【新たな子ども・子育て支援制度が始まります!】公定価格が決定しすべての骨格が決まる

今後ますます少子化が進行するおそれのある日本にとって、この新制度を最大限効果的に活用しなければ、安心して子どもが育てられる社会の実現から遠ざかってしまうことになる。
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公定価格が了承。制度の骨格固まる

いよいよ4月から開始される「子ども・子育て支援新制度」。都市部における待機児童解消に向けた保育の量の確保だけではなく、配置基準の改善や保育者の賃金の引き上げなど質の改善を同時に実施する制度となっている。今後ますます少子化が進行するおそれのある日本にとって、この新制度を最大限効果的に活用しなければ、安心して子どもが育てられる社会の実現から遠ざかってしまうことになる。

今回の新制度は、多額の財政措置が必要となることから、消費税が10%に増税される段階で7,000億円の財源を確保することになっている。これまで消費税から社会保障費に回されていたのは、年金・医療・介護だけだったことを考えると、子ども・子育て支援予算が安定的に確保できることは大きな意味を持つ。消費税増税の18ヵ月先送りによって、2015年度の段階で必要とされていた0.5兆円の予算確保が不安視されていたが、新制度を予定どおり実施することを判断した政府は15年度予算(案)において0.5兆円を確保した。ただし、同会議において示された新制度のパッケージをすべて実施すると1兆円超の財源が必要となるが、残念ながらその財源については依然として確保できる見通しが経っていない。

2月5日に開催された内閣府「子ども・子育て会議」では、新制度を開始する上で最後の課題となっていた公定価格が議論された。幼稚園団体を代表する委員からの反対意見が出されたものの、最終的には全委員から了承が得られる形で議論が取りまとめられた。具体的な運用については、新制度の実施主体となる市町村で策定した「子ども・子育て支援事業計画」に基づいて進められることになる。市町村は国が示した公定価格における給付額とまったく同じ額に設定する必要はないが下回ることはない。市町村が独自に確保した財源によって、例えば保育料も国が示した額よりも安く設定できたりする。各市町村がどんな事業計画を描き、どんな子育てを実現したいのか。その地域性を発揮することも重要になるだろう。特に、人口減少が著しい地方において、まちを活性化する1つのツールとしてこの事業計画を策定することが求められる。現在、各市町村においてこの事業計画が策定される段階にあるが、是非、自分が住んでいる自治体の事業計画の内容について関心を高めてもらいたい。パブリックコメントが市町村から出されている場合もあり、そこで意見を言うことも大切なアプローチだ。

今回の会議で了承された公定価格では、昨年5月に同会議で示された公定価格の仮単価において問題となっていた点について、以下のような改善が行われた。

  1. 現行の幼保連携型認定こども園が新制度に基づく幼保連携認定こども園に移行する場合における施設長の人件費の経過措置
  2. 大規模園の実態を踏まえた加配加算の見直し(1号※1定員に係るチーム保育加配加算)
  3. 小規模保育B型の保育士以外の職員の人件費単価の改善
  4. 事業所内保育事業に対する減価償却費加算

※1 1号・・・幼稚園に通わせる幼児(3~5歳児)のこと

※2 小規模保育B型・・・定員が6~19名の小規模保育のうち1/2以上保育士の小規模保育のこと(保育所と同様、保健師または看護師の特例を設け、保育士以外には研修を実施することになっている。)

1については、仮単価で示されていた施設長1人分の人件費では、認定こども園を経営的に存続できないと判断する施設が相次ぎ、「認定」を返上するという動き(つまり保育園と幼稚園に分離する)につながっていたことから、これを防止するための措置で経過措置として施設長2人分の人件費が認められることになった。

