温暖化対策はまず『エアコンを切ること』から~APPF総会での発言より~

先週、メキシコのリゾート地、プエルタバジャルタで行われたアジア・太平洋議員フォーラム(APPF)総会に参加しました。APPFは中曽根康弘元首相が主導し、1993年に設立した国際会議です。私は日本の国会代表団の一員として様々な会議や会談に出席し、第三回本会議の「気候変動対策における協力並びに自然災害の予防及び」というセッションでは、横浜市長の経験も踏まえて次のように発言しました。

先週、メキシコのリゾート地、プエルタバジャルタで行われたアジア・太平洋議員フォーラム(APPF)総会に参加しました。APPFは中曽根康弘元首相が主導し、1993年に設立した国際会議です。私は日本の国会代表団の一員として様々な会議や会談に出席し、第三回本会議の「気候変動対策における協力並びに自然災害の予防及び」というセッションでは、横浜市長の経験も踏まえて次のように発言しました。

以下、全文をご紹介します。

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議長、発言の機会を与えていただきましてありがとうございます。日本の国会代表団、衆議院議員の中田宏です。

皆様にお尋ねしたいと思いますが、横浜市という市をご存知でしょうか。日本を代表する港町である市でありますが、私は横浜市の市長を2002年から2009年まで務め、各国の自治体と交流してまいりました。その一つがアジア太平洋都市間協力ネットワーク、通称シティネットという、アジア太平洋地域の都市間における問題の改善や解決を目指す国際組織の取り組みであります。

私は横浜市長就任と同時にシティネットの会長に就任しました。シティネット会長に就任して3年目の2004年12月に皆様もご記憶にありますスマトラ沖大地震及び津波が発生しました。シティネットの会員都市の多くも甚大な被害をこの時受けました。私はまず事務局職員を現地に派遣し、被害の実態やどんな支援を必要としているのか、調査するよう即刻指示をしました。そしてその調査結果とそれまで横浜市が培った経験を踏まえてスリランカとインドネシアの公共施設を再建し、さらに被害が最も大きかったインドネシアのバンダ・アチェ市に対して横浜市から二次にわたって都市計画や道路、水道整備の専門家を派遣しました。

バンダ・アチェ市の被害は甚大で津波によって市役所職員の3分の1の方が亡くなられ、技術者が不足しておりました。横浜市からの職員の派遣は非常に役立ったという評価をその際にいただきました。この経験を生かして翌年10月のパキスタン大地震でもシティネットと横浜市が協力して専門家の派遣を含む復興支援を行いました。

先ほど伊東良孝議員(自民党衆議院議員、国会代表団メンバー)からも発言があったように、日本も3年前の東日本大震災の際には、ここにおいでの多くの国々からの厚い支援をいただきました。災害時における地域間協力の重要性というものを我が国日本としても再認識したところです。ご支援いただいた国や都市の皆様に対し改めて感謝をこの場で申し上げるとともに、今後もこうした地域間協力を充実させていくために私も尽力していきたいと考えています。

今回のもう一つのテーマは気候変動対策です。地球温暖化やそれに伴う気候変動及び海水面の上昇など、環境に関する問題は地球規模で対処すべき大きな問題です。私はCO2による温暖化をはじめとするこれら環境問題は、すべて我々の生活に起因するものであると考えています。

我々が生活すると必ず廃棄物が生まれますが、環境問題を考える上で避けて通れないのがこの廃棄物、つまりゴミの問題です。我が国は1960年代から高度経済成長を遂げ、大量生産、大量消費社会となりました。しかし、暮らしが豊かになった一方で、この時期から企業などの工場や家庭から出るゴミの量が急激に増加し、ゴミ問題は深刻になりました。ゴミの排出量は現在、高度経済成長の前に比べて数倍に我が国では増えています。様々な取り組みでここ10年ほどは減ってきていますが、大量のゴミは燃やした際には有害物質が発生しますし、埋め立てた際は土壌汚染、埋め立て場所の確保など様々な課題を引き起こしています。

私はこの問題を解決しようと考え、横浜市長就任直後に「G30行動宣言」を発表しました。G30とはゴミ(Gardage)の30%減量のことで、その柱としたのは家庭ゴミの分別の厳格化です。具体的には、従来横浜市ではゴミを全く分けずに捨てていましたが、私は制度を改変し合計15品目に分別収集するシステムをつくりました。15品目とは燃やすゴミ、燃えないゴミ、乾電池、スプレー缶、缶、瓶、ペットボトル、小さな金属類、プラスチック製包装容器、古布、段ボール、新聞、紙パック、雑誌、粗大ゴミというふうにカウントをします。分別した資源物は様々な形でリサイクルする仕組みを構築しました。

市民にとって手間のかかる面倒なものであり、370万人の人口を抱える日本最大の基礎自治体の首長としては難しい決断でした。実際に当初は市民から多くの反発を受けました。しかし、結果的に私が退任した2009年度には、就任前の2001年度に比べて市全体のゴミの量が42%減るという状況になりました。

この取り組みは廃棄物の量が減っただけでなく、市民の消費行動にも影響を与えました。手間をかけて分別することを前提に、消費するように変わったわけです。実際に過剰包装を断ったり、エコバックを使ったりする事例が増え、不要な消費を抑制することにつながりました。結果的に多くの市民から「このような取り組みにしてくれてよかった」という評価の声をいただきました。市民にとって廃棄だけでなく、消費について考えるきっかけとなったことは非常に効果的だったと考えています。

途上国では豊かになるにつれてモノの消費が急増していますが、他方で廃棄物処理メカニズムの整備が追いついておらず、結果として地域環境が悪化しているケースも多く見られます。例えばインド洋に浮かぶモルディブ共和国においては小さな島ばかりで土地が乏しく、ゴミの問題が深刻となっています。これまで首都マレの西4マイルに位置するティラフシ島に国中のゴミを捨ててきましたが、結果として「ゴミの島」となってしまい、ゴミに含まれる有害物質による環境問題が生じています。華やかなリゾートの地の裏側で起きているこうした問題にも、我々は目を向けなければいけないと思います。

生活の質の向上のために消費は重要ですが、その裏側にある廃棄の問題も一体的に考えなければなりません。地球全体で持続可能な生活を維持していくためには、これまでの社会のあり方や我々のライフスタイルを見直し、多少の不便があっても地球にやさしい生き方を進めていかなければなりません。ちなみにこの会議場も昨日から寒すぎるほどエアコンが入っていると感じるのは私だけでしょうか。環境問題を解決するためにはグローバルな視点を持ちながら、市民一人一人が足元から実践していくことも重要です。私が横浜市で実践したように、地域やコミュニティの活動が社会のシステムや技術と連携することにより、いわゆる循環型社会が構築されると考えます。

最後に今後も地球規模での循環型社会の構築に向け、私たちに何ができるか、皆様と一緒に考え、行動してまいりたいと考えています。ご清聴ありがとうございました。

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私の発言後、議長から「寒いという声があったので、午後からエアコンを切りました。エネルギー消費を減らすことは重要です。米国でもそうですが、やはり市長をやった方の話は示唆に富みます」とのコメントがありました。環境問題は身近なところから積み上げていかなければならないと改めて感じました。

(1月19日の「中田宏のオピニオン」より転載)

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