韓国のシンクタンクNPO「希望製作所」訪問記録

日本においてシンクタンクと言うと、銀行・企業系のものが中心で、もっぱら政府からの調査委託等や、システム屋さん的な開発事業によって成り立っています。ただ、そうすると、政府の政策を中立的な立場から批判・評価し、積極的に政策提言していくことは難しくなります。

日韓コミュニティビジネスフォーラムにスピーカーとして招待されたついでに、11月7日、韓国を代表するシンクタンクNPO、「希望製作所」を訪れました。

日本においてシンクタンクと言うと、銀行・企業系のものが中心で、もっぱら政府からの調査委託等や、システム屋さん的な開発事業によって成り立っています。ただ、そうすると、政府の政策を中立的な立場から批判・評価し、積極的に政策提言していくことは難しくなります。(そして企業形態だと、政策提言は儲からないので、更にやりづらい)

アメリカにおいては、ブルッキングス研究所ヘリテージ財団に代表されるように、シンクタンクNPOが多々あり、政府の政策決定の基礎となるデータを調査・公開し、時に政策に積極的に影響を与えています

先日竹中平蔵元大臣とお会いした時も、「日本には政策に関する情報が官庁に集中しすぎで、民間の政策立案機能が極めて低い。それが政策競争を妨げている。シンクタンクNPOが必要だ」と仰っていました。

そうした意味で、希望製作所は、韓国随一のシンクタンクNPOであり、日本が学ぶところは多いと思いました。

さて、この希望製作所というと、現在のソウル特別市長(日本で言うところの東京都知事)であるパク・ウォンスン氏が、社会活動家(兼市民派弁護士兼NPO経営者)だった時に設立されました。(写真下)

年間予算は約三億円、そのうち半額は寄付。寄付は会員制を敷いていて、毎年一定額が入るようにしています。

寄付を1億5000万円集められるというのは、かなり意外なことです。

というのも、日本ではアフリカの飢えた子ども達や難民等、共感を得やすいテーマであれば大規模な寄付を集められますが、なかなか調査・研究を行うシンクタンクに寄付をしよう、とはなりません。

そこで、なぜ寄付を集められるのか、を聞きました。理由としては

1.パク・ウォンスンさんの人気と信頼

2.軍事政権 vs 民主化運動という歴史があり、民主化に対し関心が高い。よって民主化に資する事業にはお金が集まる

ということでした。2は韓国社会特有の理由ですが、1に関しては日本でも突出した個人であれば寄付を集められるので、日本版シンクタンクNPOも、可能性としてはあるのかなと思いました。

寄付に関しては様々な工夫をしています。1004万ウォン(「1004」は韓国語で「天使」と同じ発音)寄付してくれた高額会員は、写真と寄付ストーリーを掲示するなど特別扱いをしており、それによってロイヤリティを高めています。

また、多くの本も出版し、世論形成に影響を与えています。

教育事業として、様々なプログラムを行えるよう、セミナールームも充実しています。

自前でファンドレイジングしながら、調査研究し、それを出版し、教育によって人材開発していく、という機能をパッケージで持っているわけです。独立した非営利のシンクタンクがほとんどない日本は、こうしたアジアの事例も見習わねばならないと思います。

ちなみに、都知事をNPO業界から生み出す、ということは中々今の日本では考えられる状態ではありません。

正直そこまでは社会的影響力を持ち得てはいないでしょう。

そういった意味で韓国のNPO業界の熱さが、少し羨ましくなってしまいました。

追記

ちなみにパク・ウォンスンさんは日本にも何度も来ており、特に日本の生協運動に代表される市民事業に感動し「韓国も日本の市民の力に学ぼう」と言って、韓国のNPO・市民運動に影響を与えたという経緯もあるそうです。意外に繫がりがあるもんです。

(※この記事は2013年11月23日の「駒崎弘樹公式ブログ」より転載しました)

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