テレビが「ステマ手法」! 視聴者への裏切りでは?

IBC岩手放送は、明治から「タイアップ料金」を受け取りながら、番組提供などとは表示せず、しかも映像素材も明治からもらって番組の中に使用していた。

テレビ局の"ステマ手法"を暴いた「週刊新潮」16年12月22日号

「週刊新潮」の見事なスクープだった。

16年12月15日(木)に発売された「週刊新潮」(16年12月22日号)には、疑惑のテレビ番組についての記事が載った。

テレビでも「ステマ」が横行していた、という事実を伝える記事だ。

残念なことにテレビ局やテレビ番組への不信を募らせるようなセンセーショナルな見出しが並ぶ。

「ステマ番組」「テレビ局の裏金」

筆者はテレビ放送について研究している人間である。

この記事に関連して、「週刊新潮」側から相談を受けて取材に協力し、関係資料や当該番組を視聴した。

その上で、この記事が行った「ステマ」の問題提起は決して小さくはないと感じている。「ステマ」は視聴者を裏切る行為だ。

テレビ不信が広がり、テレビ離れが進行する現状に歯止めをかけるためにも、放送業界はこうした悪弊を断ち切らねばならないと強い危機感を抱いている。

記事によると、問題の番組はTBS系列のIBC岩手放送が制作し、15年9月に岩手県を含む東北6県で放送した『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅~外国人の健康法教えちゃいます!?』。宮下純一、谷澤英里香のタレント2人が岩手県内に住む外国人のところを訪ねて歩き、健康法を聞いていく、というもので実際に地元ではそれなりに知られた外国人を紹介する。だが、その中で誰が見ても唐突で不自然な場面が目につく。

実際に岩手で撮影した映像ばかりが流れていたと思ったら、唐突に東京の順天堂大学免疫学講座の奥村康・特任教授が登場し、「温泉は免疫力を上げます」などと語り出す。

さらにナレーションで「忙しい現代社会でも手軽に免疫力を高める食べ物がある」として「それがR-1と名前がついている乳酸菌です」と強引にこの食品についてのPRめいた説明が登場する。

しかも佐賀県有田町などでR-1が入ったヨーグルトを住民に飲んでもらったら風邪やインフルエンザの罹患率が下がったなどの実験データがグラフで紹介される。「R-1乳酸菌を取っておくと免疫の下りが少ない」と奥村特任教授が専門家としてお墨付きを与える場面も出てくる。

このあたりの場面が、いかにも「ショッピング番組」風で宣伝臭がとても強いのだ。

「R-1の入ったヨーグルト」と言えば、株式会社・明治の「R-1乳酸菌」の赤いパッケージを思い浮かべる人は少なくないだろう。

実際、日本国内で商品化されているものは明治の製品しか存在しない。

この番組では商品名は伏せていたものの、事実上、明治の商品を露骨に宣伝する場面が不自然な形で挿入された。

この番組はIBC岩手放送の番組審議会でも「問題」になった。

番組審議会、通称「番審」は、それぞれの放送局に設置された外部有識者によるお目付機関であり、放送法で設置が義務づけられている。

ただ実態はかなり形骸化していて、どの局でも「番審」は通常月に1度、局の側が指定した番組を視聴してもらって「ご意見」を拝聴するというスタイルだ。ところが、この番組については番組審議委員の一人がたまたま放送を見ていてこの番組が対象になった。15年11月のことだ。

審議会の議事録を読むと、委員たちが「あざとい」「視聴者をバカにしている」などと次々に違和感を表明している。通常は「ガス抜き」で終わることが多い番組審議会の中ではきわめてまれな出来事でこれほど紛糾した番審の議事録は読んだことがない。

番組審議会では、外部の委員の意見に対しては局の責任者が出席して説明することになっている。

その中で、IBC岩手放送は以下のように説明した。

「番組はR-1乳酸菌の情報を取り込み、(明治から)タイアップ料金をいただくことで成り立ちました」

「しかし、(明治の)スポンサー提供表示はしない。それを(明治も)理解しています」

「(番組で用いられた)素材も、メーカー(=明治)から提供いただいたそのものです」

つまりIBC岩手放送は、明治から「タイアップ料金」を受け取りながら、番組提供などとは表示せず、しかも映像素材も明治からもらって番組の中に使用していた。

ネットニュースのサイトなどで問題になった「ステマ」=ステルス・マーケティングをテレビでもやっていたとテレビ局が告白したのだ。

実態はコマーシャルなのに通常の番組のように見せかける。

これはやってはいけないことだ。

番組放送のルールである「放送法」では、12条にこう規定されている。

第十二条 放送事業者は、対価を得て広告放送を行う場合には、その放送を受信する者がその放送が広告放送であることを明らかに識別することができるようにしなければならない。

要するに、放送法は「ステマ」は法律違反だと明確に宣言している。

問題の番組は、放送法に違反する疑いがある。

岩手放送側は、番組審議会で以下のように弁明している。

・番組は、岩手放送の営業と番組を下請けした東京の制作会社、広告代理店、明治の宣伝担当者との間の「コミュニケーション」で成立した。

・CM枠ではなく、番組内でR-1の情報が盛り込まれることを条件に、明治が番組に「料金」を出す。

・番組内で流れる「提供」の会社の中には明治を入れない「ノンクレジットタイアップ方式」を取った。

・番組に登場する医師(=奥村康・順天堂大学特任教授)やデータは明治が提供したそのものを使った。

番組内のR-1に関連する部分は事実上、明治の広告なのに、それを視聴者に隠して放送していたことになる。

視聴者を裏切る、許されない行為であることは明確だ。

では、「ステマ」は岩手放送で発覚したものだけなのか。他の局でも存在するのか?

