安倍内閣は選挙後が大変そう

アベノミクスは結構博打みたいなものだと感じますが、焦点は「第3の矢」の成長戦略をいかに進め、目に見える効果を作り出せるかどうかです。ただ、いまのところ総花で焦点が定まっていません。

参院選がはじまりましたが、小沢党首が泥まみれの顔で登場する生活の党のCMに驚かされた以外には、これといった盛り上がりもないままに、自公が過半数を取るのでしょうか。ねじれが解消し、政権が安定することは経済にとってはプラスですが、問題はその後に何ができるのかです。野党に選挙で勝つことは現在の状況では容易でしょうが、安倍内閣は経済成長に対する責任が求められてきます。経済政策で成功するためには、産業構造の大改造が必要で、結構大変そうです。

さて、アベノミクスの行方です。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が「朗報の陰に潜むアベノミクスの弱点」のタイトルの社説を掲げています。朗報と言っても選挙の話ではなく、5月の輸出額が前年同月比10.1%増加したことです。円安で3ヶ月連続で輸出額が増えてきています。しかし中味を見ると弱点が潜んでいることが見えてくるというのです。

輸出額は増えたのですが、実は、輸出数量そのものは減少が続いているのです。5月も輸出の数量は対前年同月比で-4.8%で、12ヵ月連続の減少でした。

それは、円安で輸出産業は円による手取り額が増えたものの、円安で日本企業の競争力は回復していないといえそうだからです。円高だから価格が高くなり海外メーカーに競争で負けると言っていた人も多かったのですが、どうもそうではなさそうだということです。

それに、グローバル企業に限らず、海外生産が進んできており、円安になったからといって、ただちに日本の工場の稼働率が高まるわけでも、輸出が増えるということにもならないのでしょう。この点については先月も触れました。

つまり、アベノミクスによる円安政策は、円安によって輸出企業の懐を暖めたこと、それによって株価が上がり、景気回復ムードを生み出しだしたのですが、その恩恵を得た企業各社が積極投資を行い、しかも成果をださないと、やがて反動がやってきます。

なぜなら、一方では円安のマイナス効果も進んできているからです。円安は日本の貿易収支をさらに悪化させます。5月は、同月では最大規模となる9,939億円の貿易赤字となりました。11ヶ月連続の赤字です。もちろん、モノが海外で生産される時代は、経済もモノの売買である輸出から、海外子会社から得られる利益である所得収支に移ってくるので、貿易赤字そのものが悪いというわけではないのですが、円安が輸入物価を押し上げてきています。東電原発事故による原発停止で、原油や液化天然ガスの輸入が膨らみ、エネルギーコストの負担増が起こっています。それが電力料金の値上げにつながり、さらに原材料の高騰が国内産業や消費者を襲いはじめているのです。

今はアベノミクスの効果が株価や設備投資の増加にでていますが、経済成長のないなかでのインフレ進行とか、長期金利の上昇といった負の部分がいつでてくるかがわからない状況がつづいています。アベノミクスは結構博打みたいなものだと感じますが、焦点は「第3の矢」の成長戦略をいかに進め、目に見える効果を作り出せるかどうかです。

ただ、いまのところ総花で焦点が定まっていません。しかも経済を成長させるには、移民政策で少子高齢化や人口減に歯止めをかけることや、産業の質や構造を変え生産性を高め、潜在成長力を上げていくことが求められてきますが、今のところ、そういった政策ではなく、強い農業とか、観光推進とか、医薬品のネット販売解禁といった話題はつくれるけれど、経済成長には直結しない政策しか見えてこない状況です。

おそらく安倍内閣もそのことはわかっていて、手のつけやすいところ、マインドが変わりそうな政策から着手しているにすぎないのであればと願うばかりです。なかには経済成長が必要なのかと言う方もいらっしゃいますが、成長が止まると、この社会はやがて維持できなくことは目に見えています。

安定した政権基盤を生かして、ほんとうの改革ができるのかどうかですが、それは海外からも注視されていることです。期待はずれということにでもなれば、海外の資金が動くのは速く、あっというまに経済失速もありえます。

選挙そのものには、アゴラで書いたように、これで政党政治も終わりかという感想以外にはほとんど関心が持てませんが、選挙後がどうなるのか、ハラハラドキドキします。いい風に変わることを期待するしかありませんね。

(※この記事は7月7日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載しました)

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