いまなぜネイティブアドが注目されるのか

今年7月、日本におけるネイティブアドの本格的な普及を見据え、「JIAAネイティブアド研究会」が発足された。インターネット広告推進協議会(JIAA)事務局長の長澤秀行氏は、ネイティブアドが注目される背景について、次の3つを挙げる。

ネイティブアドが注目される3つの要因

今年7月、日本におけるネイティブアドの本格的な普及を見据え、「JIAAネイティブアド研究会」が発足された。インターネット広告推進協議会(JIAA)事務局長の長澤秀行氏は、ネイティブアドが注目される背景について、次の3つを挙げる。

1つ目は、スマートフォンの普及。これにより、ユーザーのインターネットメディアヘの接触時間が増加し、頻繁になった。しかし、それと併行する形ではスマートフォンにおける広告は普及しておらず、ユーザーに広告が無意識に、あるいは意識的に避けられる現状がある。スマートフォンの普及に伴うインターネット広告の限界の顕在化だ。毎年2月に発表される「日本の広告費」によれば、インターネット広告費は、2011年に新聞広告費を上回り、2013年にはテレビ広告費の半分に匹敵するに至った。一見順調に成長しているように見えるネット広告だが、スマートフォンにおける広告普及が難しく、スマートフォンの利用拡大がネット広告市場を縮小させるということになりかねません。新しい手法が必要とされているのです」2つ目は、ツイッターやフェイスブック,ラインなどのSNSの普及。SNSは、ユーザーの情報収集経路を変化させ、それにより、ユーザーの企業のオウンドメディアへの訪問率が低下し始めた。そのため、企業はオウンドメディア以外でもユーザーとのエンゲージメントが築かなければならないという課題を抱えることになった。

3つ目は運用型広告の限界だ。これまで主にダイレクトマーケティングを事業とする企業が運用型広告モデルに多く出稿してきた。運用型広告商品は、もともと関心のある人をターゲティングする、いわばプル型、しぼり込み型広告が多い。一方で、企業が未関心層もまきこみブランディングを図るには、テレビCMのようなプッシュ型のイメージ広告が有効だが、そのメインメデイアであるマスメデイアのパワーの相対化でそれを利用が拡大するネット上でどのように実現するのかということが課題になってきた。テレビCMに投下しているブランド企業のネット広告費はあまり拡大しておらず、ほぼ横ばいの状態。ネット上でもオウンドメデイアにとどまらず幅広くブランディングしたいというニーズがあるにもかかわらず、ネット広告が対応できていない現状がある」と長澤氏は話す。

動画広告かネイティブアドか、新しいネット広告としての期待

こうしたジレンマは、米国で先行して起きており、2つの流れをもたらしたという。一つは動画広告で、ブランディングの手段として効果的であるため、現在では多くの企業で活用されている。そして、もう一つがネイティブアドだ。「ネイティブアド研究会」の座長を務める講談社の長崎亘宏氏は「米国では、日本で普及したタイアップ広告というものが主流でなかったので、特に新しい手法として注目されていました。ユーザーが接するメディアやプラットフォームに、ネイティブアド=自然なかたちの広告というコンテンツがある。これらは、クリックされるための成果報酬型広告としてではなく、商品やサービス、企業というブランドに親しみを持ってもらう、エンゲージメントを築くコンテンツとしての役割が期待されているのです」と話す。

こうした波は、現在の日本にも押し寄せている。コンテンツを活用したマーケティングに取り組む企業が増え、ネイティブアドはその一環としての高い効果が期待されている。さらに長崎氏は、「メディアによりなじむ手法として、ネイティブアドがあります。ネット自体がマス広告的に活用される中で、ブランドメッセージを込めたコンテンツを展開する上では、ネイティブアドは有力な選択肢の一つになります。特に、スマートフォンの広告枠としてこれまで相応しいものがなかったことやネイティブアドがシェアラブルであることを考えても、そのポテンシャルは大きいと考えています」と語る

新しいゆえに重要視されるルール設定

日本でも普及の兆しを見せるネイティブアドだが、現状ではその概念や定義があいまいであり、両氏はユーザーの安全性や信頼性を担保するためにも、早急なルール設定が必要だと強調する。「ネイティブアド研究会」の目的も啓蒙活動と共に、広告効果定義や表現、審査ガイドラインの策定などを主眼に置いている。

「ポイントになるのは、広告審査と広告効果です。広告審査という点では、新聞や雑誌はかなり厳しいのですが、そこにスタンダードを合わせていきます。厳しいルール設定に対しては、これまで記事広告を出していた広告主から、効果が低くなるのではないかという懸念もあると想定しています。しかし、枠のありかたやコンテンツそのものの質、そしてブランドとコンテンツの関係性次第で、ネイティブアドが非常に有効な手法であることは変わりません。コンテンツとして面白ければ、拡散されやすいシェアラブルなものであることも強みです。効果という点でも、CTR(クリック率)の先にある価値として、多くの人が納得できる指標を見つけていきたい」と両氏は語る。

研究会では、2つの分科会を立ち上げ、効果測定と広告表記、審査ガイドラインの策定を中心に取り組んでいる。るる。ネイティブアド教本を発行するIAB(米国のインターネット広告の業界団体)とも提携し、グローバルスタンダードを踏まえた上で、日本のローカル性を考慮したルール設定を目指す。さらに健全な市場の育成を目指す啓蒙啓発する活動。の促進するため、年内に4回(残り1回)と来春にJIAAネイテイブアドカンファレンスを開催する。

ネイティブアドがもたらすメディアの構造的変化

ネイティブアドは、定義が広範であるがゆえに、プレイヤーも多岐にわたる。そのため、プレイヤー間での合意形成が重要だと長澤氏は話す。「ネイティブアドという性質上、誤認が増えてしまうことを怖れています。以前に起きたステルスマーケティングのような、ユーザーが記事なのか広告なのか分からないというケースは、メディアとしての信頼が失われかねない。新しいが手法であるゆえに、かなり丁寧にルール設定などを行っていく必要があると考えています。媒体社や記事を制作する会社、PR会社なども巻き込み、ネイティブアドに関する合意形成をしていくことが研究会の意義です」

ただし、ネイティブアドが正しく運用されれば、メディアの構造的な変化にもなると長崎氏は語る。「ネイティブアドにより、デジタルメディアは本当の意味での異種格闘技戦になります。メディアにとっても新たな収益源となり、ネイティブアドの価値が媒体価値に直結する。本当の意味でのメディア力が問われる時代が始まると思います。メディアとしても、ネイティブアドは、社会性が問われる手法です。ネイティブアドが失敗するというリスクは、広告の価値だけでなく、メディアの価値を毀損することをはらんだものになります。つまり、ネイティブアドに関わる議論は広告にとどまらないメディアのあり方について話すことにもなるのです。

*『宣伝会議』2014年12月号 ネイティブアドの効果と可能性 特集*

p20 「いまなぜネイティブアドが注目されるのか」より転載。*

*詳しくは、『宣伝会議』12月号をご覧ください。

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