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2015年12月28日 23時33分 JST | 更新 2016年12月27日 19時12分 JST

「公務員賃上げ」と「参院選対策」に消える「大盤振る舞い」予算

借金で首が回らない家庭で、収入が増えたとしたら、それを何に使うだろうか。まずは借金を返そうと考えるのが真っ当な人の考え方というものだ。ところが…

借金で首が回らない家庭で、収入が増えたとしたら、それを何に使うだろうか。みすぼらしくなった塀を直すか。親戚に贈答品を配るか。あるいは、大々的にすき焼きパーティーをするか。それとも、お父さんの小遣いを増やすか――。

そんな事はしないだろう。まずは借金を返そうと考えるのが真っ当な人の考え方というものだ。

ところが、収入が増えたからといって、さっそく浪費バラマキに走っている人たちがいる。

日本国の政治家と官僚だ。国債発行残高など「国の借金」が1000兆円を超えたと大騒ぎし、消費税率を引き上げなければこの国は破綻すると言いながら、税収が増えたとたん、気前よく予算を大盤振る舞いすることしか考えない。いったいこの国の政治家や財務官僚は何を考えているのだろう。

バブル期のピーク時並み

2015年度の一般会計税収は56兆円台と、当初見込んでいた54兆5250億円から2兆円近く増える見通し。1991年度の59兆8000億円以来24年ぶりの高水準だという。

ちなみに過去最高は1990年度の60兆1000億円。前後の1989年度と1992年度はいずれも54兆円台だから、今年はまさにバブル期のピークに肩を並べる税収になっているのだ。

税収が増えている背景には、2014年度から消費税率が5%から8%に引き上げられたこともあるが、アベノミクスによる円安によって企業収益が大幅に改善、法人税収が増えたことが大きい。さらに株価の上昇による所得税の増加なども効いている。デフレのどん底だった2009年度の38兆7000億円に比べると1.46倍、額にして18兆円近くも増えたことになる。

それでも、政府の懐事情が厳しいことに変わりはない。本来は税収が増えた分、借金削減に回し、財政再建に力を入れるのが筋だろう。それなのにおカネが入ってくるようになった途端、政府の中はすっかりバラマキ・モードなのである。

安倍内閣は相次いで2つの予算案を閣議決定した。1つは12月18日の臨時閣議で決定した「2015年度補正予算案」。そしてもう1つは、12月24日に閣議決定した「2016年度予算案」である。

補正予算は今年度の当初予算に上乗せして支出するもので、その総額は3兆3213億円。当初予算は96兆3420億円だったので、単純合算すれば99兆6600億円になる。来年度予算は96兆7200億円としているが、どうせ期中でまた補正予算を組むことになるので、100兆円を突破する可能性も出てくる。いずれにせよ、過去最大の一般会計の規模になっているのだ。

ポケットの中のポケット

今年度の補正予算は、霞が関の官僚たちですら苦笑するほどバラマキ色が濃い。「一億総活躍社会の実現」を掲げて、所得の低い高齢者などに1人3万円を支給する「年金生活者等支援臨時福祉給付金」3624億円が盛り込まれた。これには支給するための事務費234億円も含まれている。

財務省の資料には「アベノミクスの果実の均てんによる消費喚起・安心の社会保障」と狙いが書かれているが、永田町流の見方は、来年7月の参院議員選挙に向けたバラマキ。投票所に足を運ぶ確率が高い高齢者に実弾(現金)を撃ち込もうというわけだ。安倍首相に批判的な自民党のベテラン議員が「あれじゃ明らかに買収ですよ」と呆れているほどだ。

民主党は選挙に向けて、アベノミクスによって利益を得ているのは株価上昇などの恩恵を受ける金持ちだけで、格差は大きく拡大している、という論を張ろうとしている。そんな格差拡大批判を先回りして封じ込めるという狙いが透けてみえる。

農村へのバラマキも手抜かりない。TPP対策として3403億円が計上されているのだ。「攻めの農林水産業への転換(体質強化対策)」という名目だが、内容は農山漁村への補助金である。地方創生の名目で予算化された1472億円を合わせれば、5000億円近いおカネがばらまかれる。

2009年の衆院議員総選挙では、農家戸別所得補償制度を掲げた民主党に農村の批判票が一気に流れ、自民党が下野する大きな要因になった。ここでも、民主党など野党の批判を封じてしまおうというわけだ。

