介護施設で働けば家賃補助、中古車、引っ越し代も 島根県浜田市が始めたひとり親家庭の定住促進策

島根県浜田市では2015年度、市外のひとり親家庭を対象に、市内の介護施設で親が働くことを条件に支援する事業を始めた。定住促進策として、ひとり親家庭に限定するのは全国的にも珍しいという。

貸し切りバスで移動した

島根県浜田市では2015年度、市外のひとり親家庭を対象に、市内の介護施設で親が働くことを条件に支援する事業(シングルペアレント受け入れ事業)を始めた。全国から希望者を募り、6人が7月に受け入れ先の七つの介護施設を見学して回った。定住促進策として、ひとり親家庭に限定するのは全国的にも珍しいという。見学面談会に同行した。

「ようこそ浜田市へ」。6人が訪ねると、各介護施設で温かく迎え入れられた。

6人は20〜40歳代の女性で、千葉県、愛知県、大阪府などから参加。子連れで来た人もいた。ほとんどの人が介護の仕事は未経験だ。

見学面談会は3日間の日程で、1・2日目は7施設を巡り施設の紹介、仕事内容などの説明を受け、施設内も見学。3日目は各施設との個別面談会が開かれた。

一行は貸し切りバスで移動。途中、保育園や小中学校などの側を通り、周辺施設や生活情報について同乗した市職員から話を聞いた。

■全国から反響

浜田市では人口減少と高齢化が進んでおり、同事業は、ひとり親家庭を手厚く支援することで定住を促し、介護人材の確保にも結びつけるのが狙いだ。

具体的には、年内に引っ越して施設で研修を受け就労するなどの要件を満たすひとり親家庭に対し、1年間、養育費や家賃などを補助する(表参照)。

シングルペアレント受け入れ事業の支援メニュー

5月に新聞やインターネットなどで募集したところ、北海道から沖縄まで30都道府県から約150件の問い合わせがあった。市の政策企画課は「想像以上の反響だった」と話す。最終的に15人が申し込み、今回は都合のついた6人が参加した。

市では今年度800万円の予算を組み、3世帯程度の受け入れを想定しているが、希望者が増えれば対応する方向だ。

市内には特別養護老人ホームが9カ所あり、定員50人規模が多い。今回はそのうち六つの特養が受け入れ施設となった。

■慢性的な人手不足

島根県福祉人材センターによれば、2014年度の県の求人倍率は1・77倍。県内では松江市のある東部(都市部)に比べて浜田市のある西部はより人手が不足している。センターでは年2回、就職フェアを開いたり、県内に4校ある介護福祉士養成校でガイダンスを行ったりしているが、慢性的な人材不足が続いている。

県ではU・Iターン支援策を積極的に展開しているが、農業などが中心。今回の浜田市の事業は介護施設に特化している。

参加した施設は「介護人材に絞ってもらうのはありがたい」「募集してもすぐに人は集まらず、市外からでも働きたいという気持ちを大事にしたい」「市の労働力を考えると遠方からも人材を受け入れる必要がある」といった声が聞かれた。

■夜勤時の預け先

1歳の娘がいる愛知県から参加した女性(20代)は「ひとり親と分かっているので応募しやすかった。田舎で子育てしたいと思っていた」、大阪府から1歳の息子と来た女性(40代)は「住む所と働く条件が合えば早く引っ越してきたい」と話した。

個別面談では、介護未経験による不安のほか、子どもの急病時や夜間勤務の体制などについて相談があった。どの特養でも月に約4回は夜間勤務があり、その間、小さな子どもの預け先を確保できるかが課題となった。

地図を広げて説明を受ける

市では対応策としてファミリーサポートセンターの拡充を検討し、移住生活の不安に寄り添う専門相談員の配置も予定している。

久保田章市・市長は「私もUターン組。保育園、学校、職場が車で15分以内で移動できるので、子育てしやすく、暮らしやすい街」と呼び掛けた。

■それぞれが研修へ

3日間、行動をともにした一行は打ち解けた様子で、子ども同士が遊んだり、小さな子が泣くと他の親や市職員があやしたり、和やかな雰囲気の中で全日程を終えた。

終了後、参加者に話を聞くと、「希望する施設を決めてのぞんだが、全施設の話を聞いて横一線になった」「施設を見学し雰囲気を感じて自分に合いそうな施設がはっきりした」と感想はそれぞれ。

6人は各自希望する施設を市に申し出て審査を経て、早ければ8月にも各施設での研修が始まる。

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