点である。

おおむね異論はないが、最後の「5.減産の拡張」は、100%できない、と判断する。

「FT」指摘の詳細は別途お読みいただくとして、要は、ドナルド・トランプ大統領の「激怒」を避けるため、サウジアラビア(以下サウジ)は高い生産水準を維持するが、他のOPEC諸国に広く、薄く、減産してもらい、全体として価格を回復するのに必要な減産量を確保する、という方策である。つまり、OPEC諸国が「負担」し、「果実」はリーダーであるサウジのみが享受する、ということだ。この案には、サウジ以外のどこの国も賛成しないのは目に見えているのではないだろうか。

これに関連して1点、読者の皆さんに注意喚起をしておきたいことがある。

この種の報道の中で、サウジが、ロシアが、米国が、と各国の生産政策について語られることがあるが、実は各国の主体性には大きな違いがある、ということだ。

サウジが「国」として減産する、と言った場合には、ほぼ100%言葉通りに受け取っても間違いがないが、ロシアの場合は異なる。米国では、そもそも「国」として減産する、ということはありえない。

つまり、サウジの場合には、国営石油「サウジアラムコ」がすべての生産を担っているので、国家の政策はそのまま「サウジアラムコ」の操業に反映されるが、ロシアの場合は、約半分の生産を占める国営石油「ロスネフチ」を除くと、一応民間企業なので、日本における「行政指導」のような形で国家政策を反映させるしかないからだ。だから、2016年末の協調減産合意時にも、ロシアの減産は段階的に、2017年4月までには実現する、という内容だった。

また米国の場合は、経営方針は各個別の企業の意思決定によるので、「国」として減産する、というようなことは論理的に成り立たない。

これらの違いを認識した上で、関連情報をお読みいただくことが大事だと愚考する次第である。

さて、では「Oil rise as OPEC meeting looms: five key things to watch」と題したAnjli Ravalの記事の要点を紹介しておこう。東京時間2018年12月4日7:50amごろ掲載されたもので、「Saudi-US politics and gaining Russian support are among issues weighing on producers」というサブタイトルがついている。

サウジアラビアの「特殊事情」

■米中貿易戦争が休戦となったことにより、世界経済悪化への恐れは一息つき、さらにOPECとその盟友たちが今週末、ウィーンで開催される会合で生産削減に合意するのでは、との推測が高まったことで、石油価格は、月曜日(12月3日)に約4%上昇した。国際的指標であるブレント原油は60ドルを回復し、ニューヨーク時間の午後遅く、2.35ドル上昇の61.90ドルで取引されている。一方、米国の指標であるWTI原油は2.15ドル上昇し、53.10ドルとなっている。

■10月初めから約30%下落していたところからの回復だ。市場が供給過剰に陥るのでは、との予測が出始めたため、サウジやクウェートを含むOPEC15カ国と、ロシアを含む非OPEC産油国との会合は、2016年以来もっとも待たれたものとなっている。

■木、金(6、7日)に予定されている会合で、価格上昇を図るために減産を行うべきか否かの決定を下すべく大臣たちは準備をしているが、判断材料とすべき5つの論点を挙げておこう。

【1.コンセンサス】

■ウィーンの会合において、減産のコンセンサスを作り上げることが価格の更なる下落を阻む方法となる。OPECのリーダーであるサウジには、最重要同盟国である米国のトランプ大統領からの、生産量を高く維持して価格を引き下げろ、との圧力があるので、合意されるであろう削減量は不明確だ。

■トレーダーやアナリストたちの多くは、価格を意味があるほどに引き上げるためには、140万BD(バレル/日量)以上の減産が必要だと見ている。しかしながら、サウジが主導するOPECがそこまでの減産に合意できると見る向きは少なく、米国の反発を買わないために、削減量をはっきりと明示しない発表となる可能性もある。減産合意はできたが、はっきりとした発表はしないというゴマカシは「間違いなく、さらなる売り浴びせを引き起こす」だろうと、コンサルタント「Energy Aspects」のAmrita Senは言う。

■もっとまずいのは、如何なる減産にも合意できない、ということで、それはブレント原油が50ドルに向かって下落することを意味するような「さらに、もっと低い価格」になる、と彼女は指摘する。

【2.2014年の記憶】

■まず、OPEC諸国は自分たちが、米国シェールの生産が需要を上回るペースで増産し続け、100ドル以上だった価格を暴落せしめた2014年の苦境と似たような状況にいる、ということを認識している、ということがある。

■効率化の促進と、最近の比較的高価格が続いたことが業界の自信を深め、米国の生産量はふたたび増加し始めている。来年は1170万BD、あるいは世界全体の供給量の12%以上になると見込まれている。

