昨日までできていたことが今日できないという成長 【イヤイヤ期】

昔を思い出しているうちにハッとした。そうか、"何かが出来るようになる"ことだけが成長なのではない、"何かが出来なくなる"ということも、彼女にとっては成長なのだ、いつだってそうだったではないか、と。
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子どもの成長は早い。

昨日までまるで出来ていなかったことが、今日いきなり出来ていたりする。

そうやって彼女はいつも私を驚かせてくれる。

大好きなバスも、ずっと「あふ」としか言えなかったはずが、いつの間にかちゃんと言えるようになっていた。

未だに青のことは「Wow!!」って言うけど。

きっと私の見落としてしまった"初めて"もたくさんあるのだろう。

それほど彼女の毎日は初めてのことであふれかえっている。

最近では保育園で覚えた踊りや歌なんかを披露してくれて、それが可笑しくて可愛くて笑える。

私にとってはとても喜ばしいことだ。

だけど、そうじゃないときもある。

昨日まで出来ていたことが、なぜか今日、出来なくなっている。

そんなこともよくあるのだ。

昨日まで食べられていたものが急に嫌いになってしまったり、急に暗い部屋で寝るのを怖がったり、そんなことが最近は特に多いようだ。

以前から娘は目に水が入るのが嫌でシャワーをするときキャッキャ言っていたのだが、それでもわりと我慢してお風呂に入ることができていた。

しかし少し前からはもう頑なに風呂に入ろうとしない。

なんとか調子に乗せて風呂に入るも、シャワーを頭にかけようものならフギャー!といって暴れまわろうとする。

自分が虐待しているのかと錯覚するほど叫ばれるし、最終的にはおえっおえっと嗚咽するほど泣いてしまったので私はオロオロしっ放しだった。

「なんで?なんで?」

私の頭の中ははてなマークでいっぱいになり、「昨日まで出来ていたはずなのに、なんで?おかしい!」みたいなことを思っていた。

その日からは毎日、風呂に入るたびに娘は号泣するようになった。

いや、そもそも入るところまで持っていくのも大変だ。

仕事して帰って食事を済ませてからの風呂、ちょうど私の疲労もピークの頃なので大変つらい。

だんだんと風呂というイベントが私も嫌になってきてしまい、職場からの帰り道でふと、「はあ~このあと風呂入れるのかあ~やだな~」なんて思うほどになっていた。

イヤイヤ期という言葉はもちろん知っているけれど、でもやっぱり「この前まで出来てたじゃん!なんで急に出来ないの!」みたいな思考になってしまってイライラするばかりだった。

そしてあるときふと、「そういえば、夜泣きが始まったときもこんな感じだったなあ~」とぼんやり思った。

娘は生後5か月から約1歳くらいまで夜泣きがひどく、それが私にとっては今でも身震いしてしまうほどつらい体験であった。

あの頃も急に夜寝なくなった娘に対して私は、「なんで!なんでなの!」を頭の中で連発してたなあと。

そうやって昔を思い出しているうちにハッとした。

そうか、"何かが出来るようになる"ことだけが成長なのではない、

"何かが出来なくなる"ということも、彼女にとっては成長なのだ、

いつだってそうだったではないか、と。

そんな当たり前のことなのだけれど、例えば、「7時に帰宅して9時には寝かせないといけないから急がなきゃ」とか、「こっちも疲れているから穏便に済ませたい」とか、私のそういう考えに、娘の気持ちが置いてけぼりになってしまっていたようだ。

昨日まで見えていなかったものが見えるようになり、急に怖くなったり嫌いになったりするのかもしれない。

昨日までなかった感情が急に表に出て来て、戸惑ってしまうのかもしれない。

理由はその時期によってもさまざまなのだろうけど。

あのギャン泣きも成長の証なのねと思うと、少しだけ余裕を持って彼女と接することが出来るようになった。

娘がイヤだイヤだと地団駄を踏んでも、まず抱きしめてあげられるようになった。

「どうしたの?」「そうだね、◯◯が嫌だったね」と声をかけてやれるようになった。

もしや私はビューネくんなのでは?と思うほど自然に彼女をなぐさめて抱きしめた。(CMの出演依頼歓迎)

それだけで落ち着く場合もあるし、そうじゃない場合もある。

風呂では引き続き泣き叫んだ。

そしてようやく私はシャワーのスタイルを変えてみようと思った。

もともと、「泣きたいときは泣かせたらいい」という考えが頭にあったので、シャワーは今まで通り頭からぶっかけのままいこうと思っていたのだが、彼女のあまりにも凄まじい泣きに負けた。

方向転換だ。

その日から私は彼女に、頭にシャワーをかけるときは上を向いてみようと提案した。

そうすれば目に水が入らないのだと説いた。

しかしながらそれは容易なことではなかった。

シャワーをかけようとすると錯乱状態になる彼女を落ち着かせ、言い聞かせるのは至難の技であった。

私は雪山で遭難した人がそうするように、「娘ちゃん!しっかり!こっちを見て!ママの方見て!落ち着いて!」と娘をあちらの世界から引き戻し、「上を向いてごらん、ほうら、ほら!目に水が入らないね!」と大げさに驚いてみせた。

しかし娘に上を向かせることはできるものの、頭に水がかかった瞬間怖くなってしまいすぐに下を向き、結果目に水が入ってしまうという事態に陥っていた。

なかなか上手くいかないものだ。

しかし私はめげずに次の日もその次の日も娘とともに特訓した。

すると昨日のことだ、初めて上を向いたまま頭を流すことに成功した。

娘はビクついていたものの、ひさびさに泣かずに済んだのである。

「目に水が入らなかったね!良かったね!」と小躍りする私を見て娘は曖昧な笑みを浮かべていた。

そして風呂を上がるときにぽつりとつぶやいたのだ。

「おふろ、こわく、ない」

私の想いが通じた瞬間であった。

**

明日になれば、また大声で泣くのかもしれない。

それかまた、別の問題に頭を抱えるのかもしれない。

だけど別にそれでいい。

これまでも、何度も何度もそんなことがあった。

それをこれからも同じように続けていくだけなのだ。

私は大きく息を吸い、娘に向かって言った。

「娘ちゃん、お風呂入ろっか!」

私たちのお風呂大戦争はまだまだ続くようであった。

おしまい。