ガラパゴス技術を国際標準にしても役立たない

知的財産マネジメントの一環で、国際標準化活動の重要性が強調されている。拡大するハード・ソフト・コンテンツ市場から利益を得ようというのが、標準化活動に参加する企業の思惑である。

知的財産マネジメントの一環で、国際標準化活動の重要性が強調されている。政府の知的財産推進計画2015年版では、重要8施策の一つとして国際標準化・認証への取組が取り上げられ、新市場創造型標準化制度の元で、「我が国企業の優れた技術・製品の標準化」が推進されている。

情報通信産業では、標準化によって互換性のある多様な製品サービスが市場に投入されるようになり、結果として市場が拡大していく。拡大するハード・ソフト・コンテンツ市場から利益を得ようというのが、標準化活動に参加する企業の思惑である。

一方で、一部企業・国家による利益独占が疑われると、標準化を拒否される場合がある。わが国が推進したアナログ方式の高精細テレビ放送(MUSE)をめぐる争いは、その典型である。

しかし、このような排除行為は国際摩擦の原因となる。そこで、標準化団体の多くは、強く主張するものがあれば国際標準とするが市場では無視するという、摩擦回避戦略を実践するようになった。無線LANの標準化団体IEEE802.11委員会では、国際標準を中国向けに修正する作業を進めているが、国際標準を受け入れるように迫る時間と労力を不要にする、摩擦回避戦略である。中国市場を相手にしないメーカーは、修正版を実装しなければよい。

他がうんざりするまで自己主張を重ねれば、「我が国企業の優れた技術・製品」も国際標準として認められるだろう。しかし、ガラパゴス技術・製品では、世界市場は受け入れないから、競争力には役立たない。標準化の舞台では、主張する力も重要だが、世界市場に受け入れられるだけの交渉力・政治力が求められる。国際標準にするためには、自らが保有する技術を冷静に評価し、妥協すべきは妥協する必要がある。知的財産推進計画には、わが国の技術を客観視する、この視点が弱い。

9月4日開催の「IEEE802 Wireless標準化推進・リーダーシップ育成セミナー」では、冒頭、僕はこのように話し、来場者に交渉力・政治力育成の重要性を訴えた。

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