スー・チーさんの選挙大勝利は吉か、凶か

おそらくNLDの歴史的な大勝利となる選挙の結果がミャンマー/ビルマにとって吉と出るのか、凶と出るのかの先行きが不透明です。

ミャンマー/ビルマのアウン・サン・スー・チーさん率いる最大野党NLDの勝利がほぼ確実になりそうで、お祭り騒ぎになっているとか。選挙結果を受け、果たして誰が大統領になり、また政権体制がどうなるのかに焦点が移ってきます。ミャンマー/ビルマは、日本との友好関係も深いだけに結果の行方が気になります。

実際のところは現地に行かなければ感触が掴めないのでしょうが、果たして、おそらくNLDの歴史的な大勝利となる選挙の結果がミャンマー/ビルマにとって吉と出るのか、凶と出るのかの先行きが不透明です。

ミャンマー/ビルマはアジア地域のなかでは遅れて経済成長してきたわけですが、石油、ガス、鉱物、木材、水力、石炭などの天然資源が豊富にあり、豊かな労働力とインド洋への玄関口として地政学的価値もあって、今や力強く経済成長しはじめています。

2015年は、7月以降に豪雨災害、中国経済の減速、また総選挙の行方の様子を見るために投資を控える動きが出ていることもあって、世界銀行の予測では、2014年の経済成長率8.5%から減速し、6.5%にとどまるとしていますが、まだまだ成長が続くだろうと期待されています。

経済が豊かになりはじめ、2011年には民政移管され、民主化に向けた流れが生まれてきました。しかし、過去の軍事政権時代の圧政への国民のトラウマもあって、軍部の影響を払拭する変化、政権交代への気運が高まり、その期待が民主主義のシンボルであるスー・チーさん一身に集まっています。

しかし懸念されるのは、長らく軍事政権体制が続き、またスー・チーさんが自宅に監禁状態にあったために、スー・チーさんやNLDの指導者には政権を担当した経験がなく、能力が未知数だということです。

現在の憲法では、家族が外国籍のスー・チーさんには大統領になる資格がなく、また四分の一の議席をもつ軍部とどう折り合いをつけるのかもわかりません。大統領の資格をもたないスー・チーさんにかわって大統領になる人材がはたしてNLDにいるのかもわかりません。

そして、もしなんらかの軋轢によって、組閣と議会の大統領選出にかかる時間が長びけば、経済にも大きく影響してきます。

不安材料はあるとしても、民主化によって、軍隊と国民の融和の流れが生まれることが期待されている一方で、少数民族問題、しかも宗教もからんだ対立が深刻化してきています。仏教徒集団「ボドゥ・ボラ・シーナ」が、少数派イスラム教徒ロヒンギャ族に虐殺行為を繰り返しているというやっかいな問題も起こっています。

民主化一本を貫いてきたスー・チーさんは、今後の経済政策だけでなく、こういった新たな対立に対してどのような問題解決の道筋を示せるのかも試されてきます。スー・チーさんは、「民主化」のシンボルだけでなく、「国民一体化」のシンボルとしての役割を果たさないといけません。

もちろん、ミャンマー/ビルマの民主化は先進国にとっては歓迎すべきことです。しかしアラブの春は、決していい結果を生んだとはいえません。スー・チーさんが、長い間対立してきた軍部との協調をはかるだけでなく、民族や宗教の対立を緩和するスタンスに立てるのかどうかが気になりますが、戦う女性リーダーから、対立を包み込む女性リーダーへのスー・チーさんの変身に期待したいものです。

(2015年11月10日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)

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