1年間続けてきたこのコラム、私の担当は今回が最終回となる。2年前に新聞社を辞めてフリーランスとなった私に、発表の場を与えてくださった自治労に感謝している。
今回はもう一つご報告がある。報道でご存知の方もいるかと思うが、私は、女性記者の仲間たちと一緒に、「メディアで働く女性ネットワーク」(Women in Media Network Japan, WiMN)を設立し、5月15日に記者会見をした。ジャーナリズムに携わる女性たちの職能集団として、その地位向上と、働く環境の改善をめざす団体である。
4月12日発売の「週刊新潮」で明らかになった福田淳一財務事務次官(当時)による女性記者へのセクシュアル・ハラスメント事件に、私は強い危機感を覚えた。麻生太郎財務相が同日、参院財政金融委員会で「ひとつひとつのやりとりは定かではなく、確認しようもない」と述べ、事実関係の確認や処分はしない考えを示したからだ。
セクシュアル・ハラスメントは、被害者にとっては仕事がしにくくなるだけでなく、時には体調を崩したり、退職せざるをえなくなったりする深刻な被害だ。しかし、これに抗議したり訴えたりすると「大した問題ではないのに騒ぎ過ぎ」「女性はやっぱり面倒」などと言われ、一層仕事がしにくくなることを恐れて沈黙せざるをえないことが多かった。
麻生氏の発言は、被害を「なかったこと」にしようとするものである。これを放置すると、女性記者がセクシュアル・ハラスメントを受けてもますます抗議をしにくくなると、私は焦燥感を持った。加害者とされた福田氏が、加害を否定しその地位に止まり続けるとしたら、今後どんな加害者も社会的な制裁を受けることはなくなるだろう、とも思った(福田氏はその後、加害行為を認めないまま辞職し、財務省は彼の行為をセクシュアル・ハラスメントだと認定した)。
今がまさに「分水嶺」
一方で、これを機に「セクシュアル・ハラスメントは決して許されない」「女性を含む個人の尊厳は最大限尊重されなければならない」という社会的な合意が形成され、法制度の整備が進んだら、私たちはどれほど生きやすく、働きやすくなるだろうかと、かすかな希望も抱いた。まさに、今が分水嶺であると感じた。
「はめられたとの意見もある」「男の番(記者)に替えればいい」といった麻生氏の問題発言は、その後も途切れることなく続いた。私と同じような危機感を抱いた、ジャーナリズムに携わる女性たちが集まり、団体を作って麻生氏はじめ各所に要請書を提出することにした。要請書は5月15日の記者会見の際、同時に公表した。この時点で会員は86人、所属は新聞・通信社、テレビ局、出版社、ネットメディアの31社に及び、その後も増え続けている。組織に属する人は名前を出して活動しにくいため、私を含むフリーランスの2人が代表世話人を務めている。
設立にあたり、私たちは設立趣意書について突っ込んだ話し合いをした。鍵となるフレーズの一つが、「私たち自身が、声なき声の当事者だったのです」である。
「声なき声」を取材するのを仕事とする私たち自身が、実はその当事者だった。無色透明の第三者であるかのように振る舞うことは、もう許されない。女性たちが生き生きとジャーナリズムの仕事に能力を発揮することは、日本の報道に必ず良い効果をもたらすだろう。自分たちが当事者であることの「発見」は、他の多くの女性や、差別を受けたり社会的な問題を抱えたりしている人たちと、一人の人間としてつながっていくことでもある。
多くの人との連帯と「シスターフッド」
会員同士の交流を重ねることは、企業や業種の垣根で分断されてきた同じプロフェッションの者同士がつながり、そこで安心を得ることでもある。「シスターフッド」という言葉を、私たちはしばしば口にする。「私たち」という言葉で語れること自体が、新鮮な驚きであり、誇りでもある。
私たちは「報道」には携わっていても、「活動」は初めての人がほとんどだ。まだよちよち歩きだが、これからの活動についてはたくさんのアイデアがある。海外にも同様の団体があるようなので、そのうち交流もしていきたい。活動の窓口としてFacebookページを作ったので、ぜひ、多くの方々に応援していただければと願っている。そして、この社会を変えていく一端を担うために、力を尽くしたいと考えている。
自治労コラム(5月29日付)から転載