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2018年03月16日 09時44分 JST | 更新 2018年03月16日 09時44分 JST

「ティラーソン解任」はトランプ大統領の「原点回帰」--渡部恒雄

世界の同盟国にとっては不気味な動きであることは間違いない。

Outgoing U.S. Secretary of State Rex Tillerson speaks to the media at the U.S. State Department after being fired by President Donald Trump in Washington, U.S. March 13, 2018. REUTERS/Leah Millis
Leah Millis / Reuters
Outgoing U.S. Secretary of State Rex Tillerson speaks to the media at the U.S. State Department after being fired by President Donald Trump in Washington, U.S. March 13, 2018. REUTERS/Leah Millis

 レックス・ティラーソン国務長官の解任は、不気味なタイミングで行われた。そもそも昨年10月に、ティラーソン国務長官がドナルド・トランプ大統領を「愚か者」と呼んだことが報道されて以来、解任はいつあってもおかしくない状況となり、問題はタイミングだけという状況だった。しかし今回の解任は、我々同盟国が恐れる最悪のタイミングで行われた。

 これまで、政権内のパワーバランスは、ジョン・ケリー大統領首席補佐官やジェームズ・マティス国防長官らの現実派が、スティーブン・バノン前首席戦略官兼上級顧問などの「アメリカ・ファースト」の現状否定派とトランプ大統領による極端な政策にブレーキをかける役割を果たしてきた。しかし、最近のトランプ政権では、それらのブレーキが効かなくなってきた。

 トランプ大統領は5月末までに北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に会うという驚きの決定をした。これは、一方的な軍事行動よりはましかもしれないが、北朝鮮のこれまでの裏切り行為を考えれば、常識的な政策とは思えない。さらに、鉄鋼やアルミニウムへの一方的な関税措置というのも、これまで世界の自由経済を支えてきた米国の伝統的立場からの大きな離脱であり、欧州やアジアの同盟国を困惑させるものだ。

 だからこそ、マティス国防長官やティラーソン国務長官らの現実派は、関税に反対を表明してきた。昨年来、ティラーソン国務長官の辞意を説得して、政権にとどめてきたのもマティス国防長官だ。今回のティラーソン解任は、マティス国防長官の外遊中に決定され、大統領からの相談はなかったとされる。

 しかもティラーソン国務長官の後任は、「アメリカ・ファースト」の内向きの世界観を大統領と共有しているとされるマイク・ポンペオCIA(中央情報局)長官である。これには、政権内のバランスを再度、トランプ流の現状否定の方向に動かすモーメンタムが見て取れる。

空白の隙に

 そもそも、トランプ大統領が一方的な関税措置に踏み切った背景には、ホワイトハウス内の現実派で、隠れた実力者だったロブ・ポーター秘書官が、前妻への虐待(DV)の報道によって辞任したことがきっかけだった。ポーター秘書官の盟友である大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問も、不十分なセキュリティークリアランスが問題視され、大統領に近づけなくなって影響力が低下し、愛娘のイヴァンカ・トランプ大統領補佐官の友人で大統領の信頼を得ていたホープ・ヒックス広報部長(ポーター秘書官の恋人でもある)も辞任した。そして、ポーター秘書官の過去を隠蔽しようとしたケリー首席補佐官もメディアの批判の対象となり、トランプ大統領からの信任も低下していた。そうした空白の隙を突く形で、ピーター・ナヴァロ通商製造業政策局長らの経済ナショナリストが大統領に鉄鋼・アルミへの関税政策を説得したらしい。

 おそらく同じ力学により、ティラーソン国務長官が解任され、ポンペオCIA長官が国務長官となる決定が下された。

 このポンペオ次期国務長官には、とりわけ欧州が危機感を抱いている。欧州と米中ロが結んだイランとの核合意について、トランプ大統領とポンペオ長官が破棄しようと考えているからだ。対北朝鮮に対しての現在のトランプ大統領の対話姿勢を、かつて最強硬姿勢をとってきたポンペオ長官は、「圧力の成果」だとして支持しているが、今後の北朝鮮との交渉の展開次第では、容易に強硬な立場に転じるだろう。

さらなる解任も検討

 鉄鋼・アルミへの一方的な関税措置、北朝鮮とのサプライズ首脳会談、ティラーソン国務長官の突如の解任という点を線で結んでいくと、トランプ大統領の「原点回帰」ともいうべき動きが見えてくる。しかも、それらのサプライズにより、現在の政権の難しい課題である大統領と過去に関係を持ったとされているポルノ女優からの提訴や、銃規制についての大統領の二転三転する姿勢への批判、ロシア疑惑捜査の進展などから、有権者の目を逸らすことができるというメリットもある。

 おりしも3月13日、11月の中間選挙の前哨戦となるペンシルバニア州下院補選で民主党候補が善戦し、結果はほぼ五分五分となり、民主党側が勝利宣言をしている(確定は早くても26日以降)。今後の議席確定までの動きは予断を許さないが、2016年の大統領選挙では20%もの大差でトランプ大統領が勝利した保守的な選挙区で民主党がこれだけ躍進したことは、共和党にとってもトランプ大統領にとっても大いなる懸念材料だ。

 もし中間選挙で民主党が下院の過半数を確保すれば、ロシア疑惑捜査の関連でトランプ大統領を訴追し、弾劾裁判にかける可能性が高い。そうなった場合、トランプ大統領の屈折した自我が、弾劾裁判に耐えられるとは思えない。となるとトランプ政権は、今後ますます、「アメリカ・ファースト」のトランプ主義に原点回帰をして、保守派や現状否定派の支持者の掘り起こしに動くだろう。

 トランプ大統領はティラーソン国務長官に続き、オバマ政権からの居残りである穏健派のデービッド・シュルキン退役軍人省長官(オバマ政権時代は次官)の解任を検討しており、さらにその後にはハーバート・マクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官の解任も視野にあるようだ。これは、世界の同盟国にとっては不気味な動きであることは間違いない。(渡部 恒雄)


渡部恒雄 わたなべ・つねお 笹川平和財団上席研究員。1963年生まれ。東北大学歯学部卒業後、歯科医師を経て米ニュースクール大学で政治学修士課程修了。1996年より米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員、2003年3月より同上級研究員として、日本の政治と政策、日米関係、アジアの安全保障の研究に携わる。2005年に帰国し、三井物産戦略研究所を経て2009年4月より東京財団政策研究ディレクター兼上席研究員。2016年10月に笹川平和財団に転じ、2017年10月より現職。著書に『大国の暴走』(共著)、『「今のアメリカ」がわかる本』など。
関連記事 (2018年3月15日フォーサイトより転載)