地方行政の効率化と地方自治の本旨

総務省に組織された「地方自治体における業務の標準化・効率化に関する研究会」が報告書を発表した。

総務省に組織された「地方自治体における業務の標準化・効率化に関する研究会」が報告書を発表した。社会保障・税番号制度の導入を機に、より一層のICT化と業務の一体改革を進め、「筋肉質」の自治体に進化するための方策を、報告書は提言している。

論点の中で気になったのが、「様式の標準化」と「制度改正のシステムへの反映」である。

僕は情報通信政策フォーラム(ICPF)などいくつかのNPOを運営しているので、役職者に住民票の提出を求める場合がある。提出された住民票は、自治体ごとに、見事にばらばらである。記載されている項目には相違はないが、用紙やフォントのサイズ、項目の順番などに少しずつ差がある。住民票の様式は条例で定められ、ITベンダーは条例に合わせて住民票発行システムを自治体ごとにカスタマイズして納めている。

自治体システムは自治体ごとに発注するのが原則だが、法律が改正されるたびに、システムを改修しなければならない。それが中小自治体には大きな負担となっている。

なぜ、自治体ごとに様式を決め、システムは個別に発注しているのだろうか。その原因は憲法第92条に書かれた「地方自治の本旨」にある。地域住民の意思によって、中央政府から独立した地域社会自らの団体によって、地方自治は行われるべきという概念である。

「様式の標準化」について、カスタマイズの手間が省けるしパッケージ導入コスト削減は自治体にも意味がある、というITベンダーの意見が報告書に紹介されている。一方で、行政法学の立場から、「全体の効率化という大きな政策目標のため国が自治体の条例を介させずに様式を決めることの正当性が果たしてあるか検討が必要ではないか」という指摘があったことも記載されている。つまり、「様式の標準化」は「地方自治の本旨」に反する恐れがあり、慎重な検討が必要という主張だ。

「制度改正のシステムへの反映」について、自治体が発注したのちにITベンダーが初めて対応するという手順では時間がかかりすぎるために、ITベンダーへの早い時期からの情報提供に努めるべき、というのが報告書の提言である。一方で、「小規模自治体を中心にベンダー依存が強まり、自ら制度及びシステムをグリップできなくなる事態を招く懸念があるため、自治体共同での事務処理推進、都道府県の補完を含め、小規模自治体の事務処理のあり方について検討を行う必要がある。」としている。全国で共通システムを用いれば対応はもっと簡単になるはずだが、「地方自治の本旨」への懸念から、報告書に言及はない。

2月25日に宮城県庁がウェブアクセシビリティ研修会を実施し、ウェブアクセシビリティ推進協会が協力した。そのために、宮城県内全自治体ウェブサイトを簡易評価したが、数多くの問題が見出された

この作業を進める中で、自治体ごとにウェブサイトを作成していることについて疑問を持った。住民サービスの大半は、どんな自治体でも共通だからだ。共通部分についてもそれぞれ独自に作成し、その結果、アクセシビリティへの配慮に問題が生じている。いっそのこと共通サイトを作れば、アクセシビリティにきちんと配慮できるし費用も押さえられる。観光・産業振興など自治体ごとに固有な情報はサブセットにすればよいだけだ。ここでも、「地方自治の本旨」からの発想転換が必要なのかもしれない。

「地方自治体における業務の標準化・効率化に関する研究会」報告書について、3月10日にICPFでセミナーを開催することにした。「地方自治の本旨」について、講師に質問するつもりだ。

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