■だが、今回の会合で意思決定を形成するにあたり、明確な相違が存在している。2014年と比べると、OPECがライバル(であるシェール)を蹴落としてやろうと増産を企てることはありそうにない、ということだ。「OPECが減産に失敗し、ブレント原油価格が暴落したあの2014年末の記憶は......いまだに新しい」と、「UBS Wealth Management」の商品アナリストGiovanni Staunovoは言う。2014年に減産しなかったことから、OPECは2つのことを学んだ、と彼は付け加えた。「まず、米国シェールはいなくならないこと。そして2つ目に、価格機能で市場をリバランス(需要と供給がふたたびバランスすること)させることは高いものにつく、ということだ」と。

■OPECの余剰生産能力も、過去よりは大幅に減少している。

【3.サウジの難題】

■サウジは苦境にある。すなわち、減産して、米国の消費者のために低価格を維持したいトランプ大統領の激怒を買うか、あるいは生産量を維持し、自国の財政にダメージを与える価格下落を引き起こすリスクを負うか、という難題である。

■OPECは今回、イランに再度制裁を課すことにより生ずる供給減を相殺すべく、今夏サウジに増産を求めてきた米国とサウジとの緊迫した関係が何カ月か続いた後に集まることとなっている。しかしながら、トランプ政権は、最終的にイラン原油の輸入国への制裁適用を免除すると発表したため、市場に予想以上の原油が溢れる事態となってしまった。サウジのエネルギー相ハーリド・アル・ファーリハは、少なくとも100万BDの減産が必要だろう、と指摘している。

■だが、サウジの石油政策を知る人々は、反体制派ジャーナリストのジャマール・ハーショクジー(日系メディアでは「カショギ」と記されることが多い)氏殺害事件にムハンマド・ビン・サルマーン皇太子(以下MBS)が関与したかどうかで味方となってくれている米国の支持が必要なため、政策決定は需給要因に基づくものとはならないかもしれない、と指摘する。「多くの市場参加者たちは、サウジが生産水準決定を政治的要因と切り離して行なえるどうか、疑問に思っている」と「Oxford Institute for Energy Studies」の役員、Bassam Fattouhは言う。

【4.ロシアを味方に】

■サウジが如何なる決定を望むにしても、過去2年間、石油政策のパートナーだったロシアの支持を得ることが鍵を握っている。ロシアは、2016年に減産に合意したことから始まったパートナーシップの成功を賞賛しており、今週の新たな動きにも同調する、としている。しかしながら、劇的な削減については喜んで支持したことはない。

■「そうだ、我々は協定を延長することで合意している」と週末、ブエノスアイレスのG20サミットの場で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は語った。「(しかし)減産量については最終合意には至っていない」と。

■サウジとの同盟を維持する必要があるということがロシア政府の決定を縛ることになるかもしれないが、ロシアの国内生産業者たちは、最大限の生産をしたいと願っている。

■ロシアのエネルギー相アレクサンドル・ノヴァクは金曜日(11月30日)に国営通信『タス』に対し、「現在の価格水準は十分なものだ」と語ったが、さらにロシアの石油会社は生産量を変更(alter)できる、と付け加えた。

■ということは、ロシアは30万BD以下の少量の減産とするか、あるいは11月生産水準で凍結する、ということになるかもしれない、と「Raiffeisen Bank」のアナリストAndrey Ralishchukは言う。「(ロシアの石油会社にとって)増産に天井がないということより、より高い価格の方が恩恵は大きい」と彼は指摘する。

【5.減産の拡張】

■サウジが米国の怒りをなだめる1つの可能な方策は、他のOPEC諸国に減産させ、自らは出来るだけ多くの生産を続ける、ということだ。サウジは、政治的ならびに治安上の危機にあり、経済的に回復途上にあるとの理由で、前回の減産合意の枠外にあったナイジェリアとリビアへのロビー活動をおそらく行うだろう。

■リビアの生産量は最近倍増し、130万BDとなっている。ナイジェリアは180万BD水準を維持している。

■先週、ファーリハ大臣はナイジェリアの首都Abujaを訪問しているが、これは、アフリカ諸国はまだ減産に参加するとのコミットはしていないものの、積極的な協議が行われている現れと言える。「アフリカ両国は、自由裁量権があるので増産を続けており、さらに増産することを希望している」と、在ロンドンのオイル・ブローカー「PVM」のStephen Brennockは言う。

■一方、あるOPEC会議参加者は、もめているキルクーク油田からの輸出が再開されたため、イラクは増産し続けたいと願っているものと信じられている、という。同時に、イランやベネズエラのように生産が落ち込んでいる国々は、低い水準の目標設定に署名して成文化することを望んでいないかもしれない。(岩瀬 昇)

岩瀬昇 1948年、埼玉県生まれ。エネルギーアナリスト。浦和高校、東京大学法学部卒業。71年三井物産入社、2002年三井石油開発に出向、10年常務執行役員、12年顧問。三井物産入社以来、香港、台北、2度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクの延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。14年6月に三井石油開発退職後は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」代表世話人として、後進の育成、講演・執筆活動を続けている。著書に『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門』(文春新書) 、『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』 (同)、『原油暴落の謎を解く』(同)、最新刊に『超エネルギー地政学 アメリカ・ロシア・中東編』(エネルギーフォーラム)がある。

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(2018年12月5日
より転載)

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