転勤強制は社会の敵

地方創生と言われておきながら、東京の人材を地方の支店に送り続けて、現地の雇用を生み出していないわけです。

こんにちは、「働き方革命」という本を8年前に出して、時代を先取りすぎて全然売れなかった駒崎です。

さて、労働政策研究・研修機構が行なった調査がニュースで報じられました。

「転勤」めぐる実態調査、"結婚・育児・介護がしづらい"

ズバリ言いますと、転勤強制は長時間労働同様、社会の敵です。

年号が変わる前に叩き潰さねばならないものです。

その理由をお話しましょう。

【結婚・出産・介護しづらく】

記事にもあるように、多数の人が転勤によって、結婚・出産・育児・介護がしづらくなると答えています。

そりゃそうです。お互い働くカップルがいたとして、彼氏が急に転勤になって、いつ帰ってくるか分からなくなったら。

結婚のためには、どちらかが仕事を辞めて恋人のもとに行かねばなりません。結婚のハードルがいきなり上がります。

出産も、親も知り合いも誰もいない中で子育てしなくてはならなくなり、ハードルが高くなります。とりあえずどうなるか分からないから、産み控えよう、となります。

介護も、老いた親を知らない土地に連れて行かねばならず、ものすごい負担がのしかかります。

まさに少子高齢社会を加速させる、社会悪と言えるでしょう。

【ワンオペ育児・ワンオペ介護の量産】

子どもや介護を必要とする親がいた場合、家族全員での転勤は困難になります。その場合、夫だけが転勤する「単身赴任」が選択されます。これで問題解決、と思いきや、そうではありません。

残された母親には、ワンオペ育児・ワンオペ介護が待ち構えています。ことによっては、育児と介護が重なる、ダブルケアも。母親は当然働けませんし、育児や介護、あるいはその両方で忙殺されます。

孤独な育児(や介護)は精神を蝕みます。育児鬱やイライラ子育て、ことによっては虐待のリスクを高めていきます。親にとっても、子にとっても良くないワンオペ育児が、単身赴任によって量産されていくのです。

【現地雇用が進まない】

地方創生と言われておきながら、東京の人材を地方の支店に送り続けて、現地の雇用を生み出していないわけです。現地で雇用したスタッフに仕事を担ってもらえば良いだけではないでしょうか。「地方には優秀な人材がいない」「育成コストがまかなえない」等、様々な言い訳はあるでしょうが、僕も経営者ですが、それは企業努力で克服可能だと思います。

【企業はフリーライダー】

このように、転勤強制が、結婚率を下げ、出生率を下げ、ワンオペによる育児介護負担を増して少子高齢化を促進させたとしても、企業は余計にかかった保育・介護等社会保障に対するコストは支払いません。

なぜならば、そうしたコストは直接的、短期的には見えないからです。どれだけ結婚できなかろうが、子どもが産めなかろうが、介護が辛くなろうが、そこは家庭というブラックボックスの中の、個人的な悲劇として処理されます。

【なぜ転勤強制ができるのか】

働き方改革の伝道師(で、僕とも共著「ワーキングカップルの人生戦略」のある)小室淑恵さんはこう語ります。

日本の正社員制というのは、メンバーシップ制度であり、契約に基づいたジョブではないため、「なんでもしてね。じゃなきゃメンバーじゃないよ」ということが可能だ、という指摘です。まさに、日本型雇用の「病」の象徴としての転勤強制なわけです。

【企業は変われるか】

こうした社員のために全くならない転勤を、「拒否できる」制度を導入しているのが、カルビーです。カルビーは働き方改革を進めながら、さらに業績を伸ばしている会社です。

カルビーのような時代の先を見ている企業は、続々と転勤強制を辞めていくでしょうが、多くのそうでもない企業はしばらくは変われないと思うので、犠牲者をこれ以上出さないためにも、労働時間規制・インターバル規制とともに、何らか規制していくことが求められるでしょう。

あるいは少子高齢社会を進め、社会に余計なコストを支払わせるものとして、転勤1件あたりいくら、という税を取っていく等の施策が必要になっていくでしょう。

2017年は働き方改革元年として、我々の意識に埋め込まれた、でも実は害悪を撒き散らす「働き方の常識」をアンインストールしていけるか、が問われていくに違いありません。

(2017年1月16日「駒崎弘樹公式サイト」より転載)

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