また、14年度人事院勧告に伴って国家公務員給与が改定された結果、保育士に対する人件費も2.0%引き上げられることになり、質の改善ですでに確保されている3%の賃金引き上げを合わせると、5%の賃金引き上げが行われることになった。ただし、保育士については、現在実施されている「保育士等処遇改善臨時特例事業」により、すでに2.85%賃金が引き上げられており、実質的には2%強の引き上げに留まる。1兆円超の財源が確保された段階においては、5%の賃金引き上げが盛り込まれており、保育者の安定的な人材確保に向けた努力は今後も必要になるだろう。地方の私立保育所などでは、10万円前後の月収しか得ていないというケースもあり、保育者が安心して働ける環境を新制度が担保しているということを多くの人に知ってもらいたい。

そのほか公定価格の詳細については、下記をご覧いただきたい。

・子ども・子育て会議(第22回)、子ども・子育て会議基準検討部会(第26回)合同会議

<会議資料>

<動画>

周知徹底が何よりも大事

筆者も利用者を代表する形でこの子ども・子育て会議の委員となり、2年余りの間、新制度構築に向けた議論に参画してきた。しかし、まだまだこの新制度が広く一般に知られていないという現状にある。消費税の財源が活用されたある意味画期的な制度であり、子育て世代に限らず、その地域に住む住民がこの新制度への関心を高めていく必要がある。そうでなければ、消費税増税についても理解されない状態が今後も続いてしまうことになるだろう。

筆者は昨年11月に開かれた経済財政諮問会議の点検会合において消費税増税を先送りせずに予定どおり実施すべきと表明した。ただし、本来的には所得税の累進課税を強化すべきだという思いがある。格差を是正させるために、最も直接的に再分配を実現できる制度だからだ。3人の子どもを育てるひとり親の筆者にとっても、消費税増税は家計に与える影響は大きいと痛感している。しかし、現在の日本において消費税を上げずに所得税で対応するという議論を取りまとめるには非常に大きなハードルがある。現政権の状況を考えると、非常に難しいのではないかと思う。少子化の問題も深刻化する中で、消費税増税によって社会保障を充実させることが、格差是正にとっても近道であろう(というよりも、現政権がしばらく続くことを考えるとそうせざるを得ないと言うべきであろうが)。消費税増税については、自民、公明、民主の3党で合意されたものということも踏まえなくてはならない。現実可能な施策を選択する中で、少しでも低所得世帯やひとり親が安心して子育てができる環境に近づけなくてはならない。

民主党政権時代に保育所や幼稚園をすべて「総合こども園」に移行させるという構想が進められたが、最終的に自民、公明、民主の3党の合意により、認定こども園、幼稚園、保育所が共存する制度となった。さらに、小規模保育なども認可制度となることで複雑化し、非常に分かりにくい制度になってしまった。ただ、裏返せば、多様なニーズを受容できる制度となったとみることもでき、それを理解してもらうためには、利用者支援という観点と、周知啓発に力を入れる必要があるだろう。筆者も会議の中で、再三その旨を発言してきた。

しかし、この制度が開始されなければ、保育の量の拡充及び質の改善を図ることも難しく、繰り返しになるが、低所得者層やひとり親にとっては子育てすることがさらに困難な社会になってしまうおそれがある。また、これから子育てをする世代にとっても、まずは安心して子どもを預けられる場所を確保することが重要であり、それを実現することができる制度が始まることを広く理解してもらうことが重要になる。

急ピッチで作った制度であるため、運用をしていく中で問題点も多々出てくるであろう。PDCAサイクルを回しながら、逐一ブラッシュアップしていく必要があるものと考える。

その前提として、国民レベルでの関心の醸成は必須課題だ。特に、まちづくりの柱として子育て支援は欠くことができないもの。新制度が始まることをきっかけにして、自分たちのまちをどうするのかを考える契機にしてほしい。また、地方創生も本格的に動き出そうとしている。「ひと・まち・しごと創生総合戦略」も昨年末に閣議決定されたが、地方創生のラインと子ども・子育て支援のラインを有機的に連関させていかなければ、お互いの施策が場当たり的なものに終わる可能性が高い。

とにもかくにも、4月から新たな「子ども・子育て支援制度」が始まってしまうのだ。この制度の内容について、今後も様々な角度から引き続き紹介していきたい。

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