生まれて初めて、国会本会議に行きました。
採決はボタンが押されて、賛成多数で可決された電光掲示板を見ました。
その瞬間、6年間が走馬灯のようによぎりました。
【社会運動のきっかけ】
6年前、僕は支援させて頂いている、ひとり親の人たちと話していました。
彼女たちの多くは厳しい経済状況でした。生活保護の受給資格がある方もいました。
彼女達に「生活保護を受けてみませんか?」と水を向けてみたところ、ある方がこうおっしゃっていました。
「大丈夫です。私はもっと頑張れますから」
愕然としました。彼女は既に、頑張りすぎるくらい、頑張っていました。一人で子育てと家事をし、仕事を頑張り、それでも厳しい生活の中で、頑張り続けていました。
しかし厳しい経済状況で暮らす彼女の子どもも、貧困状態になっていってしまい、不利な教育環境となり、大人になった時に貧困になる可能性が高くなります。
何かがおかしい。既存の制度で、支えられていないじゃないか。行政が救えていない人たちを、制度と制度の間に落ちていってしまう人たちを、何かの方法で助けられないのだろうか。
そんな風に鬱々としていた時に出会ったのが、「休眠預金を社会のセーフティネットに」というアイディアでした。
【志の輪が広がった】
初めはぶっ飛び過ぎていて、誰にも理解されませんでした。銀行が許さないでしょ、とも言われました。
しかし、プロボノ調査員の人たちに調べてもらったら、海外ではそれができていることが分かりました。
政治家の人たちに話したら、耳を傾けてくれました。票になるわけでもないのに、志に共鳴し、共に動いてくださる議員の方々も現れました。そして次第に、党を超えた動きになってきました。
この活動をするまで、こんなにも政治家の人たちが熱心に、厳しい環境にいる人たち、子ども達のために動きたい、と思っていてくれることを、僕は知りませんでした。どこかで政治家は損得で動く、と思っていました。違ったのです。彼らも我々と同じ人間で、いや我々以上に社会正義に対し、熱い思いを持っていたのです。
NPOの人たちも、ファンドレイジング協会の鵜尾さん・鴨崎さんを中心に、多くの仲間達がムーブメントを支えてくれました。20回を超え、全国各地で議論を行うイベントを開き、休眠預金を活用し、人々を助ける仕組みについて議論しました。
新しいお金の流れを、未来のために必要な循環を、と青臭く議論するのが、どんなに楽しかったか。彼らなくしては、とっくに心折れていたでしょう。
また驚くべきことに、ノーベル平和賞受賞者の、ムハマド・ユヌス氏も来日し、日本の休眠預金活用を応援してくれました。
官僚の方々も、法的に気をつけるべき専門的なことを、たくさんアドバイスしてくれました。
本当に、自分一人だったら、絶対に実現し得なかった。官民を超えた、職業や年齢、専門性や立場を超えて、志で繋がった人たち、「みんな」で生み出せた仕組みだ、と心から感じます。
【休眠預金活用の概要】
結果として、100%ではありませんし、一部課題は残りますが、とても良い法律が生み出されました。
(どんなところが具体的に良いところか、別記事で解説します)
預金者にはいつでも返金に応じ、預金者の権利は完璧に守ります。一方で、永久休眠する預金を、セーフティネットを生み出すことを、預金者たる国民に還元していきます。特に、既存の制度では支援できていない人々へのサポートに、お金が使われます。
国の一般予算に入れてわけが分からなくなってしまうのではなく、休眠預金活用だけを行う財団を設置し、透明性高く配分に特化した事業を行います。お金は地域で活動する福祉団体やNPO等が行う、困っている人たちを支える活動に助成・融資されます。
財団は内閣府からのチェックを受け、健全な運営を行うことになっています。
休眠預金の規模では、世界最大の社会的ファンドになります。この仕組みが、日本に新たなセーフティネットを生み出していくことになります。
【むすびに】
この先、政府の審議会が開かれ、有識者達の議論が行われて、制度設計がされていくでしょう。
神は細部に宿るので、その議論がオープンかつ公正に行われ、良い制度づくりに繋げていって頂きたいな、と思います。
この仕組みが、多くの声なき人々の支えになることを、強く祈っています。
そしてこれまで力を貸してくれた、すべての人たちに心からの感謝を伝えたいです。ありがとうございました。
(2016年12月3日「駒崎弘樹公式サイト」より転載)