6月1日 衆議院安保法制委員会質疑を終えて

政治が判断すれば、自衛官はどんな現場であっても行く覚悟はできている。ただ、「国論を二分する状況で派遣されることは避けたい」「国民的な理解を得られない状況ならば、一年かけてでも議論した上で結論を出すべきではないか」という声に、総理は耳を傾けるべきだ。
細野豪志

■民主党の安全保障に対する基本スタンス「近くは現実的に、遠くは抑制的に、人道支援は積極的に」

我が国の安全保障上の最も現実的な脅威は、尖閣諸島の防衛にある。我々は、そうした脅威に対しての備えを万全にする「領域警備法案」を用意した。質疑の冒頭では、「近くの現実的な問題」に対応する法整備を総理に要請した。

政府提出法案には「近く」と「遠く」のメリハリがない。現行の「周辺事態法」は、朝鮮半島有事などに対処するものだが、改正案である「重要影響事態安全確保法」では、実質的な地理的概念をなくした。

さらに、新法である「国際平和支援法」では、わが国には直接的影響がない事態を想定しているにも関わらず、「重要影響事態安全確保法」と同様、現に戦闘が行われていない地域(すなわち、戦闘が行われる可能性のある地域)に派遣することができ、弾薬や軍人の輸送、給油などが可能となる内容となっている。

朝鮮半島有事というわが国の有事に直結する事態への対応を、世界中で起こりうるあらゆる事態に適用する必要性はない。総理は「目的が違うから法案も違う」と答弁したが、目的が違えばとるべき対応も違うはずだ。

■ISIL(イスラム国)掃討作戦への後方支援はしないという総理のミスリード

法案を閣議決定した日、「ISIL(イスラム国)掃討作戦への後方支援はしない」という安倍総理の記者会見での発言が気になった。「国際平和支援法案」を読む限り、すでに国連決議の出ているISIL掃討作戦への後方支援ができない根拠は見当たらない。

この点を中谷大臣に質したところ、「法律的にはあり得る」という明確な答弁があった。「後方支援は行わない」という安倍総理の発言は、現内閣の現時点での判断であって、将来まで保証するものではなく、ミスリードと言わざるを得ない。

■現場も望む国民の理解

今回の安保法制について現場の自衛官の声を聞いて回った。人格・識見に優れ、海外での活動経験が豊富な自衛官ばかりである。

今回の法改正が実現すると、自衛官は、これまで以上に、戦闘地域の近くで活動することになる。問題は、テロリストと対峙した場合や、突発的な銃撃戦が起こった場合に、彼らを守ることができるかどうかにある。ストレートに自衛官に質したところ、彼らは不安の声を漏らした。海外で自衛隊が活動する場合、派遣先の国と地位協定が締結され、当該国の刑事裁判権から免除されるため、適用されるのは、わが国の国内法のみである。

問題が生じるのは、市街地などで銃撃戦となり、テロリストと誤って民間人を撃ってしまうケースである。わが国の刑法には国外犯に業務上過失致死は適用されないため、法的に宙に浮いてしまう。誤射した相手が女性であったり子供であったりした場合、反日感情が一気に高まる可能性がある。深刻なのは、こうした事態が想定されることによって、現場の自衛官がROE(部隊行動基準)に基づいて撃つべき場面で躊躇することだ。これ以上、この問題を放置することは許されない。

戦闘が行われる可能性のある地域で活動することになって、活動の中断や撤退が必要になる点も懸念がある。他国軍と共同で活動が行われ、兵站など需要な任務を担うことになればなるほど、撤退は国際問題になる可能性がある。この点は、西元徹也元統合幕僚議長などの専門家も懸念を表明しているが、総理から明確な答弁がなかった。

政治が判断すれば、自衛官はどんな現場であっても行く覚悟はできている。ただ、「国論を二分する状況で派遣されることは避けたい」「国民的な理解を得られない状況ならば、一年かけてでも議論した上で結論を出すべきではないか」という声に、総理は耳を傾けるべきだ。

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