あなたが飲むそのクスリ! 薬剤師でなく事務職員が「調剤」している!?

新聞の報道がきっかけで調剤薬局は大きく揺れている。筆者の元にも実際に調剤薬局で働いている人たちから調剤薬局のブラックな実態を告発する声が寄せられている。

タイトルの画像は、ある県の薬剤師会が作成した通知文書だ。

大手薬局チェーンのツルハの子会社「くすりの福太郎」が薬剤服用歴を記載せずに調剤を行ない、保険請求していたことが新聞で大きく報道された数日後に県内の調剤薬局に一斉に送られた。

筆者の元にも実際に調剤薬局で働いている人たちから調剤薬局のブラックな実態を告発する声が寄せられている。

なかでも大きな問題だと思うのが、本来は資格がある薬剤師しかできないはずの調剤行為を、実は事務職員が行なっているという訴えだ。

しかも大手チェーンの調剤薬局でそうした実態があるという。

こう訴えてきたのは、首都圏の大手調剤薬局のチェーンの店で働く事務の女性A子さん(30代)だ。調剤薬局で働く経験は1年にも満たない。

ふつう患者は医療機関でもらった処方箋を持ってそれぞれの調剤薬局で薬を買う。

窓口で処方箋を提出すると、調剤薬局では薬局内に保管している薬剤を処方箋に見合った形で準備し、薬を入れる紙製の薬袋(やくたい)に患者の名前と服用法、薬の名称と数、交付した薬局名と薬剤師名を記入し、使用方法などを書いた説明書も同封する。その間、患者に薬の利用歴を口頭で質問したり、服用についての注意事項を説明したりする。

薬剤師は代金を支払って薬を受け取った後で、薬歴(薬剤服用歴)を記録する。

ところがA子さんが働く調剤薬局では、錠剤のピックアップなど機械的な調整作業から、薬をミキサーで粉砕して分包する作業や子ども用に量を減らしたりする作業に日常的に事務職員がかかわっているという。

薬局には資格を持った薬剤師も存在するが、患者が増えてくると事務職員も調剤室に呼ばれてこうした作業をさせられる。

時には薬剤師の代わりに、医師からの処方箋に疑問がある時に医療機関に問い合わせて確認する「疑義照会」という行為までやっている。

上司からこうした調剤行為を指示されるたび、A子さんはいつもヒヤヒヤしているという。

過去には、調剤を薬剤師ではなく無資格な事務職員にやらせていたとして、薬局経営者の夫婦が逮捕・起訴されたケースもある。

2002年、高知県宿毛市でのことだった。

なぜ、事務職員に調剤行為をやらせているかというと、薬剤師の待遇が高いという背景がある。

薬剤師の資格があれば時給は3000円。大学の新卒者でも調剤薬局に入社すれば年収は7~800万円。処方箋あたりの人数の基準はあるものの、調剤薬局の経営会社からすれば人件費を減らすために、薬剤師はギリギリの数にして事務職員をなるべく使った方が経営効率がよくなる。

監督官庁である厚生労働省は動いているのだろうか。

ツルハホールディングス子会社の「くすりの福太郎」やイオン子会社の「CFSコーポレーション」の調剤薬局で薬剤師が薬剤服用歴(薬歴)を記載しないまま薬を出していた問題を受け、厚生労働省は24日までに、日本薬剤師会などを通じ、全国約5万の調剤薬局に薬歴の記載状況を自主点検するよう要請した。

塩崎恭久厚労相は24日の閣議後の記者会見で、「薬歴管理は本人の健康にとって必要だし、薬剤の使用が適正かを薬剤師がチェックするのも必要だ」と述べた。同省は3月中旬をメドに報告を求め、公表する。

新聞報道に背中を押されるようにこうした動きを見せてはいるものの、「無資格者による調剤行為」など薬局をめぐるその他の問題全般に積極的にメスを入れる姿勢は見せてない。

無資格者による調剤は立証するのがかなり困難な上、薬剤師の指示の下で「ピッキング」と呼ばれる薬品をピックアップする行為だけだとクロとは言えずに微妙だと行政側も現場では説明している。

薬剤師会の幹部のなかでも「ピッキング」も含めて無資格者が行なう場合はすべて違法だと主張する人もいれば、調剤室に薬剤師が完全に不在な状態で調剤しない限りは合法だと主張する人もいるなど、見解は分かれている。

また、規制緩和の流れで、資格のある薬剤師の下に補助的な資格を設けようとする議論を国や薬剤師会などが現在、進めている。

「ファーマシーテクニシャン」という名称の補助資格だ。

これまで医療の分野では「看護婦」の下に「准看護婦」という資格をつくって、より早く養成できて、より給料も安上がりの資格をつくるということを政府は時々行なってきた。

こうしたなかで監督機関である厚生労働省は、「無資格者による調剤」の実態についても今のところは明確な基準を示したり、調査をしたりせず、あいまいなままにしておく姿勢のようにみえる。

だが、患者という側で考えると、資格がない事務職員、しかもA子さんのように薬についての知識も経験もなく、不安だけを抱いている人たちが実際に薬を混ぜたり、薬の量を量ったり、袋詰めしたりする作業に従事している実態は、危険に満ちている。

しかし、A子さんの職場ではそうした薬剤の開封や保管、開封後の期日の管理などもあいまいなままで事務職員まかせの場合があるという。これでは患者にいつ事故が起きてもおかしくはない。

万一、事故が起きた時の責任はどうなるのか?

そんなA子さんの不安に責任を持つべきは、勤務先の調剤薬局の経営者であることはもちろんだが、こうした事態を放置してきた厚生労働省の責任も問われなければならない。

A子さんは職場で上司に相談した時に返ってきた言葉に唖然としたという。

引き続き、調剤薬局のブラックな実態について、寄せられた情報から発信していく。

(2015年3月1日「Yahoo!ニュース 個人」より転載)

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