マイクロ・ペイメントのサイト「Blendle」(オランダ)の海外進出は成功するか?

オランダで生まれた、マイクロ・ペイメント制のメディア・サービス「Blendle(ブレンドル)」が、立ち上げ(2014年4月)から1年余を経て、海外展開を始める予定となっている。

(オランダ生まれのサイト「Blendle (ブレンドル)」)

オランダで生まれた、マイクロ・ペイメント制のメディア・サービス「Blendle(ブレンドル)」が、立ち上げ(2014年4月)から1年余を経て、海外展開を始める予定となっている。

20代後半のオランダのジャーナリスト2人が立ち上げたサービスで、一本ごとに記事を買える仕組みだ(1本15セントから30セント=約20円から40円)。記事の販売価格は出版社側が決めるため、場合によっては30セント以上になる場合もある。読んでみて気に入らなかったら、返金もできるという(その場合は理由を伝える)。返金率はこれまでに全体の約5%で、ほとんどの人が満足して読んでいるようだ。

現在のところ、利用者はオランダ国内の25万人で、人口全体の2%にも満たないものの、60%が20歳から35歳の若者たちで、最も多い読者層は20歳から25歳まで。「新聞を読まない」とされる層であることが強みの1つだ。

ブログ「メディアの輪郭」によると、政府の助成金や自分たちで貯めた資金でサービスを立ち上げた。販売する記事価格の約70%を出版社が受け取り、30%をブレンドルが受け取る仕組みだ。

記事バラ売りのアイデアは前からあったが

「欧州ジャーナリズム・オブザーバトリー」の記事によれば、 ニュース記事を1本毎に売るというアイデアはブレンドルが初ではない。6年前に米ニュース週刊誌タイムの編集幹部だったデービッド・カーとジャーナリストのウオルター・アイザックソンがすでに思いついていたという。私自身も、英新聞のいくつかのサイトで、前に似た様なことをやっていたことを記憶している(1本購入した後で、知りたかったことが書いておらず、がっかりしたり、など)。

ブレンドルはフリーランスの書き手にも道を開く。欧州オブザーバトリーの記事の中で紹介されているように、フリーランサーたちが便宜上1つの集団としてまとまり、「出版社」として記事を提供するのだ。その具体例が「TPOマガジン」だ。

読んだ記事はソーシャルメディアでシェアでき、友人たちや著名人がどんな記事を読んでいるか、どんな記事がトレンドになっているのかが分かるようになっている。

ブレンドルのウエブサイトによれば、利用者が読みたがるのは深みのある、じっくり書かれた記事、分析、論説などだという。

ドイツの新聞最大手アクセル・シュプリンガー社や米ニューヨーク・タイムズが投資をしていることでも知られているブレンドル。若者層が利用者となっている部分が、大手メディアにとって、何物にも変えられない、大きな魅力なのだろう。

「ジャーナリズムのアイチューンズ化」を目指すと創立者たちは言ってきたが、アップルが音楽のストリーミングビジネスに入るという大きな決断を発表した今、果たしてマイクロペイメントから閲読ストリーミング(?)、例えば毎月一定額(ただしそれほど大きな額ではなく)を払って存分に読める形も、将来的には考えることになるのだろうか?

ただし、もちろん、毎月一定額を払えば掲載記事が全部読める、という形はすでに存在はしているが。

例えば私が参加している朝日新聞の有料サイト(無料記事もある)「WEB RONZA」は、さまざまな記事の配信方法を試みている。また、記事の有料配信と言えば日本では「ケイクス」(週に150円)が人気だ。他にも大手メディアは紙媒体の購読者となっていれば、自社記事に限れば、電子版でもすべてを読めるようにしているところが多い。

英語あるいは日本語でブレンドルのサービスが始まったら、少しは私も利用してみようかなと思っている。

私自身、いくつかのメディアについては有料購読(毎月あるいは年間)しているが、興味があるメディアすべてを有料購読したら、財布がパンクしてしまうので、無料記事だけを読む場合がある。そこで、トライアルとして読みたい記事をバラ買いするのもいいかな、と。読むことで紹介されている媒体の定期購読をすることもあり得るかもしれない。

また、フリーランスのジャーナリストへの道が開けるという可能性も魅力的だ。

どんな記事が読めるかが鍵に

書き手として気になるのは、「お金を払ってもらえるほどの価値あるコンテンツを、生み出せるだろうか」と。

紙媒体の定期刊行物であれば、他の記事とセットになるわけだが、ブレンドル形式だと、1本1本の記事が勝負になる。

また、読み手として考えた場合、1本毎にお金を出して読むほどの興味深い記事を果たしてどれだけ見つけられるかな?と。

日本ではニュースのキュレーションサービスがどんどん出てきており、もはや「どうやって配信するか」「お金をもうけるのか」よりも、「どんな内容だったら、読んでかつお金を払ってもらえるのか」の段階に来ているように思っている。とにもかくにも「内容」なのだ。

ということで、ブレンドルが英語でサービスを開始した時、何が読めるようになっているのか、この点が最も肝心だろうと思っている。

(2015年6月9日「小林恭子の英国メディア・ウオッチ」より転載)