「週刊新潮」が調べていくと、岩手放送と同様に不自然な形で「Rー1乳酸菌」の効果をPRする宣伝臭の強い場面が挿入された番組がキー局でも見つかったという。筆者もそのすべてを視聴したが、程度の差こそあっても番組の流れが「不自然」だったり、「唐突感」や「違和感」がある形で「R-1乳酸菌」や、他の明治の製品で使われる「PA-3乳酸菌」「LG21乳酸菌」の効果を強調するものばかりだった。

以下、疑惑の番組群だ。

「30XX年まで生き残れ 衝撃!世界のマル秘健康法SP」(TBS)

「あなたの体の悩みを2週間でスッキリ!!」(テレビ朝日)

「ソレダメ!~新常識満載!食生活改善SP」(テレビ東京)

「駆け込みドクター」(TBS)

「ヒデ&ジュニアのニッポン超安全サミット」(フジテレビ)

「FOOT×BRAIN」(テレビ東京)

「つなげリオへ!噂にアタックNO.1」(フジテレビ)

「直撃!コロシアム!!ズバッとTV」(TBS)

「プロから学ぶ生活術ダメ出し!アドバイザー」(テレビ朝日)

キー局では日本テレビをのぞく全ての局で放送されている。

岩手放送と同様、R-1乳酸菌の免疫力を強調し、風邪やインフルエンザ予防に効果があるなどと説明されているが、番組内で「明治」の名前はまったく出てこない。

赤い容器の商品そのものは見せずにボカシがかけられていたりする。ただ、R-1から赤い容器であることまではわかるような隠し方で、飲んだ経験がある視聴者ならあれだと峻別できる程度の隠し方をしている。また、番組内のテロップ表示の色もR-1なら赤色、PA-3なら黄色、LG21なら青色と明治の商品のパッケージと完全に合致させている。商品そのものを見せずとも、いわばサブリミナルな印象づけを狙う巧妙な仕掛けになっている。

それぞれの番組での「R-1乳酸菌」などの扱い方がどうなっているか。それぞれを個別に検証してみるしかないが、「ステマ疑惑」がこうも広がると当該の放送局だけで対応して済む問題ではなくなってくる。

むしろ、放送業界が一致して取り組むべき問題だということができる。

なにしろ「放送法」に違反する疑いがあるのだ。

放送法違反に対しては放送局を「停波」させる場合もある、というのが現在の政府の見解だということを忘れてはならない。

各民放局が加盟している日本民間放送連盟(民放連)、さらには番組制作会社も関係しているから番組製作会社の団体であるATP(全日本テレビ番組製作社連盟)、さらに番組放送の自律的なお目付機関であるBPO(放送倫理・番組向上機構)が徹底調査すべきだと考える。

インターネットの急拡大で広告収入が相対的に減りつつあるテレビ業界で「ステマ」疑惑が浮上した背景は何だろう。

広告収入が目減りする中で多少ルール違反を犯してでもスポンサーにサービスしなければ、という焦りの気持ちがあったのかもしれない。

ただ、視聴者の側から見れば、実態として「CM」と変わらないものを「番組」として見せられるのは「ステマ」と非難されても仕方ない。

繰り返すが、視聴者を裏切る、冒涜行為だ。

今回、 DeNAが運営する健康情報サイトWELQ(ウェルク)で事実が確認できないいい加減な情報が多いことが発覚し、掲載休止に追い込まれた。各テレビ局もニュースで大きく取り上げていた。

「健康情報」が一般の人たちの関心が高く、いろいろな企業にとって「おいしい分野」であることはネット業界もテレビ業界も大差はない。ネット業界では今回の出来事で業界内の倫理向上やルール化の徹底が叫ばれているが、事情はテレビ業界でも同様だ。

ネット業界と違って、テレビは規制する法律が存在し、各局に番組審議会や業界全体でBPOという組織も存在する。その意味ではネット業界よりもはるかに進んでいるとテレビ関係者は考えてきた。

しかし、岩手放送に端を発した今回の「ステマ疑惑」は、実はテレビ業界のそうした仕組みも形骸化していて実態は放送法違反が少なからずあることを示したといえる。ネット業界の問題を「我々テレビと違ってどうせいい加減な業界だから...」などと高みの見物をしているつもりが実は自分たちの足元も危ういという現実を突きつけられたのだ。

テレビ局側には徹底した調査の実施と、視聴者が納得いくような説明を求めたい。

(2016年12月15日「Yahoo!ニュース個人(水島宏明)」より転載)

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