テレビ局の現場はよくやっている。だけどテレビ産業は成長しない

NHKの連続TV小説は意外性による「サプライズ」が視聴率を回復させてきていますが、安倍内閣の成長戦略に欠けているのは鮮度の高い話題となるサプライズです。

最近おもしろい現象だなと思ったのが、NHKの連続TV小説の今放映している「あまちゃん」の人気が高いことです。8日放送分の視聴率は20.5%もあったといいます。同じ8日の「AKB48第5回選抜総選挙」は瞬間最高視聴率は32.7%とはいえ、番組枠の平均視聴率は20.3%でした。さらに10日放送分の最高視聴率も22.1%と、時間帯を考えると、「あまちゃん」の視聴率の高さというか人気のほどがわかります。

おそらく「あまちゃん」を見ている視聴者の大半は、「AKB総選挙」というのがあることは知っていても、まったく関心のない人たちだと思うのですが、産経ニュースが指摘しているように、アイドルづくりをイベント化した「AKB総選挙」と、アイドルづくりをドラマに取り込む「あまちゃん」には内容が共通しているところや視聴率が似通っているところも興味深いところです。

主人公のアキ(能年玲奈)が使う、岩手県の方言、「えっ?!」と驚いたり感動した時に使う「じぇじぇじぇ」が話題になり、今年の流行語大賞を取りそうな勢いなのには驚かされます。実際カワイイですね。

しかしまあ、NHK朝の連続TV小説の努力も敬服します。よく思い切った路線変更を行なってきたものです。まずはテーマが「過去」から「現代」へと大きく変化してきたことと、「純と愛」あたりからは、人の心が読めるという「リアリティ重視」から大きく逸脱した「ありえない話」がでてきたり、つくられた「面白さ」が目立つようになってきました。

また「あまちゃん」では隅々で発見すれば面白い小ネタが散りばめられてきているところも人気を高めているのかもしれません。

「あまちゃん」はおそらく視聴層を広げたと思います。話題になって、はじめてNHK連続TV小説を見るようになったという世代の人もいらっしゃるのではないでしょうか。

よくやっていると思うのは、実はNHK朝の連続TV小説は視聴率から見れば、斜陽番組だったのです。1983年に放送された「おしん」はNHK朝の連続TV小説としては最高の平均視聴率が52.6%でしたが、それをピークに長期的には下降傾向にありました。

社会実情図録に、NHK朝の連続TV小説の平均視聴率の推移のグラフがありましたが、2009年を底に、かつてほどの視聴率はとれないにしても、視聴率が回復してきていることが見て取れます。現場は創意工夫で頑張っているのです。

テレビ番組も時代や世相の変化に対応する「変化対応」業だということでしょう。きっと視聴者の比率では多いと思われる高齢層も世代交代が徐々に進み、嗜好の変化も起こってきているのだと思います。

しかし、テレビ番組をめぐっては、こういった努力ではカバーできない構造変化が起こってきていることも見逃せません。GarbageNEWSが、博報堂のメディア定点調査結果を掲載していますが、若い世代はテレビ視聴時間が減少し、PC、とくにスマートフォンなどのモバイルからのインターネット視聴時間の比率が上昇してきています。

たとえば20代男性の一日のメディア接触時間のシェアでいえば、2008年にはテレビ視聴は38.6%ありましたが、2013年には28.5%に低下し、インターネット視聴は、40.5%から 54.7%に増えてきています。今やテレビ視聴を支えているのは50代以上の女性というのが実態といえそうです。

こういった変化にテレビ局も適応し、局によっては、現場の努力で業績を伸ばしているところもあります。しかしそれがやがて仇になってくる可能性が極めて高いのです。なぜなら現場努力でやればなんとかできるという意識が生まれ、改革を遅らせるからです。

視聴者のメディアをめぐる生活変化の激流は、現場努力でカバーできるものではなく、若い世代の接触するメディアが、テレビからインターネットに移り変わっていく傾向は、スマートフォンの普及とともにさらに進んできます。そういった変化に合わせた、ビジネスのあり方、放送のあり方そのものを変化させないかぎり、市場そのものがやせ細って、いつかは破綻するのです。さらに今の努力の成果や今の業績が、危機意識を弱め、変革を遅らせることにもなってきます。

テレビ局は番組制作でよくやっているところもある、広告ビジネスとしてもよく頑張っているところもある、しかしそこに感じられないのは時代変化に切り込み、技術を取り込んで、視聴者のメディア生活をより豊かにしていこうという経営の意志や、ビジョン、また戦略です。現場はよくやっている、しかしなにか迫力のある戦略を感じないというのは、日本の閉塞状況を象徴しているようです。

成長戦略は、新しいチャレンジに積極果敢に向かう社会の意識づくりにつきると思いますが、その象徴として、テレビメディアの変革を促す施策、たとえば、ホームサーバーでもクラウドでもいいのですが、いつでも好きな時間に、好きな番組を、無料で視聴できるようにでもなれば、変化を国民も実感でき、変えることはいいことだというマインドづくりにも役立ってくるのではないでしょうか。

NHKの連続TV小説は意外性による「サプライズ」が視聴率を回復させてきていますが、安倍内閣の成長戦略に欠けているのは鮮度の高い話題となるサプライズです。官僚が霞ヶ関の机上で作文した模範解答をいくらたくさん並べたところで誰も実感できないし、感動や共感を呼び覚ますものではありません。ぜひひとつでもいいので、思い切った成長戦略を打ち出し、サプライズを生み出していただきたいものです。

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