電子行政は経済合理的に構築しなければならない

エストニアではマイナンバー(個人番号)はどうなっている?

新経済連盟が12月8日にエストニア政府との意見交換会を開催し、幸い同席できた。ターヴィ・コトカ政府CIOらと議論したのだが、エストニアが経済合理的に電子行政を構築しようとしている姿勢に、強い印象を受けた。

エストニアの電子行政には、パソコンだけでなくスマートフォンからもアクセスできる。そこで、すべてのデバイスで利用できるか質問したところ、マイナーなOSには対応しないので、95%という回答だった。企業間の契約はすべて電子化されているという説明があったので、越境取引について聞いた。すると、全体の20%を占める越境取引は別との返事。そのほかについても、100%を求めると費用が莫大になるものは無理しない、という姿勢が貫かれていた。

個人番号の保護も同様。エストニアの個人番号は、性別+生年月日+4ケタの数字で構成され、国民は4ケタの数字さえ覚えておけば済む。個人番号は電子行政だけでなく、口座管理・医療など多様な用途で利用され、守秘の対象ではない。電子行政だけでは年に平均2.6回しか利用しないので、普及を優先して、広く民間活用を進めたという。

コトカ氏は「秘密を守る最善の方法は、秘密にしないことだ」とも語った。電子行政にしても民間活用にしても、サービスを受けるには暗証番号が必要なので、個人番号だけが漏れても心配ない。だから秘密にしない、ということだった。

クレジットカードを利用すれば、店舗はカード番号を知ることになる。だからといって、その店舗がカードの利用履歴のすべてを把握できるわけではない。同様に、個人番号が伝わっただけでは、紐付けされたすべての情報が把握できるわけではない。その上、日本の制度では、マイナポータルによって自らの個人情報を行政がどう利用したか確認できる。不正があれば訴えられる。

簡易書留でマイナンバーが通知されているが、配達できないものが多数あるとメディアに取り上げられている。手渡しを義務付けたので、不在だと届けられず返送されてしまうからだ。マイナンバーは守秘すべきものだから手渡しと過剰に対応しようとしたから、今の問題が起きている。しかし、100%の手渡しには時間がかかり、費用がかさむことは確実だ。公職選挙の投票所入場券は普通郵便で送付されているが、大きな問題は起きていない。同様に、マイナンバーも普通郵便で通知すれば十分だったのだ。

住基カードは利用シーンが著しく限定され、その結果、ほとんど普及しなかった。マイナンバーを利用する行政事務は法律に定められ、住基カードより広い。しかし、同様に、順調には普及が進まない恐れがある。経済合理的に電子行政を構築するには、行政事務での利用範囲を拡大し、民間活用を推進し国民が利便を享受できるようにする必要がある。

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