無線ブロードバンドを前提としたIT政策を

LTEは地方でも広い地域をカバーしつつある。無線LANのスポット数は増加の一途をたどり、高速接続を実現する技術の標準化も進んでいる。こうして、いつでも、どこでも利用できる無線ブロードバンドが社会の主流になりつつあるのだ。

総務省情報通信統計データベースにブロードバンドサービスの契約数が掲載されている。最新データは2012年12月だが、実は、この12月は大きな転換点であった。有線系(光ファイバー、ケーブルテレビ、DSL)の契約数が合計3530万であったのに対し、無線系(FWA、BWA、LTE、無線LAN)の契約数は合計4344万と、はじめて無線系が上回ったのである。9月には3523万:3119万だったから、3か月の間に急激に逆転が起きたことがわかる。その要因はLTEの634万増と無線LANの526万増である。

固定系は世帯や事業所単位で利用しLTEや無線LANは個人利用だから、単純に比較すべきではないという意見もあるだろう。しかし、DSLからの移行先として、光ファイバーと並んでLTEは十分に選択肢になっている。都会で一人暮らしをする若者は、最初から、光ファイバーなど考えない。LTEは地方でも広い地域をカバーしつつある。無線LANのスポット数は増加の一途をたどり、高速接続を実現する技術の標準化も進んでいる。こうして、いつでも、どこでも利用できる無線ブロードバンドが社会の主流になりつつあるのだ。

政府が立案中の「新たなIT戦略」も無線ブロードバンドを前提とすべきである。電子政府では、共通番号とセットで携帯電話番号を本人確認に用いれば、セキュリティ手順が短縮できるだろう。本人の医療情報を携帯電話に保存できれば、転院やセカンドオピニオンを求める時に便利だろう。

産業競争力会議でITの強化が議論された際には、三木谷浩史氏が「インターネット国有化論」を提案したと話題になった。一方、当日の議事要旨には無線ブロードバンドへの言及はなかった。これまで、ブロードバンド政策の中心には光ファイバーが置かれていた。通信事業者では収支が取れない地域に総務省が補助金を出した「地域情報通信基盤整備推進交付金制度」がその典型である。民主党政権の初代原口一博総務大臣が「光の道」を構想し、孫正義氏が計画的に銅線を光に置き換えるべきと主張したこともあった。

そんな過去に引きずられて、ブロードバンドの主流は光ファイバーと未だに思い込んでいるとしたら、せっかくの「新たなIT戦略」も方向を間違えてしまう。

デジタル教科書も政策の俎上にあるが、タブレットは学校でも家庭でも、当然、無線でブロードバンドに接続されるべきだ。無線につなぐ費用を家計で出せない世帯に対しては、移動通信事業者がアカデミックディスカウントでブロードバンドを提供するのもよいかもしれない。子供のうちに囲い込んでおけば、成長したら忠実な顧客になるのだから。

2012年末がわが国ブロードバンドの転換点であったと認識し、安倍政権がIT政策を進めることを期待する。

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