堤防や道路といった公共事業への大盤振る舞いには国民の目が厳しい。そこで活用されているのが「特別会計」である。ポケットの中のポケットに予算を移すことで、何に使うのかなかなか見えなくする。補正予算では「復興の加速化等」として8215億円が割り振られるが、そのうち7935億円は「東日本大震災復興特別会計」への繰り入れである。

公共事業は深刻な人手不足もあり、実際に工事ができず、執行されずに余る予算が少なくない。それを特別会計にプールすることで、官僚たちが自在に使える予算にしておくわけである。

さらに、地方に財源として配分する地方交付税交付金も1兆2651億円計上した。文句を言いそうなところに予算をばらまいているのである。

自分の懐に還元する官僚

クリスマスイブに閣議決定した2016年度予算では、税収を57兆6000億円と見込んでいる。企業の業績好調が続きそうなうえ、回復が遅れている個人消費が盛り上がれば税収はさらに増えそうだが、堅めの見積もりといったところだろう。

来年度予算の96兆7200億円は、一般会計の当初予算としては過去最大。新聞やテレビは「社会保障費が高齢化を主な要因に今年度より4400億円程度増える」のが主因だと説明しているが、高齢化も社会保障費の増加も初めから分かっていること。ほかの予算の圧縮などをせずにバラマキを加速していることが、予算の膨張に結び付いている。

ちなみに、当初予算は国会で時間をかけて審議されるうえ、メディアや国民の関心も高いため、各省庁も批判を浴びそうな予算は組み入れない。各省庁と財務省主計官との折衝でも、「本予算は無理だけど、補正で考えるから」といった会話が頻繁に交わされている。短期間で審議されて国民の目も及ばない補正予算でやりたいことをやるのが霞が関流なのである。

補正予算では、国家公務員の給与引き上げも手当てされている。政府は12月に入ってすぐ、2015年度の国家公務員の月給を0.36%、年間のボーナス(期末・勤勉手当)を0.1カ月分それぞれ引き上げることを閣議決定した。8月に人事院が出した「勧告」をそのまま受け入れて実施することとしたのだ。

人事院は大物官僚OBの影響力が強い組織で、民間の給与水準を参考にしているというが、しばしば指摘されるように比較対象が恣意的で、民間水準が高く出るようになっている。「公務員の給与は安い」というイメージを定着させているが、実態は官高民低である。

国家公務員の月給とボーナスが引き上げられるのは、2014年度に続いて2年連続。震災を受けて2012年度と2013年度には平均7.8%減額されていたが、2014年度に一気に元に戻ったため、8.4%増加。ボーナスも1割以上増えていた。それをさらに引き上げるというのだ。

2年連続で月給とボーナスが上がるのは24年ぶりというから、こちらもバブル期以来である。税収バブルを官僚たちはしっかり自分の懐へと還元しているわけだ。

野党間に打ち込まれたくさび

第1次安倍内閣は公務員制度改革を強行し、霞が関を敵に回したことで短命に終わった。安倍首相はそのトラウマからか、第2次内閣以降、公務員に「甘い」姿勢を取り続けている。今回も公務員にバラまくことで、言うことをきかせていると見ることもできる。

ちなみに、公務員の労働組合は民主党の有力な支持母体だ。2016年1月4日から始まる通常国会では、この公務員給与の引き上げが審議されるが、民主党は賛成する意向だ。維新の党は結党以来、公務員給与の削減を政策の柱のひとつとして掲げてきた。民主党と統一会派を結成した途端、「踏絵」を踏まされる格好になっている。

維新側からは「社民党に憲法改正に賛成しろと迫るのと同じくらいの内容だ」という悲鳴に似た反応が出ている一方、民主党幹部からは「嫌なら統一会派を出ていけということだ」という発言が出ていると報じられている。安倍首相からすれば、野党間にくさびを打ち込むことができた、という副次的効果もあったということだろう。

財務省が「1000兆円を超えた」と大騒ぎする国の借金。安倍内閣の政治家も、予算を作る財務省も、本気で借金を減らそうとしているようにはまったく見えない。

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磯山友幸

1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト。著書に『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)などがある。

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(2015年12月28日フォーサイトより転載)