技能実習生の受け入れ現場を歩く

彼らが『労働者』としての役割を立派に果たしているということを実感した。
地元富士市で外国人技能実習制度を利用している企業を訪問してきた。
最初に訪れたのは、金属加工会社。この会社は、10年以上にわたって実習生を受け入れており、現在はベトナム人の男性3名が板金や溶接の現場で働いている。
研修生の採用は、社長が直々にベトナムに行って、現地の工業大学や専門学校の卒業生を面接して行うとのこと。その後、彼らはベトナムの送り出し機関によって約半年の日本語教育や生活訓練などを経て、日本にやってくる。 採用には相当のコストがかかるが、深刻な人手不足で背に腹は代えられない。若い研修生が入ってくることで、職場が活性化するメリットもあるという。
3年の実習期間の中で、実習生は、基本的な技術の習得だけでなく、図面から製品として仕上げるまでに技術を取得する。ただ、残念ながら、帰国後に母国で習得した技術が生かされることはほとんどないそうだ。ベトナムに同じレベルの機械を使っている企業がないことと、金属加工の仕事で彼らが望む収入を得ることは難しいのだという。
細野豪志
実習三年目の彼に、ベトナムに帰国したら何をしたいか聞いたところ、「日本企業で働きたい」と話してくれた。妻と子どもをベトナムに残してきているとのこと。日本で高度な技術を習得した彼の夢が、ベトナムで実現すると良いのだが。
細野豪志
実習1年目の彼には、大学生と高校生と弟と妹がおり、その二人の学費を稼ぐために働いているとのこと。休日には、ボランティアによって行なわれている日本語教室に通っているそうだ。日本語で懸命に意思を伝えようとする姿から、真剣さが伝わってきた。
実習生として日本に来るためには、彼ら自身が60万円を超える負担をしなければならない。途中で挫折すると、借金だけが残ってしまう。ここでの研修に彼らの人生がかかっているのだ。すぐに辞めてしまう日本の若者と違って、休むことなく一生懸命働いてくれる実習生はありがたいという社長の話も頷けた。
細野豪志
話を聞いた実習生の多くが、「実習が終わった後もここで働きたい」「日本に戻ってきたい」と話していた。せっかく技術を身に着けても3年でいなくなってしまうことは、経営者にとっても悩みの種になっている。彼らが再び日本で働けるとすれば、『高度人材』と認められた場合のみ。大学院などを卒業していることが条件となっており、狭き門になっている。
社長が見せてくれたものは、1ミリ角のサイコロだ。削り出したものではなく厚さ0.2ミリのステンレス板を切り出し、溶接して立方体をつくり、サイコロの目はレーザーで穴を空けたものだ。これこそ専門的な技術が必要な分野だと思うが。
次に訪れたのは、紙の街、富士市らしい紙関係の会社だ。ベトナム人女性3人の実習生と、スリランカ人男性1人の留学生が働いている。1年前から実習生の受け入れを開始したが、雇用許可制がある韓国(日本より稼ぐことができる)との間で人材の引っ張り合いが行われており、優秀な人材確保に苦労しているとのことだった。
細野豪志
この女性は、会社が提供する150円の昼食のお弁当も食べず、毎月10万円を家族に送金しているとのことだった。彼女たちは、残業はもちろん、土日も含めて仕事をしたがるが、労働時間の制約でできないと、社長は話していた。
細野豪志
スリランカからの留学生は、4月から高度人材としてこの会社の正社員となる。すでに、アルバイトとは思えない手際の良さで機械を操っていた。能力が高く、積極的な性格で、次から次へと仕事を覚えていくという。会釈をしながら、流ちょうな日本語で答える姿から、日本社会に適応している様子が見て取れた。「日本人よりよっぽど良い」という社長の言葉に、私は苦笑いするしかなかった。
技能実習生や留学生の姿を見て、彼らが『労働者』としての役割を立派に果たしているということを実感した。今回、現場を歩いた製造業だけではなく、農業、コンビニをはじめとした小売り、介護の分野でも同様のことが起こっている。
政府は、外国人労働者の受け入れ拡大の検討を開始したが、すでに現実は先を行っていると言えるだろう。深刻な労働力不足を考えると、さらに踏み込んだ対応が求められていることは間違いない。私は、現場の声もしっかり聞いたうえで、積極的な提案を行っていくつもりだ。

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