1月29日に高裁那覇支部で辺野古代執行訴訟の第3回口頭弁論が行われた。
この訴訟は、仲井眞沖縄県知事(当時)による辺野古埋め立ての承認を、
翁長現沖縄県知事が取り消した件で、
国がその取り消しの撤回を求めて、沖縄県を提訴したものである。
今回の弁論終了後、
多見谷寿郎裁判長は突然、和解を勧告した。
誰も予想しなかった展開に法廷全体に驚きの声が上がった。
この裁判では、
2月15日に翁長知事、同29日に稲嶺名護市長の証人尋問が行われ、
その尋問終了後、直ちに結審する。
そして、結審までに和解案の扱いを決めなければならない。
和解が成立しなければ、4月13日に判決が言い渡される。
多くの関係者は、日米安保条約に関連する訴訟だけに、
国に有利な判決を予測する。
和解勧告の内容は非公表だが、二つの案があると言われる。
そのうち「暫定案」と呼ばれるものは、
国が提訴を取り下げ、工事を中止し、国と県が協議するという内容である。
この案には、沖縄県への配慮が目立つ。
ただし、昨夏に辺野古工事を1か月中断して国と県が協議したが、
結局平行線に終始し、成果はゼロであった。
そのため、この「暫定案」に対して、
同じことを繰り返すだけだという批判がある。
「根本解決案」と呼ばれる第二案は、
県が埋め立て承認取り消しを撤回し、辺野古基地の建設を認めたうえで、
同基地は30年後には返還されるか、軍民共用空港にするというものである。
この案は、辺野古基地建設を認めるという点で、
やや国に配慮した案とも言え、
辺野古阻止を公約としてきた翁長知事は絶対に合意できない。
国にとっても、
30年の使用期限や軍民共用を米国政府に要求することは難しい。
また、たとえ軍民共用が認められても、
辺野古基地の滑走路は1,600mで、民間空港の基準とされる2,000mより短く、
実用性に疑問が残る。
国も県も和解案への態度をまだ明らかにしていないが、
二つの和解案とも、
上記の理由から、国と県の双方が合意する可能性はほとんどない。
このような実現性の薄い和解案を、なぜ高裁は勧告したのか。
司法や行政の専門家によれば、多見谷裁判官は、
辺野古問題を司法の場へ持ち込む前に、
国は県と十分な協議を行っていない、つまり訴訟要件を満たしていない
と判断したのではないかという。
宜野湾市長選挙での大敗の結果、翁長陣営は逆風にさらされている。
辺野古工事に反発する県民感情に訴えるために、
翁長知事が多用してきた「差別」や「魂の飢餓感」、「政治の堕落」などの表現も、
マンネリ化し、効果が薄れつつある。
穏健な県民の間には、「辺野古疲れ」の兆候すら見える。
だが、この和解勧告を奇貨として、
翁長陣営は形勢を変えられるかもしれない。
国は、一貫して、
普天間基地の移設先は辺野古が「唯一の選択肢」だと断言している。
翁長陣営が、今後の証人尋問の中で、
この国の主張を、説得力をもって具体的に反論し、
そのうえで、暫定和解案を受け入れ、国と協議する姿勢を打ち出すことができれば、
状況が変わる可能性がある。
ただし、翁長知事、稲嶺名護市長や陣営の中核メンバーが、
感情的な主張から具体的な政策論争へと、
発想の根本的な転換をはかれるかどうかが、問題であろう。
安倍政権には余裕がある。
国は、宜野湾と辺野古という二つの地元の民意を、
手中に収めつつあるからだ。
まず、宜野湾市長選に勝ち、普天間基地の地元の民意を確保した。
さらに、辺野古工事の現場に近接する久辺3区と呼ばれる集落の関係者を、
2月初旬に岩国基地の視察旅行に招いている。
新基地建設後のモデルを直接見聞してもらい、辺野古容認へと誘うためだ。
この視察には、
同集落で最も強硬に辺野古反対を唱えてきた久志区の関係者も同行した。
着々と、翁長陣営の外堀を埋めつつある。
『産経新聞』によれば、国は辺野古工事を春先まで延期するという。
工事は急がず、
6月の県議選、7月の参院選の準備を優先している姿勢は明らかだ。
沖縄出身でアイドルグループSPEEDの今井絵理子氏を、
自民推薦で参議院議員選挙に比例区で立候補させるのは、その一例である。
二つの選挙に自民系が勝てば、
「オール沖縄」の翁長陣営は自壊すると見ているからだ。
翁長陣営が、数少ないチャンスを活かして巻き返せるか、
それとも、とどめを刺されるか。
「普天間・辺野古問題」の最終局面が近づいている。